表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フロンティア・アイズ・マナ《VRMMORPG世界の侵略》  作者: フィガレット
第10章 アイズロード外伝『ニャーレ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

143/143

宣戦布告

「くっそー。また、森狼の上位種の群れと遭遇してデスポーンしちまった」


 ファスの住人の一人が初期地点の丘から戻り溢した。


「ラーキの集落の方はなにか変わりはあった?みんなでデスポーンしたら必ず見る様にしようって決めた訳だけど」

「いんや、なんも変わってなかったよ。いつも通りなにもしてないんじゃないか?」


 そんな感じで呑気に話していた。ファスはまだ気付いていない。

 ヴィラインが森の奥地で新しい集落を展開しようとしている事を・・・。


 ファスは急激に街に変貌しつつあった。

 エリアを大きく拡充した事により、以前の様な規模ではなくなった。

 この世界では建築は現実よりも圧倒的に楽である。教会を中心とした6エリアを囲う城壁も同時進行で建設されていた。石積みの三メートル程度の壁の上に木ぐいのスパイクを設置。現実では街の定義は5万人規模を言うらしいが、この世界では流石にそれは現実的ではない。ファスは現状五十人を超える人がいた。5人ほどで一つのエリアを持つ計算になるが、どちらかと言うとどの部門に属するか、何をしたいかで割り振られた。一つのエリアは端から端までが1km程度。建物以外にも色々な設備や施設を創る事を考えればゆったりと建物を創れば30軒ほどの建物が建てれるくらいの広さだった。これが9個。教会を中心とした半径1.5kmが新しいファスの街の計画規模だった。


 これを擁壁で囲む、と言う地獄の作業。9.5kmもの長さである。最初から全てを囲い込んでしまうのは現実的ではなかった。住居以外の施設で主要でないものは城壁に組み込まれる形で建物自体がバリケードとなる計画だった。後は「穴を掘った方が早い」という発想もあり、掘った土を固めて土壁にしたりもした。元々あった旧ファスの村は鉄精錬施設の移設が手間だったのでそのまま、クラフト部門のエリアに落ち着いた。フォリスに燃やされたギルドは今度は簡単には燃えない様に石造りでゴンゾウを中心として再建中。


 その様子を、街の中心の教会から眺める事が出来る。


 進んでいく街の姿をファスの人達は実感を持って楽しく取り組んでいた。


・・・


 一方、ヴィライン側では装備を整えたラーキを中心としたゴブリン集落侵攻戦が始まろうとしていた。


「あれだけ煽ったのに、ヴィラインの集落を潰しには来なかった様だね。モリス君、それは悪手だよ。脅威は早期に潰すのが鉄則なんだがね。甘く見られたか、侮ったのか、それとも優しさなんてもので誤魔化しちゃいないだろうかねぇ」


 フォリスはサポちゃんに視覚共有をして貰って、ファスの展望を眺めていた。


「防衛強化を進めるのは悪くない手なんだけどね。今、ヴィラインの集落のギルドを破壊されていたら詰んでいた。情報戦でも相手はこちらを丘から遠目で眺めるだけ。危機感が足りてないなぁ」


 フォリスは戦況を俯瞰で眺める。まだまだ、彼が求める状況とは程遠い様だ。

 

「このままじゃ、ヴィラインの圧勝もあり得るなぁ。それじゃ、詰まらないんだよねぇ。詰むの詰まれるのも困るんだが♪」


 フォリスはサポちゃんの存在をラーキ達にも隠していた。ジョブはバラしたので悪妖精の存在は見せたが「全然、言う事を聞いてくれないし役には立てないかなぁ」と誤魔化していた。


「うまいこと何もしないで傍観できるポジションを獲得したものですねぇ。さすがヒモマスター!」

「ヒモのスペシャリストみたいに言われても、聞こえが悪すぎるんだが?!」


 サポちゃんとのんびりと傍観者を楽しんでいた。視点をコウメイの方へ移してみる。


・・・


「さて、どうやって攻略したものか・・・」


 装備を充実させたラーキで一度、上位種に挑んでみたが取り巻き10匹も同時に相手にした結果、ギリギリの勝利だった。しかし、侵攻戦を宣言していない状態では、すぐにまたリポップしてしまうのでキリがない。予想通りではあったが、1個部隊を倒せる事実は収穫だった。侵攻戦は最長でゲーム内時間の一週間となる。ヴィラインで戦えるのはラーキとテイマー3人とコウメイ。コウメイは戦闘もそこそこ出来る。装備を整えればファスの人達と同等に戦えそうだ。加えて、ギャンブルが成功すれば上位種も倒せる可能性はあった。テイマーは戦闘が不得意な為、何か戦闘に向いた魔物をテイムする必要があった。森狼をテイムした一人は普通のゴブリンを余裕を一人で倒せる程度ではあった。


 悪妖精使いのアンナは戦力外宣告。「無理ー!倒せる訳ないしー!!」と言っていた。


 アクツも普通に戦えるが侵攻戦にはあまり積極的ではない。

 

 これがヴィラインの全戦力。それに対してゴブリンは上位種が五体。それぞれに取り巻きが10体の合計55体。ファスの総力で当たれば殲滅可能と思われたが、この時点でのヴィラインにとっては絶望的な戦力差だった。


 ラーキの連戦が必須となるが、体力と気力が持たない。

 一晩、眠れば基本的には全回復するのでそれを繰り返せば・・・。


「長期戦を視野に入れるか・・・。兵糧攻めもあり得るか?」


 コウメイは悩んでいた。ゴブリンの集落は木製のバリケードで囲われていた。更に森が自然の防壁となる。これはヴィラインの集落よりもよほど強固だった。そして、ゴブリン達のAIは優秀だった。戦況に対して臨機応変に対応してくる。危機が迫れば全ての上位種が連携を取り、優位を取りに来る。


 コウメイは『戦いは始まる前に決まっている』と考えるタイプだった。


「侵攻戦はクリスタルの奪取でも終了する。結果、敵戦力はクリスタルの防衛と敵殲滅の二手に最低でも分かれるだろう。1グループであれば掃討出来るラーキがいる事が敵にもばれているからなぁ・・・」


 敵のAIは本当に優秀だった。侵攻戦前の情報すらも蓄積して臨機応変に布陣を変えてくる。


「この状況から察するに、敵からの侵攻も十分にあり得る。というか始まってると言ってもいいな」


 下級ゴブリンがヴィラインの集落に近い場所でも発見された。

 集落の位置も既にバレている、と考えた方が自然だった。

 

「相手が攻め込んで来た時を狙っての奇襲。しかし、こちらには防衛能力はほぼ無い。このまま攻める姿勢を崩したら・・・一気にこちらが潰されて終わりだな・・・」


 そう、それこそがファスが推し進めている防衛ライン建設の肝だった。

 何が攻めてくるか分からない状況で防御が甘い事は致命的になり得る。

 ヴィラインがゴブリンとオーガの集落の脅威に晒されているのと同じ様に、ファスは黒獅子という圧倒的強者の個体と・・・森狼の集落による脅威に晒されている事を、この時はまだファスの人達は知らなかった。それでも、脅威に対してできる事としての防衛強化。これは結果的には大きな意味を持つ事になる。


 ヴィラインは、まさにジリ貧だった。

 薄い防衛能力しか持たない集落。攻め込まれれば一瞬で陥落しかねない状況。

 その中で、奪いに行くという蛮行。しかし、本当はこの手段しかなかったのだ。

 その事に・・・コウメイは気付いている。


・・・


 一方、視点を戻してフォリスである。


「どう見ても、ヴィラインは詰んでるんじゃないですぅ?なぜにヴィライン圧勝?マスターの頭はどうかしちゃったのですぅ??」


 サポちゃんはフォリスの頭を覗きながら頭の上をクルクルと回り煽る。


「まぁ、普通に表面だけを見れば、ファスの方が優位に見えるだろうね。ヴィラインはゴブリンに仕掛けられたら終わりの風前の灯火に見える」


 まさにその様に思えた。


「しかし、その現状を見えている人がいる。このアドバンテージは場合によっては戦力差をひっくり返す。無数の可能性から勝利を掴み取れる!」


 サポちゃんはフォリスの言っている意味がいまだに分かっていなかった。


「たとえば、二人の子供がお菓子を取り合って、じゃんけんをするとしよう。そして片方はグーしか出せないとする」

「パーを出してれば、その子は勝てませんねぇ。なんでそんな縛りを?」

「そう、しかし実はチョキを出せたとすればどうだい?」

「騙し討ちですかぁ♪わりと好みな戦略ですねぇ!」

「まぁ、サポちゃんの好みはさて置き、更には相手が何を出すかを見てから出すのも手だ」

「後出しですねぇ。それも好みです♪」

「いい性格してるなぁ・・・。加えて、それでもダメだったら、その子供はその握り締めたグーを相手の子供に叩き込むのだ!右ストレートでブン殴るのだよ!!」

「暴力反対ですぅ!ルール無用の残虐ファイターじゃないですかぁ!!」


 つまり彼が言いたかったのは、そもそもの根底として後先考えずにルールを破った方が勝つ可能性が高い、と言う事だった。そして、この世界はまだまだ未完成である。


「倫理観は、共通認識として働いて初めて防衛の意味をなす。獣相手には通用しない。さて、モリス君に勝ち目はあるのかねぇ・・・。とはいえ目前のイベントはヴィラインvsゴブリン集落となりそうだね」

「マスターはこのまま傍観するのです?」

「どうだろうねぇ・・・あ、いまコウメイから通信が入った」


 丁度いいタイミングでフォリスにコウメイからの連絡が入った。

 そこで彼らは何やら打ち合わせをした様だ。


「彼は優秀だねぇ。どうやら少しは働かないといけない様だ。言われなければ動く気はなかったのだから私を動かしたのは彼だ。素晴らしいね。私の実力に確証はなくとも少しは勘付いていそうだ。とは言え、今は誰でもできる雑用を任す、といった感じだね。その判断も好ましい」

 

 フォリスは何やら、勝手に色々と結論を出していた様だ。


「どうやら今晩、もう動く様だよ。まぁ、正解だね。ゴブリンに一方的に攻めて来られたらヴィラインはお終いだ。だからこそ、先んじて動く。コウメイは本当に優秀だな」



 こうして、ヴィラインとゴブリンの決戦が始まるのだった。



 コウメイ達はゴブリンの集落とは別にオーガの集落も発見していた。

 ゴブリンの集落よりも更に離れた位置にあるオーガの集落。

 ゴブリンとオーガは敵対関係にあった。

 

 まず最初に行ったのは、ゴブリン集落への宣戦布告である。


『組織名【ヴィライン】が【ゴブリン集落】に宣戦布告を行いました。これより両陣営は侵攻戦モードに移ります!』


 システムによる通達が両陣営になされた。


「始まったか」


 ラーキは不敵な笑みを浮かべながら呟いた。

 コウメイは戦局を俯瞰で構想する。


「まずは敵戦力の把握だが・・・」


 サポちゃんによる空中からの視覚共有は、まだ誰にもバレていない。

 コウメイ達は敵の状態を正確に知る事は出来ないが前情報として上位種と下位ゴブリン10体の群れが5セットがいる事は把握していた。コウメイは単独でゴブリン集落に潜入した。

 そこで、下位ゴブリン1体と遭遇した。


「下位ゴブリン一体か・・・宣戦布告が終わっても単独でフラついているとはな。削っておくか」


 そう言うと、奇襲を仕掛けた。戦闘はシンプルに剣で斬る。魔法は未だに、一部のローダーがかろうじて相手にダメージを与える程度で使い物にならなかった。

 コウメイの種族はギャンブラー。彼はその特性を活かして戦闘スタイルを確立していた。リスクと試行回数の調整。弱い敵には、低い賭け金で勝負をする。堅実な立ち回り。


 彼は短剣を持ち、ゴブリンの攻撃を見極めながら回避も出来る限り大袈裟に行いながらゴブリンを倒した。


「今回はファンブルもクリティカルもなしで良かった」


 コウメイは一安心する。しかし、敵も情報共有をしている。

 侵入者の情報は行き渡ってしまった様だ。


「恐らくは、この為に下位ゴブリンを分散させたんだろうな。本当に優秀なAIで気が滅入るよ」


 コウメイはそうぼやきながらも、この戦闘を楽しんでいた。

 

 彼は手近な建物に火を放った。


 建物は燃え上がる。ゴブリンの家は粗末なものでとても燃えやすかった。周囲の建物へ燃え移る事も期待したが、そうはいかなかった様だ。燃えるのは一件に止まったが、立ち上がる火は開戦の合図を兼ねていた。


『下位ゴブリン一体を倒した。敵は集落の中に下位を分散させてこちらの出方を伺っている様だ』


 すぐ様に情報共有を行う。そしてコウメイは姿を隠し、敵の様子を伺った。

 すると、そこにホブゴブリン1体と下位9体が集結した。


『やはり組織化した構成をしている様だな。倒された1体の組織がすぐに集まってきたが・・・他は見当たらない。ラーキ、予定通りにここで1セット貰っていくぞ』


 ここで、その状況を集落の外から待機しながら見ていたラーキが動き出した。


「やっと出番が来たか」


 ラーキは満面の笑みで戦場へ飛び出した。

 ゴブリンの集団がそれに気付き一斉にラーキの方を見る。

 そのタイミングでコウメイも動き出す!


 挟撃の形を取るが、コウメイはあくまでも逃げる。

 それを追うのは下位二体。他はラーキの討伐に当たる。

 しかし、ホブゴブリンにはラーキに敗北した苦い記憶がある。

 彼らのとった行動は、援軍を呼ぶ事だった。


 このままでは囲まれる。ラーキがやられればヴィラインは継戦能力など無いに等しい。


「無理はするなよ?」


 コウメイは逃げながらもラーキに向かって叫ぶ。

 そんな言葉は果たしてラーキに届いているのか、いないのか。定かでは無いがラーキは真っ直ぐにゴブリンへと突っ込んで行く。


 1匹、2匹と下位を倒し、ホブゴブリンへと近づいて行った。


 上位種をサポートするべく下位種はラーキを囲みに行く。

 ホブゴブリンもラーキに対して武器を構えた。


 ラーキは・・・冷静だった。


 時間はない。援軍が来て囲まれれば戦局は終わる。

 援軍が来る前にホブゴブリンを一体、刈り取る。

 それが、彼に課せられた今回の作戦だった。

 

「出し惜しみは無しだな。悪いが・・・沈め!」


 それは、彼が生み出した必殺技とも言える攻撃だった。

 この世界に置いて、ダメージは物理演算の結果。スピードと質量、そして魔法による補助で計算される。全てのローダーが使える全ての魔法とも言えるスキル。それをダメージ変換する方法だけをラーキは試していた。そして、それを確実に当てる射程距離、躱されない為の予備動作。その全てを組み込んだMESシステムで組み上げたモーション。彼のMPマナポイントの殆どを使い切る、一撃必殺がホブゴブリンに突き刺さった。


「おいおい、ギャンブラーより博打ギャンブルな戦い方だな」


 コウメイはその様子を逃げる尻目に見て、思わず呟いた。


「任務は完了だ!後は一時退散でいいんだよなぁ?!」


 ラーキはコウメイに確認しながらも退散の姿勢を見せた。

 MPは使い切った。この状態ではホブゴブリンを相手にするのはかなり厳しい。

 恐らくは二グループ以上のホブゴブリンが援護に来る事が予想される。

 一体が倒された事実はゴブリン全体に伝わっただろう。

 このまま、ここで戦うのは無謀だった。


「一旦、引くぞ!逃げ遅れるなよ?」


 コウメイは既に集落の外に出ようとしていた。振り向いた遠くにゴブリンの集団が見えた。ラーキは逃げるその足で下位ゴブリンを二体ほど倒しながらゴブリン集落を後にする。それと同時に・・・コウメイの罠が発動した。


『【オーガ集落】が【ゴブリン集落】へ宣戦布告を行いました。これより両陣営は侵攻戦モードに移ります!加えて既に進行中の組織名【ヴィライン】はどちらとも現時点では同盟軍ではない為、双方に敵対状態となります。同盟申請は双方の合意を持って、侵攻中も成立します』


 システムによる通達がコウメイ達にも届いた。


「アイツらも上手くやった様だな」


 コウメイとラーキ、たった二人で奇襲に当たっていたのはこの為だった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ