それぞれの道ですっ!!
「今思えば、どうしてあんな戦いをしたんだ、俺は・・・」
元はと言えば、あの少年が攻撃したからであって、俺には何も非はない・・・はずだよな・・・。
零は、大機が惚れているかえでにしつこく声をかけていたため、怒った、ということは思いもしなかった。
その時―――
「前城くん・・・可哀想だよ・・・?」
その声は、どこか聞いたことがある声で。
零が前を向いた先には、愛しの妹、かえでが立っていた。
「い、いや、アレは不可抗力というか・・・」
「詳しいことは、家に帰ってから聞きますっ」
両手を腰に当て、ぷー、と頬を膨らますかえで。だが、その行為がまたかえでを可愛くしているということに、気づいてはいない。
そのまま、かえでは後ろを向き歩き出す。
ほんと、変わったな・・・。
夕陽に輝く、肩まである栗色の髪。可憐で整った顔立ちに、どこか儚さが備わっていて、いわゆる『守りたくなる系』の美少女だ。
すると、かえでは零が止まっていることに気が付き――
「ほら、行くよっ・・・・・・お兄ちゃん・・・・・」
零の方を向いて、呟く。とくに、後ろの方は、聞きいらないと、聞こえないくらいの声で。
だが、零にはそんなのは関係なく。
今、お兄ちゃんて、お兄ちゃんって・・・。
かえでの頬が赤く染まっているのは夕陽のせいなのか、それとも違う何かなのか、零には分からなかった。
「あれ・・・あいつらはいいのか?」
「・・・私は、加也ちゃんの気持ちを優先するから・・・。そこまで空気読めなくないよ」
まぁ、かえでがそう言うなら、それでいいんだけどね・・・。
零と、かえでは、距離は離れながらも同じ道を帰りだした――・・・。
「これはまた、どエライ奴が来よったなぁ~・・・」
野次馬の中である男子生徒が呟く。
その関西弁を使う生徒の視線は、学院内でも可愛いと言われるかえでと、楽しそうに帰っている零一人に向けられていた。
「同じクラスとして、がんばりまへんとね・・・」
男子生徒は、そう言い残して、野次馬の中に消えていった――・・・。
「とくに問題は無し。怪我は両拳のみ。ただし、魔力の残量に問題あり。これから一週間は授業でもなんでも、魔術を使うことを禁止とします・・・」
それは、保健の先生に言われた言葉だった。
野次馬の騒ぎを聞きつけ、駆けてきた先生により、保健室へと運ばれた。
横では、その言葉を噛み殺すようにつぶやく加也が居た。
「・・・ったく、どうしたんだよ。お前らしくもない・・・」
大機を見て、つらそうに顔を伏せている加也に明るく語りかける。
だが、返事は返ってこなかった。
「一週間って、きついよな。どうすんだろう、俺って学校休んでも良いのかな?」
苦笑しながら、大機はなおも語りかける。
「・・・知らないよ、バカ機」
やっと、なんか言ってくれた。でも、なんでこいつこんなに元気がないんだ?
「おいおい、バカ機って、さすがに無理やりすぎだろっ」
「そうかもね・・・」
ほんと元気ないな・・・。いつもなら「バカじゃないの、ムキになっちゃって」って高笑いしそうなのにな。
「・・・バカ機は、無茶、しすぎだよ・・・」
「無茶って、そんなこと―――」
「―――だって、魔力残量、結果で0なんだよっ!?・・・それが、どんな危険なことか、分かってないっ!!」
「そんなに怒鳴ることないだろ?・・・それくらい俺にだってわかって―――」
大機は、静かな口調で加也を落ち着かせようと言の葉を紡ぐ。だが、その言葉はまたしても加也の怒声に遮られた。
「―――分かってないっ!!命に関わるかもしれないんだよっ!?」
そう、魔力を空にすることは、魔術師で言う『禁忌』だ。なぜなら、今加也が言ったように、下手したら、死ぬ可能性もあるからだ。
今はもう大体の人間に個人の差はあるが、有限の魔力が宿っている。それは、使った分だけ、減り、休めば、それを元に戻すことが出来る。
例えるなら『唾液』と同じで、身体の一部のようなものだ。それを、空にするということは、一部を失うということで、身体バランスが大きく崩れることを表す。
「・・・大丈夫だ、今こうして俺が此処にい・・・る―――」
自分の好きな人が俺のようなことをしたらと思うと、加也の気持ちも分からないではない。大機は、なるべく優しく、明るく語りかけようとした。だが、それは、虚しく終わった。なぜなら―――
「加也・・・お前・・・」
加也の目には、大粒の涙が溜まっていたからだ。
「大丈夫・・・なんかじゃないよ・・・。大機は、大機は私にとって、家族も同然なんだよ。その家族が危険な目にあって、全然大丈夫なんかじゃないよ・・・っ」
その悲痛な声と、大粒の涙を見ていると、大機は急に切なくなって、申し訳なくなって、自分でも分からないまま―――
「・・・ごめん」
―――謝っていた。
「・・・こっちこそ、ごめん。あはっ、なんか私らしくないねっ」
涙を袖で拭いて、無理矢理笑顔を見せる。
「私らしくない・・・ねぇ・・・」
「なにさ・・・?」
「い~や、昔のお前が今のお前を見たら、なんて言うかなって」
大機は、気分転換、とでも言うように、笑顔を向ける。
「きっと『こんなの私じゃない』ってわんわん泣くよね」
確かにな・・・。昔のお前はいっつも俺の後ろに隠れて「大機くん、置いてかないで」って言ってたくらいだから。
そう言えば、こいつ、いつから性格が変わったんだっけ・・・。
大機は、記憶をさかのぼる。そして―――
あぁ、そっか・・・。伯父さんが死んだ時だ・・・。
その時、大機の中で一つの可能性が浮かんだ。
そっか・・・。こいつ、死ぬことに敏感になってんだ。だから、俺が無茶したから、怒って・・・。
「どうしたの?黙っちゃって」
「ん・・・?いや、なんでもない」
ったく、お前は、お前でいろいろと、経験してんだな・・・。
大機は、無意識のうちに加也の顔を見つめてしまっていた。
あれ・・・。こいつってこんなに―――
「あれあれ?・・・私の顔なんか見詰めちゃって、恋でもしたかな?うん??」
大機は、視線を天井に向ける。
「そ、そんなんじゃねぇよ・・・大体俺は―――」
「かえで、でしょ?」
「うっ・・・」
くそ、正解だから言い返せねぇ・・・。でも、どうして俺はこいつのことを―――
可愛いと思ってしまったんだろう・・・。
保健室の前に一人の男子生徒が立っていた。身長は、中学生にも見えないだが、その制服は確かに高等部の物で、襟には「S」と書かれた銀色のバッチが付いていた。
「へぇ~・・・そんなすごかったんだ・・・。僕も見たかったなぁ・・・」
その男子生徒は保健室の横にある壁に手の平を当て―――
「『魔術解除』・・・」
その手の平には、あの青い魔法陣が描かれていた――・・・。