ごんちゃん
時間を少し遡りたい。
みつば姐さんが入ってくる少し前の話。
まだ横浜営業所が存在しており、ボクは所長を辞退して、しばらく横浜営業所の所属でパートとして働いていた頃の話である。
当時、横浜営業所には看護師がいなかったので毎回、派遣の看護師が来て仕事をしてもらっていた。
募集をかけても看護師はなかなか入ってこず、求人費用だけがかさんでしまい、けっきょく派遣に頼ることになっていたのだけど、この派遣に関しても費用がバカにはならなかったらしい。
『派遣の看護師だけに頼らざるおえないことも閉鎖を決断した要因の一つらしいよ』
当時、鎌倉営業所の所長で横浜営業所も兼任していた上原さんはボクに教えてくれた。
確かに……人件費は派遣に頼っていると膨大になりそうな気がしないでもない。
それでも、制度上、訪問入浴を行うためには看護師は必須なのだ。
これに関してはどうしようもない。
ただ……
何も閉鎖しなくてもいいではないか……と当時のボクは思った。
というのも横浜営業所は閉鎖前の数か月の間に売り上げが急激に上がっていたからだ。
閉鎖が決まっても仕事は続けなければいけない。
基本的に横浜営業所で受けていた利用者に関しては鎌倉営業所では回れないという判断で何人かの利用者はケアマネジャーに連絡して他の事業所にお願いすることになった。
そんな間にも残った仕事は期日までは責任を持って行う必要がある。
そして現場の仕事にはどうしても看護師に来てもらわなければならない。
だけど社員やパートの看護師はいない。
『悪いけど、鎌倉から出せる人間はいないからそっちでなんとかして』
上原さんはそんなことを言っていた。
丸投げともいえる発言ではあるが、おそらく彼は、ボクが横浜営業所の所長代理を経験した人間なので横浜営業所に関してはある程度、任せられると思ったのだろう。
まあ、足らない人間をどうにかするというのは、そんなに手間がかかることでもないので構わなかった。
鎌倉営業所は協力してくれないし、閉鎖は決まっているから求人もしない。
そうなると派遣の看護師に任せるしかない。
だから、横浜営業所では派遣の看護師に来てもらっていた。
ごんちゃんはそんな折に来てもらっていた派遣の看護師さんで、丸顔でパッチリ二重の可愛い女性だった。年齢もボクに近く、話もそれなりに合っていた。
派遣で来てくれていたのだけど、数回の仕事の末、彼女は直接、会社とパート契約までしてくれて、閉鎖までの間、都合のつく限り来てくれた。
ごんちゃんという名前の由来はNHK教育でやっていた『できるかな』という番組に出てくるごんたくんという着ぐるみに似ていると彼女自身が言っていたからだった。
『ごんたくんですか?』
『そう』
『う――ん……まあ、少しだけ似てなくもないんですけどね……』
『そうなんですよ。少しだけ似てなくもないでしょ』
彼女はニコニコしながら言った。
本人はそんなにこの名前を嫌がるふうでもなかったので、ボクは彼女のことを『ごんちゃん』と呼んでいた。