第一話
数ヶ月ぶりの新作です。
今回は前作とは違う雰囲気の物語になりました。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
僕は魔法が使えない。
人は生まれながらにして何かしらの魔法を授かる。
だから僕は”魔法障がい者”と呼ばれている。
——七年前。
人間と魔族の戦争は終わった。
リヴィエラという一人の人間によって。
彼女は英雄と呼ばれた。
そして、その英雄は。
僕の姉だった。
戦後の課題は山積みだった。
それでも、生き残った魔族と人間は共存への道を歩き出していた。
終戦から数ヶ月後。
平和になったはずの日々の中。
金の箔を押した宛先のない手紙が届いた。
お姉ちゃんの訃報だった。
それとは別にもう一つ箱が届いていた。
中には青い宝石の首飾りと手紙が同封されていた。
『これ!とっても大事なものだからアルズに託す!絶対に肌身離さずにつけてね!』
それはお姉ちゃんの字だった。
どうしてそんなに大事なものを僕に託そうと思ったのかは全くわからなかった。
終戦から七年後。
『ノイエン』とある立札の家。
僕はお母さんと二人で暮らしていた。
僕は学校へ入学した日から卒業のこの日まで、ずっとみんなを失望させてきた。
——「え、魔法使えないの?」
——「甘えてる?」
——「正直、みんなもう、お前に呆れてるよ?」
失望の中に晒されてでも僕は、どうしても冒険者になりたかった。
卒業だけは果たせた。
けれど僕にはまだ、冒険者になるための大きな問題が待ち受けていた。
それは、お母さんに「冒険者になりたい」と告げることだった。
「それで、アルズ。そんなにかしこまっちゃって、話っていうのは何かしら?」
お母さんが聞いた。
「……」
自分からお母さんを呼んだにも関わらず、僕は黙っていた。
もし、お母さんに反対されたら。
僕は夢を諦めるしかないと思っていた。
お母さんは冒険者だった娘を亡くして以来、冒険者という言葉を避けるようになった。
だから簡単には言い出せずにいた。
それでも窓辺から覗く真っ白な花がそよぐたび、お姉ちゃんを思い出す。
——「アルズもさ、大きくなったら一緒に冒険者になって旅に出よ!私、どこかで待っててあげるから!」
声を忘れそうになっても、あの花が何度も思い出させ、風と一緒に僕の思いが運び出された。
「ごめんね。お母さん……。僕、冒険者になりたいんだ」
窓の外に咲く白い花はさわさわと揺れる。
「……どうして?」
花瓶に入った水が小さく揺れる。
カーテンがさらさらと音を立てている。
「……ずっと、お姉ちゃんと約束してたんだ。だから会いに行かなきゃ」
花びらが沈黙の間を過ぎ去った。
「いいんじゃないかしら」
カーテンが風に押し上げられると、陽光がリビングを柔らかく照らす。
「アルズ、大きくなったわね」
お母さんは嫌な顔ひとつせず、陽光に照らされる暖かな笑顔を向けてくれた。
「ありがとう。お母さん」
それから毎日、空いた時間は修行に費やした。
今日も公園で手を前にかざした。
手のひらからちょろちょろと水道を軽く捻ったような水が流れた。
幼児でもできる初歩の水魔法だ。
「っはあ……はあっ……」
異常な負荷が全身を襲う。
目眩がして、視界が暗く染まっていく。
気がつくと太陽は少し傾いていた。
今日も昨日と何も変わらなかった。
日光を拒むようにしてベンチに座っていると公園に子どもたちが来た。
眩しい陽光の下、つむじ風を起こしたり水魔法をかけあったりしてはしゃいでいた。
帰り道。
真っ白な花畑が見下ろせる丘の上に寝そべっていた。
「僕、冒険者になれるのかな……」
言葉をさらうようにして柔らかな風が吹く。それはお姉ちゃんが好きな真っ白な花の甘い香りを乗せていた。
——まだいける。
どんなに些細でも続けていれば成長があるかもしれないのだから。
翌日。
「本当に今日、出るの?」
お母さんは手を組んでは離していた。
玄関にはお姉ちゃんとお父さんの遺影が立てかけられている。
「アルズ……。実はね、お姉ちゃんが貰った報奨金があるの」
「え、でも、そのお金って」
「私は、自分の為じゃなくってアルズの為に使いたいの。私にはこれしかできないし……」
「……本当に良いの?」
「私はアルズの幸せが一番なの。いつも、何もしてあげられなくてごめんなさい」
小さなころから、こうやって何度も謝られた。
だから今でも思ってしまう。
お母さんは僕を産んで幸せだったのかと。
「僕は、お母さんのところに生まれて幸せだよ」
「アルズ……」
お母さんは潤う瞳を隠すように大袈裟に小袋を手渡す。
「首飾り、本当にずっとつけてるのね」
紐はしっとりと肌に柔らかく吸い付き、心地よいぬくもりを帯びている。すっかりと身体の一部みたいになっていた。
「うん。そう言われてたし」
照れ隠しのつもりで言う。
お母さんは僕を見ると微笑んだ。
「ふふ。アルズは本当に優しいわね。私もアルズのお母さんになれて幸せよ」
僕を強く抱きしめてくれた。
その手が離れると、温もりは次第に抜けていった。
「本当にありがとう。お母さん。行ってきます」
「いつでも待ってるわ。たまには顔を見せてね」
お母さんの手を振る姿が見えなくなるまで見届けた。
草木の茂る草原の道を歩いていた。
ふと前方に何かが見えてくる。
最初はぼんやりとしか見えなかったが、徐々に見えてくる輪郭は人の子どもの形をしていた。
でも、それは人じゃなかった。
鋭く発達した犬歯に二本の折れかかった角。
腰下から長い尻尾と白い翼。
教科書で分類されるどの魔族とも特徴が違う。
けれど間違いない。
魔族だ。
目があった瞬間。
首元の宝石が一瞬だけ脈打った。
「う……うう」
うめき声が聞こえてきた。
まだ生きている。
「だ、大丈夫ですか!動かないで。今手当するから……」
魔族は白い髪から覗く瞳で何かを伝えたそうにしていた。
耳を澄ませ、顔を傾けた。
すると、小さな声が聞こえてきた。
「おなか……すいた」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
数ヶ月ぶりの新作になります。今回は前作から大きくジャンルを変えてみました。
少しでも楽しんでいただけたなら、そして続きが気になっていただけたなら嬉しいです。




