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恋に恋して  作者: 阪上克利


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ガス欠?

 閉鎖する前の横浜営業所は主にボクと石田さんで回していた。

 石田さんはよく手伝ってくれた。

 彼は自分の会社を(おこ)すことが夢で、『将来、介護の会社を行いたいので勉強したい』という理由で入社してきた。


 派遣の看護師をうまく回しながら、知り合いの伝手(つて)からパートで看護師に来てもらい……営業をして新規の仕事をもらったりして……閉鎖が決まる少し前から横浜営業所は軌道に乗り始めていた。

 閉鎖になったのはたぶんボクが横浜営業所の所長の職を辞した時に決まったことだろうと個人的には思っている。上原さん一人では埼玉から神奈川の管理を任せるのは困難だと本社が判断したのだろう。


 せっかく軌道に乗り始めたのに、閉鎖するという(しらせ)を聞いてボクは石田さんとがっくりしたのを覚えている。


 そうは言うものの……

 本社が閉鎖すると言っているものはどうしようもない。

 だからボクも石田さんも閉鎖の日までは予定通り仕事をこなすことにしていた。


 ごんちゃんは頻繁(ひんぱん)に仕事に来てくれていた。

 少しふっくらして丸顔の彼女はどこかパンダさんを彷彿(ほうふつ)させるような感じがした。


 確かに可愛い。


 今考えても可愛いと思う。

 思い出によって美化されている部分も少しはあるのかもしれないけど、それを差し引いても可愛い女の子だった。


 だけど不思議なことにボクは恋に落ちなかった。

 原因はなぜか分からない。

 やはりタイミングが悪かったのだろうか。

 当時のボクは横浜営業所の所長代理の職をやっとの思いで辞して、気楽なパートになることができた。

 所長代理の時は精神的に病んでいて、ひどい状態だったから、その状態を脱してようやく仕事が楽しくできるようになっていた。


 恋愛にはエネルギーを使う。

 たいした恋愛偏差値ではないが、こんなボクでもそれぐらいは分かる。

 人を好きになるというのは精神的なエネルギーを使うのだ。

 もしかしたらその時のボクは恋愛を楽しめるほどの精神的なエネルギーはなかったのかもしれない。


 年が明けて、1月の寒い時期。

 訪問入浴の仕事はいつの時期もしんどい仕事なのだけど、どちらかといえば冬の方が少し楽だと思う。

 身体を動かすこの仕事はとにかく暑い。

 真冬でも半そでで寒いと思わないぐらい身体を動かすのだ。

 当然、汗もかく。

 だから水分もどんどん出ていく。

 そんな感じだから夏は悲惨で、どちらかと言えば気温の低い冬は少し楽なのだ。


 冬は寒いと同時に空気が乾燥し風邪を引きやすくなる。


 そして少々不謹慎ではあるが……

 訪問入浴を予定していた利用者が熱を出してキャンセルになるということも少なくない。

 全部で7件回る予定だった1日が、気が付けば4件しか行かなかった……ということもあるぐらいなのだ。

 そうするとこちらの身体の負担も軽くなる。

 そして空き時間も増えるのだ。


『次の人、お休みになっちゃったのでちょっと時間が余っちゃうんですけどどうします?』

 ボクは運転席で石田さんとごんちゃんに聞いた。

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