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人類よ、貴様らは増えすぎた  作者: tempester08
第二のゲーム『巨人』
23/32

第23話 粉

できあがりました。

お楽しみください。

 転移先は元の家と同じであり、泥棒が荒らしたような状況で放置していたため、かなり散らかった印象を受けた。

 腕時計から3時間拘束するという旨を受け取ると、新藤はシャワーを浴びに風呂場へと足を延ばしていった。

 3時間近く外を歩いただけあり、喉が渇いたので台所の水道でコップに水を注いだ。コップに口を付けるなり、吸い込まれるような勢いで水が消費されていき、五臓六腑に染み渡って行った。

 ソファーに座りメイが昨日のうちに作ってくれたおにぎりを食べながら、新藤が風呂から出てくるのを待つ。堂本にも数個譲り、何分か待っていると髪が乾いていない新藤が出てきた。

 ドライヤーなんていうものは動いておらず、自然乾燥に任せるしかないのはややつらい物がる。


 新藤はタオルで頭を拭きながら、俺の対面の床に正座で座った。右のコの字のソファーにはメイ、左には堂本がどっしり座っている。


 「一応勝てたな」


 「あんだけ準備すれば巨人でも関係ないでしょ」


 「まぁ、そうっすね」


 油とガスを使ってフルコンボを叩き込んだだけあって、巨人はそう抵抗できずに死んでいった。油で焼かれてこんがり肉のような匂いもしていて、久しぶりに肉が食いたくなるようなものだった。

 しかし現状の問題は次の戦いにある。


 「それで、次はどうやって戦いますか?もう油もガスも無いんですよね?」


 さっきの戦闘でこの家にあったモノは全て使ってしまった。もう燃やすという手が使えない。


 「ホントどうする?次は真面目に戦うしかなくなるか?」


 「柊さん、今何持ってんの?」


 メイが俺の隣に置いてあるリュックを指して聞いてきた。

 俺はガサゴソとリュックの中を漁って、目の前のテーブルにブツを出していった。


 「ワイヤー、ロープ、工具、医療キット、水。……こんだけだな」


 メイは残念そうに目の前の道具たちを見て、小さく吐息をつく。堂本や新藤も同様であり、劇的な破壊をもたらすようなものが無い。ガッカリするのも無理が無いというモノである。


 「お前らは何か無いのか?」


 3人ともリュックの中を漁ってみるが、首を横に振ってお手上げ状態だ。

 全員まさか室内に入れないとは思わず、荷物を軽くしてしまい手持ち武器以外に有用な物が無い。

 日本で銃火器が使えないのはどうでも良いが、電気製品が無いのは本当に痛い。車で突撃してやってもいいのに。ガソリンを取ろうと思っても、立ち止まらないと回収できない。この家には灯油も無く、火炎瓶はもう作れない。


 「……考えがあります」


 新藤が神妙な顔で申告してきた。それでも顔には自信ありと書いてある。


 「聞こう」


 「私の考えは―――」




 新藤の話を聞いて、実行可能かは別にしても相当な威力があるのは認めるべき事柄であった。更にいうなら、この家にはそれが出来るレベルの量の物があった。

 第2案もあり、こちらも実行可能かは判断できないが、やらないよりマシという事になった。


 作戦を成功させるため、皆でそのものを叩き続ける。ふるいにかけてより小さくする。もっと小さくする。

 男三人がテーブルの上で白い粉を一心不乱に砕く光景は特異と言っても過言では無い。


 「これで本当に行けるのか?」


 「無いよりマシでしょ」


 ボールや洗面桶にそれをぶちまけて、麺棒やナイフの柄頭で潰していく。文句を言ったが、現状これ以上の威力を望める案が無いのは事実だ。

 メイ茶色の粉を砕きながら、渋面を作って新藤に話しかける。


 「でもこれって有名だけど成功すんの?さっきのガスだって風吹いたら一発で終わりだったよ?」


 「……それがネックですね」


 さっきの爆破もそうだったが、風が吹いて可燃物が無くなれば巨人が倒れる事は無かった。油に火がつく程度だったら可能だったが、爆破もあったため短い時間で倒す事が出来た。

 量だけは十分ではあるものの、自然環境にさらされている状況でこれをやるのは不安がある。


 そこからは黙々と砕き続ける。

 砕くという表現は少し違うが、磨り潰すという方が近いかもしれない。石臼が有れば粒子が小さくなって、成功率が上がる。この作業は重要であり、地味だがこれをやらないと作戦すら行う事が出来ない。


 「……一時間はやってるな。……寝るか?」


 時刻は8時前となり、腕時計を見ると残り2時間程度で外に出され『巨人』達のただ中に立たされてしまう。

 新藤だけは歩きっぱなしで一睡もしていない。あと12時間は生き残らないといけないのに、疲れを残しておいては、如何に『服』と言えども死なないとも言えない。頭を打てば気絶してそこから惨殺されるのは明白だ。


 「……すいませんが、寝させてもらいます。流石に疲れました」


 新藤は粉を袋に戻し封をした後、この家の一室に移動した。立ち上がる時に足下が覚束なかったようで、少しふらついていた。

 それでも意地で弱みを見せまいと、何も言わずに部屋の扉を開けて姿を消した。


 「俺らも寝るか」


 反対意見は出ずすぐにでも外に出れる準備だけはして、ベットのある部屋に入って仮眠を取った。




 「柊さん、起きて」


 カーテンを閉め切って光を遮っていた室内に、大量の光が差し込んできた。勢いよくあけられたカーテンは身を挺して俺を守っていたにもかかわらず、メイの腕の一振りだけで仕事を放棄した。

 タオルケットで目元を隠して、体を横に向けた。ごにょごにょと文句を言って目を瞑り、二度寝を試みた。

 

 「……母ちゃん、勝手に入ってくんなよ」


 「誰が母ちゃんだ」


 『靴』を履いたまま足蹴にされ、ケツに激痛が走った。


 「……痛っぇ」


 「早く起きてよね!」


 ベットからゆっくり起き上がると、メイがちょうど部屋から出ていくところだった。他の部屋にも入って二人を叩き起こしている。

 ベットから脚を放り出して床の上に降り立つ。グイッと背筋を伸ばして、眠気を取り除くとリビングに足を延ばした。


 一番乗りのようで、台所に移動して水を飲んでいると3人が姿を現した。3人分水を汲んでやり、各自に渡していき準備を進めていく。

 柔軟体操に、最後の荷物の確認をしていると腕時計から音声が流れた。


 「転移、1分前です。準備してください」


 全員リュックを背負い、武器を携える。

 顔は緊張で固まっていて、死地に行く事を嫌でも自覚させられる。

 腕時計のカウントダウンも緊張させる一つの要因になっている。いっそ、すぐに転移させてくれた方が良いのかもしれない。


 「転移したら巨人が居るかもしれないぞ。忘れんなよ」


 現在、9時50分。

 住宅街には5体の巨人がうろついている。


 「10分後には新たな巨人も出るからな。警戒しろよ」


 午前10時に新たな巨人が出現する予定になっている。

 3時間ごとの出現であり、前回は午前7時に出ている。3時間後は午前10時なので、すぐに新しいのが出てくる計算で間違ってはいないはずだ。


 「それでは転移します」


 一分が経過し4人が転移され、家の中から姿を消した。



 突如として住宅街に4人の人間が出現する。

 物質の転移など、どうやるのか原理すらわからない。


 転移した瞬間4人は移動を始めて、腕時計は鳴らなかった。

 首をめぐらせても巨人の姿は認められず、一応の安全は確保されていた。


 「大丈夫みたいだな」


 「転移直後は安全なのかもね」


 前回も巨人は近くにおらず、開幕から戦闘が始まる事は無かった。

 『巨人』の狙いからすれば、俺達には巨人を倒して欲しくない筈なので、近くに巨人が居る方が都合が悪い。あながち安全であるという事も否定できない。


 『耳』で安全を確保しながら住宅街を音無く歩いていく。降りかかる日差しは強烈で、長時間外に居れば熱中症で倒れてしまう。


 「ちゃんと水飲めよ」


 あらかじめ用意した水道水には、少量の塩も入れており塩分対策もしてある。2Lは水を持参しており、3時間なら何とか外に居れるだけの量は持ってきた。

 汗が出れば水を飲み、発汗が止まるような事態だけは避けている。


 「……そろそろ来るな」


 住宅街を歩き始め、10分程度。午前10時を間近に空を見上げながら歩く。 

 降ってくる巨人の出現地点に法則性を見出す事はできず、場当たり的な対応しかできない。

 つまり運だ。


 「3時間が経過しました。『巨人』を追加します」


 腕時計の音声と時を同じくして、巨人が降ってきた。


 「今回はラッキーみたいだな」


 巨人は遠く離れた地点に降下しており、すぐさま窮地に陥る事は無くなった。

 これまで無駄に運が悪かったので、また真上に降って来るのではないかと恐怖していたのは内緒だ。


 「……良かった」


 メイも同じような思いだったのか、安心して大きく息を吐いた。

 堂本、新藤も同じようで安心した能な顔をしている。



 しかし予想に反して状況はよくなかった。


 「……はぁ……はぁ」


 うだるような暑さと6体の巨人。 

 移動するだけで巨人の目に留まる事が多く、さっきから走る事が多い。

 メイは走る事に慣れていて、そこまでの疲労を見せていないが、男3人がヤバい。


 「あっぢ~~~!!」


 「……黙ってください」


 さっきからこれを繰り返している。

 堂本はもう上半身裸であり、対照的に新藤は長袖を頑として脱ごうとしない。

 それでも新藤の体からは汗が出ているようで、まだ安心できる。汗が出なくなったらもうダメだ。意地でも脱がせる。


 「3人とも頑張って。そろそろ倒す時間だから。休憩できるよ」


 「……上手く行ったらな」


 「ネガティブだぞ~~。元気出していこ~!」


 やる事が歩く事だけであり、暑さも相まって思考が暗い方向へと沈んでいく。メイは『靴』のおかげかあまり疲れていない。余裕で移動している。『巨人』は『靴』が有利だったのか。メイが特別なのか。


 「……柊君、すぐに殺るべきです」


 「……殺るか」


 太陽が照りつけている事も厚さの一因だが、まったく風が吹いていない事も今の状況を生んでいる。体感温度が全く下がらず、心休まる瞬間が存在していない。

 家に戻りソファーに座りたい欲求が高まる。

 

 『耳』で巨人の位置を確認して、浮いている一匹に近づいていった。



 うってかわって、全員のテンションを上げていき、作戦概要を確認していく。

 メイ以外はやる気に満ち満ちており、殺気が充満している。


 「メイはまた囮な」


 「んじゃ、よろしく」


 現在の位置は前と同じく、正方形の角の一つに居る。

 メイが一抱えある袋を持って曲がり角から姿を消すと、俺は新藤にロープを渡す。


 「では、作戦通りに」


 ロープの両端を俺と新藤で持って、お互い違う家の門の中に入り小刻みに動きながら待機する。

 堂本は俺の後ろで刀を抜き、同じく小刻みに動きながらその場で待機している。


 リュックからも最終兵器を地面に置いて、準備を完了させる。

 兵器は新藤も持っており地面に置いている。堂本の分はメイが持っている。


 『耳』を使うとメイが作戦通り一体連れてきている。


 「あ?、おかしくね?」


 何故か二体走ってきているような音がする。

 メイが曲がり角を曲がってくると大声で謝ってきた。


 「ごめん!見つかっちゃった!!どうする!?」


 すぐさま作戦の内容を確認するが、2体いても大して変わらないという結論になった。

 姿は現さないが、その場でメイに作戦続行に意を告げた。


 「やるぞ!」


 メイは返答は無くそのまま俺達の前を走り去っていった。

 巨人の位置関係はお互いかなり近く、支障はない。


 「堂本、2体やれるな」


 「もちろん」


 『耳』でタイミングを見計らい、巨人の接近を予測していく。

 身長差で見つかるかもしれないと思いながら、必死に体勢を低くして隠れている。

 音が近づき作戦実行の時が来る。


 新藤の顔を見て、顔を頷かせ合図を取った。

 重低音の足音が真正面に来る直前、持っていたロープを引っ張り上げた。

 地面に垂れていたロープは地面と平行にピンと張り、新藤と綱引き状態になっている。


 巨人の膝より下になるように高さを調節して、全力の握力でロープを握った。


 走ってきた巨人は前を行くメイに夢中になり、足下が疎かになっていた。

 踏み出した足がロープに引っかかり、重心が前にずれる。予期せぬ世界の反転に巨人は受け身を取る事が出来ずに、地面に倒れ込んだ。

 後ろにいたもう一体の巨人も同様の結果となり、巨人の上から倒れ込んだ。


 「「あっぁあっぁっぁあ!??」」


 重なるようにして倒れた二体の巨人は混乱してまだ立とうとはしていない。

 俺の後ろに居た堂本が門から飛び出して、巨人の脚、正確にはアキレス腱を斬りつけていく。


 「シャラアアアァァ!!!」


 足首を斬り落としていく勢いで、巨人の移動手段を削いでいく。 

 アキレス腱が切れた巨人は立つ事が出来ず、膝立ちになるのが精一杯と言う様子だ。


 「やるぞ!!」


 地面に置いていた袋を引っさげて、俺も門から出ると新藤も同時に出てきた。

 目くばせして同時に地面に叩きつけた。


 中に入っていた白い粉が辺りに充満して、視界が白く染まってしまう。

 すると巨人が倒れた方向からメイの声が上がった。


 「跳ぶから離れて!!」


 ダンッと地面を豪快に蹴る音がすると、空中にメイが姿を現した。

 数m上から抱えていた二つの袋を放り投げると、次は茶色の噴煙が巻き上がった。


 メイが俺達と合流して、そのまま巨人から離れて行く。

 視界は白や茶色で染まっており、先が見えにくい。


 「まだやんなよ!」


 煙幕から抜け出し後ろを振り返っても、巨人達は俺達を追いかける事が出来ず、方向転換をしているだけに見えた。

 懐からタバコとライターを取り出して、着火する。

 タバコの先から紫煙が立ち上り、準備完了となる。他の3人も火を点けており、攻撃がいつでもできる状態に移行した。


 「成功すると良いな……!!」


 全員同時にタバコを放り投げて、曲がり角に飛び込み攻撃範囲から逃れた。

 瞬間、爆音が住宅街に鳴り響き成功した事を確信した。道路から空気が排出されて、爆風が俺達に襲い掛かった。

 爆発の衝撃で吹き飛ばされ、地面を二転三転した所で止まった。


 「やった……!!」


 あまりの爆音にキーンと耳には聞こえている。

 予想以上の威力に成功の予感が大きい。

 

 「本当に粉塵爆発成功したね」


 やった事は粉塵爆発である。

 使ったのは小麦粉と砂糖の2種類。よく小麦粉の方が例に上がるが、粉塵爆発自体は砂糖の方が起きやすい。

 小麦、砂糖それぞれ1立方メートル当たり60gと19gあれば爆発する。

 さらに粒子が100μm以下で有る場合、燃焼速度が上昇する。なので4人でごりごり粉を磨り潰していた。

 とにかく爆発した。これが重要である。


 「……まだ死んでないみたいだな」


 腕時計からの宣言が行われず、まだ巨人が死んでいない事を表していた。

 武器を持って走り出すと、黒こげになっている巨人が二体いた。燃え盛ってこそいないが、地面でぐったりとして動かない。

 うつ伏せで倒れる巨人の背中に乗り、槍を突き刺した。

 しかし背骨や肋骨に邪魔されているのか、刃の通りが悪い。


 「堂本」


 振り返って堂本を呼び、日本刀で胸のど真ん中を貫いてもらった。

 引き抜いたできた穴から勢いよく血が飛び出し、体を汚していく。


 「「「「あっぁあっぁあっぁ!!!」」」」

 

 爆発音と聞いて残りの巨人4体が走り寄ってきていた。

 今更遅いが、巨人の背中から飛び降り、地面に着地すると腕時計から音声が流れた。


 「『巨人』が一体討伐されました。『巨人』を補充します。また、柊照光様、黒沢明様、堂本耀様、新藤輝元様の4名が転移条件を満たしました。転移します」


 迫りくる巨人に手を振って、にこやかに4人は姿を消した。

感想待ってるよ。

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