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アカキツネと守り神②

 古びた祠だ。

 掃除はされているみたいだけど、何十年……もっと前からここにあるのだろう。

 石はひび割れ苔が生えている。

 何度か崩れたことがあるのか、いびつに修繕された痕も残っていた。


「……」

「……」


 二人でじっと祠を見つめる。

 何も見えない。

 真っ暗で、祠の輪郭だけが視界に入る。

 ぱっと見は何もいないように見えるけど、ファルス様の言う通りだ。

 

 何かがいる。

 

 そんな気配を感じて、ごくりと息を呑む。

 姿を消している魔物かもしれない。

 ファルス様も同じことを考えたのか。

 腰の聖剣に触れていた。


 その時だった。

 ファルス様の懐から、一羽の鶴が飛び出した。


「――!」

「鶴が……」


 祠の周りをぐるぐると飛び回っている。

 まるで踊っているように。

 喜んでいるようにも見えて、少しだけ緊張がほぐれた。

 ファルス様は聖剣から手を離す。


「そういうことだったのか」

「何かわかったんですか?」

「うん。危険なものじゃない。この祠に宿っているのは――精霊だよ」

 

 私は改めて祠に視線を向けた。

 折り紙の鶴が嬉しそうに飛び回っている理由を理解する。


「仲間を見つけて嬉しそうに飛んでいる。あの祠の中には、見覚えのあるものあるはずだ」

「もしかして……」

「見てみようか」

「はい」


 私たちは祠に近づいた。

 正体が見えてきたことで、一気に緊張が抜ける。

 軽い足取りで祠の前に立ち、中身を覗き込んだ。

 するとそこには、確かに見覚えのある形をしたものが祭られていた。


「私が作った折り紙の鶴」

「そういうことみたいだね。この祠に宿っている精霊は、君が飛ばした鶴の精霊と同じだ」

「折り紙の鶴が、神様として祭られていたということですか? でも、この祠は……」

「そうだね。二人の話によれば、この村ができた頃からここにあるらしい」


 夕食の際、老夫婦から祠の守り神の話を聞いた。

 村が大きくなる以前からあり、豊作と安全を守ってくれた村の守護神。

 村の人たちにとって大切な存在の話を。


「たぶん、触ってみればわかるよ。作った君ならね」

「さ、触っても大丈夫なんでしょうか」

「大丈夫さ。悪い気は感じないし、何よりこの鶴を折ったのは君だろう? なら君には、触れる権利があるはずだよ」

「……わかりました」


 少し緊張しながら、私は祠の中に手を入れる。

 懐かしい千羽鶴の一羽。

 いつ作り、飛ばした子なのかわからない。

 王都から近いほうだし、もしかしたら最初の頃に作った子かもしれない。

 私は大事に、優しく掬い上げた。


「……これは……」

「わかったかい?」

「はい」


 鶴から私以外の魔力を感じた。

 触れたことで気づく。

 祠からも、微弱だけど魔力が漂っていることに。

 通常、無機物に魔力は宿らない。

 ただし例外が存在する。


「この祠には、鶴がたどり着く前から精霊がいたみたいです」


 でも、消えてしまっている。

 精霊の力の源は、生まれた場所に起因する。

 私の想いが魔力に宿り、精霊となったように。

 この祠に宿っていた精霊は、人々の願いによって生まれたのだろう。


「豊作や安全を願う村の人たちの力が合わさって、精霊になっていたんだと思います」

「その精霊が、村に繁栄をもたらしたわけだ」

「はい。でも……」

「そうだね。時代の流れによって、精霊は力を失ったんだ」


 ファルス様も答えにたどり着いていた。

 そう。

 この地の精霊は、人々の願いによって形を作り、祠に宿っていた。

 しかし時代は流れ、豊かになるほどに信仰心は薄れていく。

 次第に新しい生き方や、仕事に興味を持つ人々が増え、人々の意識は村の外へと向くようになった。

 徐々に力を失った精霊は、ついに存在を保てなくなった。


「そこにたどり着いたのが、君の鶴だったわけだ」


 私は小さく頷く。

 精霊の残り香は、私の鶴に宿った精霊に吸収され、一つになった。

 

「お婆さんが、最近は畑の状態もよくなったと言っていたね。あれはきっと、君の鶴がこの祠に宿っていた精霊の意思を引き継いだからだ」

「そう……なんでしょうか」

「間違いないよ。この村に来た瞬間から、ほんの少しだけど感じていたんだ」


 ファルス様は私と、村を視界に納めて言う。


「君の想いの温かさと、同じものをね」

「――そうですか」


 嬉しくて、口元が緩む。

 私の想いは、願いは、ちゃんと役に立っていた。

 それと同時に思う。

 何かできることはないか、と。


「……そうだ」


 私は祠に祭られていた鶴を、一度折り直すことにした。

 ファルス様が驚いた覗き込む。


「何をするんだい?」

「この祠にあった形に折り直します。鶴の形は、私の想いを届けるためのものでした。だから今度は……」


 この祠に宿っていた人々の想い、願いの形に作り替えよう。

 形は大事な要素だ。

 折り紙に宿っているのが精霊だとわかったことで、より形に意味が生まれる。

 

 豊作をもらたす化身。

 前世の記憶を頼りに、たどりついた形は――


「キツネ?」

「そうです。アカキツネをイメージしました」

「キツネの種類は詳しくないんだ。どういう意味があるんだい?」

「豊作をもたらす神様は、キツネを使いに出したそうです」


 稲荷大明神。

 有名なご利益は、『五穀豊穣』。

 キツネは稲荷大明神の化身としても知られている。

 豊作をもたらす霊獣。

 世界が異なるから、まったく同じ存在にはならないだろうし、この世界にはいない神様だろう。

 それでも、願いが精霊となるならば、この形に意味はある。


「どうかこの村を、これからも守ってください」


 私の願いはより強く、確かなものに。

 出来上がったキツネの折り紙は、小さく頷いて祠の中に戻った。

 

「戻ろうか」

「はい」


  ◇◇◇


 翌日。

 私たちは出発することになった。


「ありがとうございました」

「こちらこそ、お気をつけてください」

「はい」

「皆さんもお元気で」


 挨拶をして、私たちは出発する。

 私はファルス様の隣に座り、馬車に揺られていた。


「伝えなくてよかったのかい? 祠のこと」

「いいんです。これで」

 

 昨日のことは、村の人たちには伝えていない。

 考えたけど、伝えないほうがいいと思った。


「祠に宿っているのは、皆さんにとっては神様ですから」

「正体を知らなくても、信仰心が続けばそれでいい……か」

「はい」


 それに、永遠じゃない。

 願いはいずれ風化し、いつかはただの折り紙になるだろう。

 彼らの代が終わる頃か……私が一生を終えた時か。

 わからないけど、必ず終わりは来る。

 それまでで構わない。

 人々の暮らしを、彼らの村を守っていてほしい。


「私にできることは、これくらいです」

「十分だよ。僕にはできない。君だからこそできたことだ」

「はい」

「これからもっと増えるよ。君の願いが残る場所が」

「――そうなりたいですね」


 遅くなったけど、昨日のことを日記につづり、鶴を飛ばした。

 

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次回をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公がけなげで、清くてかわいいので、ほのぼのします。 [一言] 誤字ではないのですが、おまつり上げ、祈る対象の場合「祀られている」の方が意味的にしっくり来るような・・・。
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