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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
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09 海賊令嬢は口元を隠す

「…殿下。私がお茶会に出ない理由は―――悪夢のせいです」

「悪夢ぅ?」

「三歳の頃から見る悪夢なんですが…」


 登場人物がギーズゴオル殿下とレジレンス殿下とアイリビィ様だって辺りは適当にぼかし、極力大雑把に説明をする。


「毒殺犯になって処刑宣告される夢ぇ? えらく物騒だな、オイ」

「ほんと、物騒ですよね、ふふ…」


 ちなみに処刑宣告するのは殿下ですよ、ふふふ……。


「家族はこの夢を大層気に掛けておりまして」


 本当はみんなたいして気に掛けてないけどね。

 呑気というか、所詮夢だと思ってるフシがあるというか。

 正直うちの家族、どうなんだろうって思ってるけど、

 まぁでもそこは伏せるとして。


「家族が落ち着くまではお茶会への参加は見合わせたいなぁと。そんなわけで、私がお茶会に参加しない事をどうか殿下からもお庇いいただけたらなぁと」


 殿下がどう答えるのか不安で、でも今お願いしないでいつするのって思うわけで、私は余程真剣な顔をしていたのだろうか、じいっと私の顔を眺めていた殿下がふぅっと息を吐き、


「判った」


 そう仰った。


「正直お前がお茶会辞退したところで俺には何の関係もねぇし」


 それはそれでちょっと傷付くんですけどね。


「そもそもお茶会に来ている女どもなんざ、しょせん次期皇太子のレジレンス狙いだしな。俺の立場なんざ数合わせもいいトコだからよ」


 あ、そういう意味。

 私ならギーズゴオル殿下狙いになるけどなぁ。


「ちなみに海賊令嬢がレジレンスの相手候補として最有力らしいぜ?」

「海賊令嬢と言うと、エナゴーテイク公爵家の」


 エナゴーテイク公爵家は海賊の子孫。つい100年ほど前まで各地の海を荒らし廻ってたテズビィ大海賊団がレーダーゼノン帝国と契約し、弱体化していた海軍を立て直し、その功績で公爵位を得たという新興の家門。その為、エナゴーテイク家の人々は別名として海賊公爵、海賊令息、海賊令嬢などと呼ばれる事があった。かつては蔑称としての意味合いが強かったけど、近年では愛称化していたりする。


 つまり、新興貴族ではあるものの大貴族としての評判は悪くないというわけで。


 レジレンス殿下の相手候補の二番手はアーティボート侯爵家のミルクレア嬢で三番手は―――と、殿下が何人かの令嬢の名前を挙げる。


「こいつらは全員、脇目も振らずにレジレンスに照準当ててるからな。俺の事なんざ視界にも入ってねぇ」

「そうなんですね」


 殿下の美貌を視界にも入れないなんて勿体ない。


「それ以外の女達はどっちつかずだ」

「どっちつかず?」

「世間的に見て誰が最有力だろうが、最終的に選ぶのはレジレンスだろ? みんな内心では我こそはってなモンでチャンスは窺いつつ、保険として俺にも一応粉をかける」


 くっそ、やっぱり狙われてはいるんじゃん。

 例の悪夢さえなければ私だって粉かけるのに。


「最初から俺狙いなのはレジレンスの相手役候補として些か厳しい層―――侯爵家以下の令嬢だよ」

「…となると」


 伯爵令嬢アイリビィ様が脳裏に浮かぶ。

 ギーズゴオル殿下はアイリビィ様とは幼馴染みで、お茶会の様子からしてもかなりお仲がよろしいわけで。ネックは3歳差だけど、それこそ殿下が選べばいずれ―――。アイリビィ様と婚約して、そして目出度くご成婚…て感じになるのかなぁ。


(あ、痛っ)


 ちょっと胸がチクッとした。


 ひょっとして私が将来アイリビィ様に毒を盛る理由って。


 いやでもどうかなぁ。確かに殿下の事、好きになりかけ―――いや、もう好き、だけど。じゃあアイリビィ様が憎いかというとそんな事はないというか。

 お茶会での件もあってそりゃあ印象はよろしくない。

 それは確か。

 でも、妬ましいとか憎いとか殺したいとか、そういう感情は今んとこ無いわけで。


 まだぜんぜん淡い恋だからだろうか。


 まぁでも今後どうなるかなんて判ったもんじゃないけどさ。


 とりあえず今の私がやるべき事は、リグナスの幽霊狩りとやらを猛スピードで終わらせ、さっさと殿下と疎遠になる事よね。











 私が次にギーズゴオル殿下からの二回目の喚び出しを受けたのは一ヶ月後だった。

 喚び出し理由は勿論、件の幽霊狩り。


 殿下の私人魔術師カルケイビタンさんの移動魔術で皇宮の表門に着くと、門の所に殿下付の使用人が待っていたので今度は使用人の後に続いた。

 殿下の紺碧宮への通路はお茶会会場への通路と途中までは一緒だ。分岐点は英雄門で、英雄門をくぐるとお茶会会場への通路、くぐらない方の道を選ぶと各皇族の宮への通路へと繋がる。


 ふと見ると女官に先導されながら、今まさに英雄門をくぐろうとしている令嬢がいた。


(今日って皇宮でお茶会があったんだっけ?)


 どうせ辞退するにしろ、招待状が来ていたなら一応は目を通した筈なのに心当たりがないような。私へは招待状を送らないよう殿下の口から指示でも入ったとか? いやでも普段通りのお茶会なら殿下だって参加の筈では…なんて思いつつ眺めていたら、うっかり令嬢と眼が合っちゃった。


 令嬢は緩いウェーブのアッシュブラウンの髪、

 理知的で穏やかそうな眉と落ち着きの有る深緑色の瞳をしている。


 令嬢はニコッと笑い、


「こんにちは。お会いした事あったかしら」


 私の方に近寄ってくる。


「不躾に眺めてしまって申し訳ございません。恐らく初対面だと思いますわ」


 そう言うと、


「あら、それなら初めまして」


 令嬢が挨拶してくれた。


 感じの良い方だなというのが第一印象。

 令嬢を先導していた女官は私に会釈をする。


「サーレンシス家のご令嬢でございましたよね? どうぞまたお茶会の方にもいらしてくださいまし」


 よく見たら初めてお茶会に参加した時に私を先導してくれた女官さんだ―――なんて思ってたら、


「サーレンシスの?」


 令嬢が目を見開く。

 そしてさっきよりもずっとにこやかに笑った。


「サーレンシス侯爵様のご令嬢なのね。初めまして。私はベルザネート・テズヴィ=エナゴーテイク。ベルザと呼んで下さいませね」


「エナゴーテイク…」


 レジレンス殿下の婚約者候補一位の海賊令嬢だあ。


「こちらこそ初めまして。サーレンシス侯爵家のライラです。どうぞライラとお呼びを」


 私が挨拶をするとベルザ様は益々にっこり微笑んだのだけど、その後、長く垂らしたサイドヘアを指先に搦めて口元を隠した。


「よろしくね、ライラ様。いつかお茶会で会えるのを楽しみにしています」

「…はい。是非」


 そうやって円満にご挨拶をした後、それぞれの行く道に分れたものの、


(なんだろう。感じの良い方―――と最初は思った筈なんだけど)


 妙に気になってしまった。


 ベルザ様は髪で口元を隠す癖があるんだろうか。別になんてことのない仕草の筈なんだけど、ほんの少しだけ不快感が掠めたのよね。


 まぁでも皇宮のお茶会には当面行く予定はないし。少なくとも"悪夢の未来"を回避完了させた後じゃない限り行く気ゼロだし、そう頻繁にお会いする機会もなかろうし―――気にする事ないか。


(それよりも謎なのがお茶会の日と幽霊狩りの日が同日にある事だわ)


 殿下は今日は幽霊狩り優先でお茶会ご欠席ってこと?


 そんな事を思いつつ使用人の後をついて歩いている間に紺碧宮に着いた。






 紺碧宮のギーズゴオル殿下の部屋にて、殿下、私、悪魔の三人が揃う。

 殿下が前回同様に使用人達を人払いすると、リグナスは私達二人の顔を見て、


「第一回幽霊狩りによくぞ集まってくれた、我が精鋭達よ!」


 そうキリッと宣言をする。


 次の瞬間、殿下が卓上にあったペンをリグナスにブン投げる。ペンは見事にリグナスの眉間にブッ刺さった。人間だったら絶対死んでるってくらいに深々と刺さった。


「なんでてめぇが隊長ヅラなんだよ、ああん?」


 殿下が地を這うような声でドスを効かせると、リグナスは額からペンを引っこ抜きながら、


「ノリだよ、ノリ。ちょっと威張ってみたかったんだよ! 全く、悪魔への怖れとか少しくらい持って欲しいなあ!」


 プリプリ怒りつつ、本題に入った。


「とりあえず今日、みんなと力を合わせて冥府逝きにさせる霊についてなんだけど」


 再度キリッとする。


「ざっと調査した感じ、薔薇園にいるアレ。アレが今んトコ1番の難物っぽい。アレを冥府に連れてくのはなかなかに骨が折れそうだけど、今後の励みの為にもひとまずはアレに着手を…」


 などと言おうとするので私は遮って挙手した。


「はい、ライラちゃん、発言どうぞ」

「薔薇園の女官の霊ですよね? あの方は無理です。あの方以外なら頑張れますが、あの方だけはお伴は出来かねます」


 そう言うと、


「ライラ。アレが怖ぇのは同意だが」


 殿下が眉を顰める。


「幽霊狩り第一回からサボリじゃテンション下がるじゃねぇか。お前、あの霊と何やら因縁でもあんのか?」

「因縁大有りです」


 私は力強く肯いた。

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