表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
64/81

64 やけに明るいカルケイビタンさん

 その翌日も私は相変わらずフテ寝。


 家族は「しばらくそっとしておこう」と、今の所、腫れ物扱いで許してくれてる。ギーズゴオル殿下の婚約発表と同時にこのザマなので、世間体的にどうなのか―――とちょっと思ったけど、甘やかしてもらえているのを良い事に、私は日がな一日妄想に身を(ひた)す。


 さぁ、脳裏にギーズゴオル殿下の姿が浮かべましょう。

 そのお顔のすぐ下の長いお首に指を絡め…たいけど、背が届かないので殿下には横になって貰わないとね。

 では改めてと、寝椅子に横たわる殿下を妄想し直す。

 よっし、手が届く。

 私は殿下の首筋に指を絡めてキュウッと締める。


 時には短刀で心臓を貫き、

 時には長剣で袈裟懸けに斬り、

 時には崖っ縁から突き落とし。


 そうだわ、くくく。

 サーレンシス家が影で使役する闇の秘密組織に殿下の暗殺指令をば―――。


 なーんてね。


(そんな都合のいい組織なんてあるわけないっての。いたら良かった、闇の秘密組織!)


 なぁんて事を考えていたら―――唐突に窓がバタンと開いた。


「え?」


 と思ったら虹色に光る伝令鳥が飛び込んできて、

 室内を旋回する。

 そうして告げる。



 ライラ


 イマ スグ コウグウ ニ コラレタシ


 ムカエ ヲ オクル


 ギーズゴオル



 伝令鳥は伝言を告げるといつものように空気に溶けて消える。


(夢かしら?)


 この()に及んで殿下が私に御用があるって一体?

 独身宣言撤回と婚約についての言い訳?


 でも、仮にも皇子殿下が、たかが。

 たっかっが、女友達の一貴族令嬢に()いた嘘の言い訳なんかする義理もないわけで。


 ふふふ、やっぱり夢よね。だってさっきの伝令鳥、コンドルくらいのサイズだったし。最近の殿下の伝令鳥は鷲くらいのサイズだった筈だし、さっきのはさすがに大きすぎよね。


 うん、夢だわ、これ。確定。


 そんなわけで引き続き殿下殺害の妄想に耽溺しようとしたんだけど、

 その直後、扉がノックされた。


「お嬢様」


 扉の向こうから聞こえる私付きメイドの声。


「…なあに?」

「皇子殿下の私人魔術師様がお嬢様をお迎えにいらっしゃってます」


 あれ? さっきのは夢じゃなくて本物の伝令鳥?


(本当に殿下が私をお喚びに?)


 私はガバッとベッドから身を起こした。


 半信半疑でエントランスに向かうと、ねずみ色のフードコートを目深に被ったカルケイビタンさんが確かにいる。


 皇宮のお茶会時の送迎は普通に公人魔術師のお世話になっていたから、カルケイビタンさんが我家に来るのは久々で、懐かしい―――と思ったけど。

 本当に本当に確かにカルケイビタンさん―――なんだけど。

 何故だか妙にニコニコしているのがカルケイビタンさんらしくないような。


 カルケイビタンさんは私の顔を見ると、


「お嬢様、お久しぶりです」


 破顔する。


 カルケイビタンさんの破顔て―――。


 かれこれ5年―――いえ、そろそろ6年? も前から知ってる方ではあるけど、破顔したカルケイビタンさんなんて今日初めて見たけど?


「お、お久しぶりですね、カルケイビタンさん、その…」


 ずいぶんと明るくなりましたね…なんて言ったら失礼よねぇ? と悩んでいたら、カルケイビタンさんは苦笑する。


「すみません、実は妹の病気が最近全快しまして。それですごく嬉しくてつい」


 カルケイビタンさんは気恥ずかしそうに笑う。


「あ、そうだったんですか」


 カルケイビタンさんには病弱な妹さんがいて、その妹さんの為に働いていると以前に殿下が仰ってたっけ。妹さんの病気が気がかりで無口キャラになってただけで、素は割と明るい人だったのかもなぁ。


「良かったですね」

「はい、ありがとうございます」


 ニコニコしながらカルケイビタンさんは魔方陣を展開させる。

 だけど―――何故だか指パッチンをした。


(指パッチン?)


 カルケイビタンさんは移動魔術の時、詠唱を必要した筈では? 破格に短い詠唱だけど、それでも必要だった筈。


 なのに指パッチンなんてまるで―――。


 カルケイビタンさんの魔方陣に足を踏み入れるなんてあまりにも慣れすぎていて、そのせいで私はとてもとても無防備で、ほとんど無意識で。

 指パッチンの違和感に気付く前に私の足はすでに魔方陣の中だったのよ。


 足が魔方陣を踏んだ瞬間、視界がブレる。


 それと同時に耳鳴り。


 思わず咄嗟に目を閉じる。

 だけど耳鳴りはすぐに収まったから、

 ゆっくりと目を開ける。


 すると、そこは異空間。


 張りぼての天球図のような背景がどこまでも果てしなく続いている不可思議な世界に私はいた。


 そして目の前にカルケイビタンさんがいた―――けど。


「カルケイビタンさん……じゃないわよね?」


 空間が揺らぎ、私の見ている前でカルケイビタンさんはリグナスに変化する。


「ライラちゃん、僕でしたー」


 まぁ、予想は付いていたけど。


「どういう事?」


 問おうとして、でもすぐにハッとしたわ。


(さては…)


 私は歯噛みする。

 そうしてリグナスをギロリと睨んだ。


「殿下の差し金ね? 私がリグナスに殺人依頼しようとした事に腹を立てて、私を殺し返そうとリグナスと契約したのね? あなたね、交渉決裂した内容をいちいち殿下に報告してるんじゃないわよ」


 言いながら、でもそれだと殿下、私の為に魂をかけたって事になっちゃわない? って気がつく。そして、殿下の魂を消耗品にするなんて許せないとかチラッと思ったりもして。どこが邪悪よ、私ってこんなにも健気じゃないの。なーんて自画自賛しちゃったりもして。


「えぇ? 違う違う」


 そしたらリグナスは否定する。


「ギーズ君がライラちゃんを殺すなんてあり得ないよー。わざわざ冥府にまで迎えに行ったんだよ? あのギーズ君が!」


 止めて欲しい。

 それを言われると胸が温かくなるし、

 せっかくの殺意が目減りしたらどうしてくれんのよ。


 そう思いながら私は目を閉じる。

 すると瞼の裏を殿下との想い出の日々が走馬灯のように過ぎていった―――けど、あ、大丈夫みたい。殺意、減ってないみたい。


 私は胸を撫で下ろして再び目を開けた。


「まぁ、僕がライラちゃんを迎えに来たのはギーズ君の依頼だからではあるんだけど」

「なんで? 本物のカルケイビタンさんはどうしたの?」


 不思議に思って問うと、

 リグナスは「うーむ」と眉間に皺を寄せる。

 深刻そうな顔をして、


「実はねぇ。カルケイビタン君、ギーズ君を裏切ったんだよねぇ」


 そんな事を言う。


「ええ!?」

「あはははー」


 あのカルケイビタンさんが裏切り?

 笑い事じゃないんですけど!?


 カルケイビタンさんは公人魔術師試験に落ちた自分を雇ってくれた殿下にすごく感謝していたのよ。以前こっそり教えてくれたけど、お給料は公人魔術師と同額って言ってたわ。いつかご恩に報いたいとも言っていた。そんなカルケイビタンさんが殿下を裏切るなんて俄には信じられないんだけど。


 リグナスはふぅと溜息を漏らす。


「ギーズ君さぁ、カルケイビタン君にも例の目印つけていたんだよね」

「お気に入りの目印?」


 そりゃあ馬に目印つけるくらいだもの。

 長年騙して弄んだ"たっかっが女友達"にすら目印つけてるくらいだもの。

 お気に入りのカルケイビタンさんにもつけてそうよね、そういえば。


「ギーズ君いわく、夕べ突然カルケイビタン君の位置把握に齟齬を感じたんだってさ。それでギーズ君、単身捜索に出たわけだけど」


 リグナスは私を見てから首を振る。

 とても哀しそうな表情で。


「そこでねぇ。ギーズ君はカルケイビタン君の裏切りの現場を見ちゃったんだよ…」


 残念だよねぇなんてしみじみと呟いてるけど。

 私はどうにも信じられなかった。


 初対面の頃のカルケイビタンさんは暗い雰囲気を漂わせていたけど、3年の間に、人見知りで人付き合い下手なだけだって気付いたし、地味に優しい人だったし。


 そのカルケイビタンさんが殿下を裏切るなら、何か理由がある筈。


 だって冥府にまで迎えに来てくれた恩ある殿下に殺意滾らせてるこの私にしてからが、実に立派かつ真っ当な理由があるんだものね。


 そう言ってやると、リグナスは指パッチンをして、空間に映像を投写させる。

 すると横長の長方形に切り取られた映像に―――仮面をかぶった人物が映し出される。仮面は美しいシャム猫の(かたち)だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ