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キセキレイと道案内③

「さぁ、君の力は精霊を生み出すことだ。その力で、新しい命を生み出してくれ」

「はい!」


 自分のことは案外、自分じゃわからない。

 ファルス様に力を教わった。

 私に何ができるのか。

 やることは変わらないのに、いつものよりも気持ちが楽だ。


 折り紙を取り出し、膝の上で折る。

 それをファルス様は眺めている。


「鶴かい?」

「いえ、今回はキセキレイという鳥をイメージして折っています」

「キセキレイ? 聞いたことのない鳥の名前だね」


 それは当然だろう。

 この世界には存在しない鳥の種類だ。

 前世ではほとんどベッドの上で過ごした。

 退院しても自宅待機で、退屈な時間を紛らわすために、動画を眺めていたりした。

 その中で、動物の紹介をしている動画があった。


 キセキレイ。

 体長二十センチほどの小鳥で、見た目はスズメに少し似ている。

 彼らは人や車の行く先を少しずつ移動しながら、餌となるカゲロウやユスリカなどの餌をさがす習性がある。

 その様子は、まるで道案内をしてくれているようだった。


 村までの道案内をしてもらうには、この鳥が一番だろうと思った。

 折り方のレシピはない。

 私が知っているキセキレイの見た目から、それに近づくように折っていく。

 前世でもやることがなかった私は、暇を見つけて折り紙を折っていた。

 お陰で今は、初見の物でもある程度は近い形に折ることができる。


「できました!」

「凄いな。ちゃんと鳥に見える。鶴とも違う」

「ありがとうございます」


 ここに魔法を……ううん、精霊を宿す。

 方法は今までと同じ、付与魔法の要領でいいはずだ。

 飛行、探索、案内。

 付与する効果をイメージして、一緒に私の願いを込める。

 二人の住む村を探してほしい。

 二人を無事に送り届けられますように。


 効果が付与されたことで、キセキレイの折り紙はパタパタと飛び上がる。

 そのまま上昇し、ぐるぐると周囲を飛び回る。


「探してくれているんだね」

「はい」


 しばらく待つ。

 すると、キセキレイの折り紙はゆっくりと降下してきた。

 私の手のひらに留まる。


「見つかった?」


 小さく頷いたように見えた。


「じゃあ、案内してもらっていいかな?」


 私がお願いすると、キセキレイの折り紙は跳び上がり、馬車の先頭を舞う。

 こっちだぞ、と、教えてくれている。


「よし、出発だ」

「はい!」


 キセキレイの道案内に従いながら、ファルス様が馬車を走らせる。

 飛ぶ鳥を見つめながら思う。

 確かに、あれがただの付与魔法による行動には見えない。

 私の想いに応えて村を探し、案内を頼んで頷いた。

 まるで、生きている本物の鳥のように羽ばたく。


「本当に……」

「精霊だよ。君の想いから生まれた。いわば君の心の分身だ」

「私の……」


 分身。

 私は自分の胸に手を当てる。

 今までも、私の心が形になって、命を宿して羽ばたいていた。

 それが多くの人の元に届き、支えになっていたのだとしたら……。


「嬉しいです」

「そうか」


 自己満足なんかじゃなかった。

 私の想いは、善意は、誰かに伝わっていたんだ。

 精霊となり、折り紙に宿って。


「効果が長く続くのも、付与魔法ではなく精霊として生まれたからだよ。精霊の魔力は、源流となった物に依存する。君が生み出した精霊は、君の想いが魔力に籠っている。故に、源流は人の想いだ」

「願うことで、魔力が補充されるということですか?」

「簡単に言うとそうだね。君、鶴が届いた人に、折り紙に願いを書くよう記していただろう?」

「はい。その効果が発動して、困っている人の助けになればと」

「付与魔法が使えない人が、願いを書くだけで効果を発揮するなんてありえないよ」


 そう言いながらファルス様は笑っていた。


「ありえないは言い過ぎじゃ……そういう効果を付与しておけば可能じゃありませんか?」

「それができるのは君だけだよ」

「私だけ……」

「僕も多くの魔法使いを見てきたし、パーティーにも優秀な魔法使いがいる。彼も言っていたよ。こんな芸当は、同じ魔法使いにもできないってね」


 勇者パーティーに選ばれるほどの魔法使い。

 そんな人ですら、私がやってきたことが異常だと言っているらしい。

 改めて思う。

 私の力は……。


「どうして、こんなことができるんですか?」

「さぁね。それはわからない。君と同じことができる人に会ったことがないから」

「そう、ですか……」

「ただ一つ言えるのは、君が特別だということだ」

「――特別……」


 なんでこの程度の魔法も使えないのか。

 才能がない。

 無能で、付与魔法以外に取り柄がない失敗作。

 誰からも期待されなかった。

 そんな私に彼は――


「誇るべきだよ。君が持つ才能は、君にだけ許された奇跡だ」

「――!」

 

 誰かに認めてほしかった。

 自分自身の欲に気づいたからこそ、欲しかった言葉がたくさんある。

 ファルス様は私に、その一つをくれた。

 

 君は特別だ。


 貰った言葉を噛みしめるように、私はぎゅっと自分の胸に手を当てる。


「ありがとうございます」

「助けられているのは、僕のほうだけどね。ほら」


 ファルス様が指をさす。

 前方の森の中に、人工物が姿を見せる。

 石を積んで作られた簡易的な門だ。

 木の柵で覆われた小さな村が顔を出し、馬車が止まる。


「到着しました。この村で間違いありませんか?」


 老夫婦が馬車の窓から外を覗く。

 二人とも小さく頷いた。


「はい。ここが私たちの村です」


 ファスル様はニコリと微笑み、老夫婦を馬車からゆっくりと降ろす。

 私がその様子を見守っていると、案内してくれたキセキレイの折り紙がお爺さんの肩に乗った。


「これは……?」

「その子が道案内をしてくれたんです」

「そうでしたか。ありがとうね」


 お婆さんがキセキレイを優しく撫でてあげた。

 本物の鳥のように、頭をピコピコ動かして可愛らしい。


「あの、よければその子を、外出の際は連れて行ってあげてください。道案内を頼めばしてくれます」

「本当ですか? でもこの子は……」


 見て、触れたから気づくだろう。

 二人とも疑問を浮かべている。


「はい。折り紙です」

「彼女が作った折り紙の精霊です。ちゃんと意思を持っていますよ」

「精霊……そんなに大切なもの、受け取っていいのですか?」

「はい。その子たちに込めた願いは、お二人が迷わず、行きたい場所に行けるように……でしたから」


 想いが精霊の力になるのなら、二人が願い続けることで、キセキレイの折り紙は生き続ける。

 次に孫の顔を見る機会があったら、ぜひとも紹介してあげてほしい。

 そう伝えると、二人は嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます。道案内だけじゃなく、こんなに素敵な贈り物までもらって」

「ワシらは幸せものだ」

「――いえ、こちらこそ」


 感謝の言葉を貰えるだけで、私の心は満たされる。

 そう、私はずっと……これがほしかったんだ。

【作者からのお願い】

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短編時にしてくださった方もありがとうございます!

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次回をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] キセキレイ、見てみたいです。 家の近くの道路や駐車場にいるのはハクセキレイなので。 以前、銘に『鶺鴒(セキレイ)』と名付けられた高級な竿を見て知った鳥です。
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