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折り紙職人ミモザの日記帳 ~病弱だった私は異世界に転生したので恩返しの旅に出る~  作者: 日之影ソラ


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8/14

アカキツネと守り神①

 老夫婦の村にたどり着いた頃には、すっかり日も暮れていた。

 野宿を考えていた私たちに、老夫婦から嬉しい提案をされる。


「よければ、今晩はうちに泊まっていかれますか?」

「いいんですか?」

「はい。案内してくださったお礼に。あまり広い家ではありせんが」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」

「よろしくお願いします」


 意図せず、今晩の宿が決まった。

 いいことをすると、ちゃんといいことになって帰ってくる。

 そういうものだと、ファルス様はこそっと私に教えてくれた。


 二人が暮らしている村は、人口百人程度の小さな村だった。

 ただ土地は広く、建物も一つ一つは大きい。

 大きさだけなら、王都の一般的な家よりも大きいかもしれない。

 案内された家も大きく、一階建ての平屋だった。


「部屋は余っていますので、お好きに使ってください。寝具も用意します」

「ありがとうございます」

「広いですね」


 思わず声に漏れてしまった。

 失礼だったかもと、慌てて口をふさぐ。

 お婆さんはニコリと微笑み、理由を教えてくれた。


「昔は子供たちと一緒に住んでいました。七人家族だったので、ちょうどいい広さでしたよ。今は爺さんと私の、二人だけです」

「そうだったんですね」

「子供は皆、王都で暮らしています。王都のほうが仕事も多いし、暮らしやすいからと」


 布団を用意しながら、お爺さんが説明してくれた。

 忙しくてあまり帰れなくなった子供たちに、二人で定期的に会いに行っているそうだ。


「大変じゃありませんか? 王都までかなり距離がありますし」


 私たちは馬車だったから数時間で済んだけど、二人とも徒歩だった。

 見た目から六十歳はとっくに超えているだろう。

 足腰だって弱ってきているし、体力も落ちている。

 老体に長旅はきついはずだ。

 少し心配になる。


「いい運動です。畑仕事もしてますから、体力はなんとか」

「この村も、昔は大きかったんです。農作物が育ちやすく、良い品質だったので、王都の市場にも贔屓にしてもらっていました。ワシらが若い頃は、この村も千人以上が住んでいましたよ」


 しかし現在は、十分の一となった。

 暮らしているのも、お二人のような老夫婦が多く、若い世代は皆王都や大きな街へ出稼ぎに行っている。

 そういう時代だから、というのもあるが、理由は他にもあった。

 お爺さんは窓を見つめながら続ける。


「いつからか、作物の育ちが悪くなったんです」


 窓の外には畑があった。

 家の敷地よりもずっと大きな畑だ。

 暗くてハッキリ見えないが、野菜を育てている。


「不作の年も続いて、農業だけじゃ食べていけなくなりました」

「それで出稼ぎが増えたんですね?」

「はい。ワシらの代は、大人になったら畑を継ぐのが普通でしたが、外で働くことが増えると、誰も畑を継ぎたいとは言わなくなりましたよ」


 お爺さんは少し寂しそうに語った。

 畑以外にも仕事はたくさんある。

 外に出て、世界の広さを知ったことで、多くの若者が旅立った。


「悪いことじゃありませんよ。それに、最近は少しマシになりましたしね」

「そうだな。以前よりは畑の土の状態もよくなっている。ここ数年のことだから、一時的かもしれんが」

「いいじゃないですか。私たちが生きている間だけでいいんです」


 と、お婆さんは笑いながら言う。

 確かに悪いことじゃない。

 自分に合った仕事を見つけることは、どの世界でも必要なことだ。

 選択肢が増えただけ。

 それでも……。


「代々守ってきたものが、ワシらの代で失われるかもしれんのは、ちと寂しいですね」

「……」


 お爺さんとお婆さんから、複雑な寂しさが伝わってきた。

 

  ◇◇◇

 

 夜になった。

 夕食をご馳走になり、お風呂も貸してもらえた。

 野宿も覚悟していたから、身体を綺麗にできる機会はありがたかった。

 それに加えて一人一部屋、布団もある。

 床に布団を敷いて眠るのは、なんだか前世を思い出す。


「懐かしいなぁ」


 ベッドを買うまでは、布団を敷いて眠っていた。

 身体が弱くて、徐々に起き上がるのもつらくなってからは、両親が心配してベッドを買ってくれた。

 わざわざ高くていいベッドを用意してくれて、嬉しい反面、申し訳なかった。


「二人とも……どうしてるかな」


 前世に未練がない、と言ったら嘘になる。

 私が死んでも、両親は元気だし、今も生きているだろう。

 悲しんでいるだろうか。

 十八年も経ったなら、気にせず自分たちの幸せを追い求めてほしい。

 それが私の願いだ。


「……」


 眠れなかった。

 布団が久しぶりだからじゃなくて、気になったから。

 老夫婦のことだ。

 二人の子供は、全員王都にいるらしい。

 それぞれに家庭があって忙しく、あまり顔も出せなくなっているとか。

 仕方ないことだけど、二人とも寂しいはずだ。

 それにこの村のことも……。


 私は窓を開けて、畑を眺めた。

 月明かりに照らされて、少しだけ明るい。

 涼しい風が吹く。


「眠れないのか?」

「――え? ファルス様?」


 突然声をかけられてビックリした。

 声は横から聞こえるけど、もちろん部屋には私しかいない。

 理由はすぐにわかった。

 窓から身を乗り出して、横を見る。


「こんばんは」

「ファルス様も、外を見ていたんですね」

「うん、なんとなくね。気になったんだよ。この村のことが」

「ファルス様も……」


 奇しくも私たちは、同じことを考えていたらしい。

 ファルス様が提案する。


「少し散歩しないか?」

「はい」


 私は提案を快く受け入れて、二人でこっそり抜け出した。

 老夫婦は寝入っていて、私たちが出かけたことに気が付かない。

 少し悪いと思いつつ、私たちは夜の村を歩く。


「思った以上に広いね」

「そうですね。それに……」


 畑が至る所にある。

 建物よりも大きくて広い。

 二人が言っていたように、この村は農業が盛んなようだ。


「畑だった跡もある。人口が減って、畑の広さも管理できる大きさに縮小したみたいだね」

「みたいです」


 建物はいくつか空き家だった。

 お年寄りが多いから、まだ日付も変わる前なのに明かりが完全に消えている。

 二人の話では、若い世代はまったく残っていないそうだ。

 

「ここまま行けば、十数年後にはこの村はなくなるだろうね」

「……そう、ですね……」

 

 仕方がないことだ。

 始まりがあれば、終わりもある。

 世の中、永遠に続くものなんて存在しない。

 子供たちは外へ出た。

 その選択自体は間違いじゃないし、応援されるべきだろう。

 それでも……。


「寂しいですね」

「そうだね」


 何かできることはないだろうか。

 私たちはそう思いながら、夜の村を歩く。

 そして、小さな祠にたどり着いた。


「ファルス様、ここって」

「二人が言っていた村の守り神の……ミモザ、僕の後ろに」

「ファルス様?」

「何かいる」

「え?」


 祠から不思議な気配が漂っていた。

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『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』

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