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人類よ、貴様らは増えすぎた  作者: tempester08
第二のゲーム『巨人』
25/32

第25話 我慢

今更ですが、ルールの一つである『電子機器』の使用不可を、『電気製品』に変更しました。

 転移してやった事は、メイ以外の治療である。

 リュックに詰め込んでいた治療キットを広げて、各自応急措置を施した。大げさに言ったが包帯を巻くだけの物であり、出血を押さえるだけにとどまった。

 しかし全員アスファルトに削られていて、包帯の量が全く足りず困っていたところに腕時計から音声が流れた。 

 すでに監禁部屋で2時間程度過ごしており、そこで自動応答の声によりゲーム終了の宣言が行われた。またしても人類は敗北し、人口は遂に25%に突入した。

 巨人が回収された時点で、巨人を全滅できる可能性は無くなっていたのだが、その前に倒せと言われたら文句は言えない。

 よって、24時間後に次回『選別』の開催が宣告され、現在はメイの家に帰還した。



 時刻は午後7時。

 6時半にこっちに戻って生きたので、明日の同じ時刻に鏡面世界へと移行する。

 現実世界は無情にもいつも通りに時間が流れており、太陽が沈もうとしている。それなりに涼しくなり、電気の無い世界はすぐにでも暗闇に包まれる。その事を思うだけでも、世界は終わっているのだ。


 俺は隣のお宅に勝手に入り、レトルトのカレーを頂きご飯を炊くメイの元へと帰った。リビングへと続く扉を開けると、薄暗い部屋で寝そべるメイが目に入った。テーブルに目を向けると土鍋でご飯を炊いている途中だ。シューシューと水蒸気が狭い隙間から吹き出し、その音だけが世界を支配しているように感じてしまう。


 「火の様子見てなくて良いのか?」


 「土鍋で米炊くなんて適当だよ。柊さんやり方知ってんの?」


 床に転がっているメイが首だけをこちらに向けて、挑発気味に問うてきた。


 「……知らんな」


 「適当で良いんだよ。食えるでしょ」


 「そうだな。米が食えるだけでも十分だ」


 ソファーへと移動するとメイも隣に座ってきた。

 足を放り出し、ベランダへと目を向けて悲しげな眼で見つめている。あまりにも不釣り合いな情景に言葉が出てこない。語彙が貧困な俺では掛ける言葉が見つからなかった。

 メイは立ち上がりベランダの縁へと座ると、手を合わせてそのまま祈りをささげ続けた。

 辺りが暗くなり、米が炊ける頃合いになるまでそれは続き、俺は無言でその光景を眺めていた。


 レトルトを熱湯で温めてご飯にぶっかけると、スパイシーな匂いが鼻を刺激して、暑い夏でも十分食欲をかきたさせてくれた。

 いただきますの号令の元、スプーンでガツガツとカレーを口に運び、咀嚼した。


 「柊さんの槍どうする?回収してないけど」


 メイが電線を斬るために槍を投げ飛ばし、その後すぐに巨人が討伐されたため槍は住宅街のどこかに飛んで行った。


 「どこ行ったか覚えてる?」


 「投げた方向は覚えてるから探せば出てくると思うけど……」


 あまり自信がなさそうにそう呟く。

 スプーンを持つ手は止まる事を知らず、目の前に置いてあるカレーはどんどんなくなっている。


 「あれはもういいか。竿は凹んでたし。明日俺ん家行って全部ナイフ持ってくる」


 「明日もお菓子焼いてよ。美味しかったし」


 「そうするか」


 「やりぃ」


 メイはニヤッと笑って、ラストスパートとばかりにご飯を掻き込んで、カレーを食べ尽くした。あのロリ体系のどこにあんなにたくさんの量が入るのか、甚だ疑問である。



 太陽は陰気にも沈んでしまい、お月様が跳梁跋扈する時間となり、辺りは真っ暗となってしまった。家に合った包帯で体をぐるぐる巻きにして、止血作業を行うと本格的にやる事が無くなった。

 

 「何やる?」


 俺の後ろにいるメイに声だけで問いかけた。メイには頭に包帯を巻いてもらっていて、今さっき終わったばかりである。

 テーブルの上に置いてあるランプが部屋を妖しく映し出し、それなりの雰囲気を醸し出していた。


 「……眠い」


 メイは軽い欠伸をして、眠そうに目をこすった。

 無理に起きている必要性は全くないので、とっとと寝る事にした。 


 「さいで。寝るか」


 「うい」


 客間から布団を二つ持って着て、リビングに並べる。

 ガラス窓は全開にして、風の通しを良くして暑くても寝苦しくないようにした。

 隣り合わせになった布団の上に寝転ぶと、歩き続けた負担は予想以上に多く、雑談する時間も無く泥のように眠った。



 翌日、午前6時前。

 外は雲一つなく、今からでも今日も暑い事を感じさせられる空模様だ。

 太陽が昇ってから1時間以上経っていたが、昨日の疲れから二人とも起きるのが遅く、ようやく置き始めた。

 8時前には寝ていた筈なので、10時間近く目を覚まさなかった計算だ。

 夏と言えども朝日は部屋に直撃している訳では無く、良い具合の温度を保ち、涼しい風が部屋の中を通り抜ける。室温は快適で、寝苦しいという事も無く快眠と言って差し支えなかった。


 「……柊さん、臭うよ」


 「……てめぇもな」


 「……言い訳するなら今の内だぜ」


 「ごめんなさい」


 風呂は無く、汗だくなっても洗い流す事は出来ず、せいぜい濡れたタオルで拭くくらいだ。しかし、現在水も貴重品となっていて、おいそれと使う事が出来ない。安全な水と言うのはそれだけで価値がある物だと、『選別』で気づき恥ずかしくすらあった。


 2人とも並んで起き上がり、側に置いてあったタオルで体を拭いた。乾いたタオルは湿った体をサラサラにしていく。リュックからいつの日か頂いた制汗剤を体に吹きかけると、メイも物欲しそうに見つめていたので、メイに向かって放り投げた。

 冷た~、なんてはしゃぎながら気になる部分に、スプレーを吹きかけているのを見ていると、ギロリと睨まれたので、慌てて視線を逸らした。

 今日で『選別』が始まり、何日くらいか。6日目くらいだろうか?

 

 一発も抜いていない。


 ゆゆしき事態であった。未曾有である。

 朝勃ちが半端なかった。タオルケットで隠していたので、メイに見られていないのが幸いだ。

 正直、欲情していないと言うのは無理がある。

 メイは傍から見ても美少女である。体形を気にしなければ、引く手数多の人材でもおかしくない。6日以上行動を共にしていたため、性欲を打ち消す行動をしていない。

 如何にデスゲームで命の危機に直面していても、溜まるものは溜まる。むしろ、命の危機だからこそ種を残そうとしているのではないだろうか?

 つーか、無理だわ。どんだけ我慢してると思ってるんだ。マジで抜かせて。ヤヴァイ。マジで。いつ暴発してもおかしくないわ。大丈夫なん?むしろ俺の理性を称賛してほしい物である。普通に隣に女性が居たのに、襲い掛かってないんだよ。鋼の理性。鉄壁の牙城。

 別に性交渉がしたいと言う訳では無く、生理的欲求を解消したい。賢者タイムに入ればこんな思考は一発でなくなる。

 その前に、俺童貞だからやり方知らん。つーか目の前の女の子はほとんど小学生で、16歳ね。捕まるから。警察ないけどそれはダメだと思う。

 それに近くに黒沢夫婦いるから。ご遺体は地面の中だけど、こんな近くで娘が繋がっている所なんて見たくないだろ。俺だったら呪い殺すね。呪殺。

 仮定の話ね。俺にこんな娘が居たらと言う。

 そんで、自分の家で繋がってるわけ。もうね、殺人事件が発生する事は確定。隣見てみ?こんな可愛い娘が野郎とヤッてるなんて、想像しただけで体が爆散するんじゃないの?

 黒沢父、大丈夫だったの?いける?『選別』なんて無かったらその内、メイは男連れてきてたよ。血の涙を流して許容するの?スゲーな。無理だろ。確定。絶対無理だわ。

 つーか彼氏とかいたんじゃないの?俺ここに居て大丈夫なのか?居たとしても高確率で死んでるけど。でも、メイからそんなこと聞いてないな。言うか?フツー。言わないか?いわねぇだろ。彼氏助けに行きたいなんて言われても反応に困るわ。え、男っすか?みたいな。女友達助けに行けよ。

 どんだけ要らん事考えてんだ。性欲が爆発しそうっていう話だろ。

 PC使えねーだろ。オカズないわ。やっべ。電気ないし。想像でやる事は俺はできない。視界に何かほしい。できれば音声も欲しい。人類終わったな。俺だけか。やりたきゃやればいいしな。俺チキンだし。新藤にもそんな事言われた気がする。

 自衛隊時代も娼館?みたいな所に行かなかったし。先輩とか同期は行ってたけどさ。やっぱ戦いばっかだと困るっつーか。需要と供給があって釣り合いが取れてた。偶に同性の方が良いなんて奴が居たけど、全力で回避させて貰った。俺は一応ノーマル。一応ってなんだ。普通にノーマル。敢えて言うなら二次元でも行ける。インクで抜けるとか人類は進化したもんだ。ヤバいな。現状を考えると想像だけでも行けるようにした方が良いか。訓練が必要だな。

 でもメイをオカズにするのは、ちょっとあれじゃない?ヤバいんじゃない?倫理的に。あと2歳、歳食ってたら法律的にも良かったのに。性交渉の話ね。やんないけどさ。つーか誘う度胸ないし。

 だってメイはさ、戦友みたいなもんじゃん?一緒に戦った仲間?みたいな。それをオカズにして性のはけ口にするの?いやーそれはダメだと思う。黒沢夫婦だって許さない。

 じゃあどうしよう。AVでももってくるか?電気無いから動かないんだよな。バッテリータイプのポータブルプレイヤーとかなら動くか。でもそんな高価なもの持っていない。

 それよりメイと別行動しないと、自慰行為すらできない。どっか部屋は行って勝手にやってたら見つかっちゃいました、なんてなったらもう死ねる。どんな目で見られるか分かったもんじゃない。

 今の状態なら何シコで行けるか分からん。1分もかからず行けるか?これなら行けるかな。どっかで時間稼ぎすれば、下半身を扱く事も可能かもしれない。

 でもさ、質が無いよ。質が。

 適当に出しただけじゃさ、気持ち良くないじゃん。

 スッキリしたいのはやまやまだけどさ、そこにも気持ち良さを求めても良いんじゃない?オナ禁6日目だぜ?自衛隊時代はこんなものでは無かったが、それでもここ最近はこんなに我慢した覚えはない。それを適当に排出しちゃうの?勿体ないだろ。

 や、オカズが無いんだよな。どうしよう、どうしよう、どうしよう、…………。


 「……柊さん?」

 

 「は、はい!?何だっけ!?……あ、ご飯ね、コンビニ行くか!!」


 「いや、何も言ってないし。ずっと固まってたから、何考えてんのかなって」


 「別に?何も?、考えてないし。腹減ったかな?位だし!!」


 声が大きくなってしまい、若干メイが引いてしまった。


 「そ、そう。……ならいいけど」


 「そうなの!ご飯ね!黒沢家の朝ごはんは7時なんでしょ」


 我が息子が縮んだことを確認して、タオルケットを取り払い勢いよく立ち上がった。

 メイは何か疑っているような眼で俺を見ているが、そんなものは無視して玄関から外に出た。

 黒沢母のママチャリを借りて、メイの自転車と並走して俺の家へと向かった。道中、コンビニでお菓子を貰って朝ごはんの調達は終わった。


 ボロイ我が家へと到着すると、メイだけを残して一人部屋に入った。

 まっすぐにPCの前に座って、起動を試みる。


 「電池残ってろよ……!!」


 自分のパソコンがノートであった事に感謝しながら電源を押すと、ウィーンと音を出しながら画面が点いた。感激のあまり大声を上げそうになったが、咄嗟に口を押えて自制した。

 型落ちのパソコンではあったが、2050年という事もあり一瞬で起動が完了した。


 「よし……!」


 とある秘蔵のファイルを起動する。さすがに動画では音が響くので、画像で我慢する事にする。

 早くしないとメイが不審がって、こっちに来る可能性がある。

 画像を立ち上げ、スクリーンモードで次々と画像が切り替わる。久しぶりの刺激に息子も大歓喜。天に向かってそそり立つ。

 歓喜の念を噛みしめて、ズボンに手を掛けてずり落そうとしたが、ノックが入った。


 「柊さーん、まーだー?お腹すいたよー」


 今はバーベキューセットを持ってくるため、部屋の中に入っている事にしている。まだ時間なんてそんなに経過していないのに、急かすの速すぎだろ。ふざけんな。


 「ちょっと待ってろ」


 内心、超焦りながら冷静に努める。

 しかしPCの画面はプツンというと、真っ暗になってしまった。

 電池切れ。


 「ああああああああああ!!!!」


 「えっ!?どうしたの!!?」


 メイが扉を開けて中に入ってきた。

 幸い、下半身は露出しておらず事なきを得た事だけ言っておこう。



 「……何か機嫌悪いの?」


 「……別に」


 結局性欲は発散できず、悶々とする時間を過ごす事になった。

 目の前には大量に炙られたお菓子が並び、口の中に入れてもぐもぐと噛んで、飲み込む。

 甘い。


 「まぁ、柊さんも男の子だしね」


 衝撃の発言で手に取ったマシュマロを取り落としてしまった。


 「き、貴様……なぜその事を」


 「はぁ~ん、何の事かな?そのお口で言ってみたまえ」


 「……普通はやりとり逆なんじゃねーの」


 「何の話か分かりませ~ん」


 俺の手だけは止まり、メイは続々とお菓子を焼いて胃袋に中に収納していく。


 「どっか行っててあげようか?」


 「………………別に良い」


 「良いの~?最後のチャンスだよ~?」


 メチャクチャ顔をニヤニヤさせて、下世話な話題を振っていく。

 さながら鬱陶しいおっさんだ。


 「……じゃあ、お前が相手しろ」


 「……え、……あぅ、……そ、の」


 機転を利かして反撃でも仕掛けたつもりだったが、メイの攻勢が途端に弱くなってしまった。

 顔は赤面し、俯いてしまい表情がうかがい知れない。

 俺も何を言ってしまったのか、空気がおかしくなってしまい、炭が焼ける音しかしない。


 「……」

 「……」


 俺もメイもチラチラと視線を投げかけ、ぶつかり合うたびに顔を逸らすこと数回。


 「あの――」

 「えっと――」


 「ここっすか。やっと見つけましたよ。ウマそうっすね」

 「私達もご一緒していいですか?」


 ようやく何か言いかけた時に、野郎二人が登場してこの場は有耶無耶になってしまった。

 タイミングが良いのか悪いのかは本人次第だろう。



 ご飯を食べるとメイがお風呂に入りたいと言い始め、組長宅へお邪魔した。

 例の如く五右衛門風呂を堂本が沸かして、メイが一番風呂を取った。


 「やっぱり良いわ~、いいぞ、堂本っち」


 「それ久しぶりっすね」


 「なんだって~?」


 堂本が火勢を維持するため、息をどんどん吹きかけていく。

 汗がだらだら流れ、こっちが見ていても暑苦しい。


 「俺達も後で入るか?」


 「傷にしみそうですね……」


 男3人は全身に傷があり、もれなく包帯が巻かれている。

 ミイラ人間のように頭、腕、脚にも巻かれており、ほとんど白い。

 それでも傷は浅い物が多く、それほど重症でもない。


 「最後の風呂かもしれない。入っとけ」


 「……そうかもしれませんね」


 メイが長風呂から上がれば、男3人も順番に入って行った。

 今生の別れのような寂しい物があった。



 それからは流れるような速さで、時間が過ぎて行った。

 メイが家庭菜園から全部野菜を引っこ抜いてきて、ご飯を食べたり、巨大水鉄砲で年甲斐も無く遊んだり。

 何か不釣り合いな光景がそこにはあった。



 第三のゲームに向けてガスなどを準備したり、その後寝るだけであっという間に夕方になった。

 メイが手早く晩御飯を作り、最後の晩餐とばかりに全員夢中でご飯を掻き込んでいった。


 そして、8月14日午後6時29分。

 第三のゲームが始まった。

感想待ってます。

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