均衡を保つもの
不可解な力を持つ少女、巨大な影、このふたつの存在が、一体どんな意味を持つのかーー。
その目で、見届けてください。
瓦礫の廃墟を抜けて辿り着いたその町は、高い壁に囲まれ、不気味なほど静かで、秩序が保たれていた。
人々は恐れと畏怖の入り混じった目で、巨大なライオンを見上げている。
――彼らはその存在をゼロと呼んでいた。
少女はこの場所で、力の存在を隠し、表立って行動しないことを選んだ。
日々の生活は慎重そのものだった。
分けてもらった食事を抱え、町の片隅で身を縮めて眠る夜。
目立たないように過ごすうちに、少女は少しずつこの町に馴染んでいった。
力に頼らなくても、生きていける。
そう思い始めていた。
それでも、心の片隅では、いつか自分の力が必要になる日が来ることを無意識に覚悟していた……。
時折、ゼロは遠くから少女を見つめていた。
人混みの向こう、崩れかけた建物の影。
あるいは、夕暮れに沈む屋根の上から。
決して近づくことはない。
言葉を交わすこともない。
ただ――視線だけは、確かにそこにあった。
少女がふと顔を上げたとき、誰かに見られているような気がして振り返る。
だが、そこには何もいない。
気のせいだと、何度も思い直した。
けれどゼロは知っている。
少女の中にある、あまりにも異質な力を。
隠しているつもりでも、わずかな揺らぎは消えない。
呼吸のように、かすかに漏れ出している。
その気配を、ゼロは見逃さなかった。
ただ静かに、確かめるように見つめ続けていた。
――そして、その日は唐突に訪れた。
いつもと変わらないはずの静かな夜。
乾いた風が瓦礫の間を抜け、埃を巻き上げる。
少女がいつものように歩き出した、そのとき。
ほんの一瞬、たしかに空気が変わった。
次の瞬間――
町の外側で不穏な気配が漂い、低く唸るような音が、壁の向こうから聞こえてくる。
少女の胸がざわつく。
――ただの動物の気配ではない。
壁の外に出ると、まだ生活の痕跡が残る広場が広がっていた。
その奥に、ゼロが静かに姿を現した。
巨大な体を低く構え、全てを見渡す瞳は冷静そのもの。
侵食体の群れが壁に迫るたび、その一歩一歩で脅威を押し返していく。
圧倒的な力。
それでも――数が多すぎる。
少女は恐怖に震えながらも、目を逸らせなかった。
ただ見ているだけでいいのか、と。
胸の奥で、何かが軋む。
力を使えば……
浮かんだ考えを、すぐに打ち消す。
力を使わずとも、静かに、生きていける。
それでも。
目の前で、押し切られそうになるその背中を見たとき、少女は息を止めた――。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この作品は、実際に見た夢を元にしてます。
そのため、現実的な理屈よりも、雰囲気や感覚を大切に描いていきます。
よければ、また次話も楽しんでいただけると嬉しいです。




