表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
44/81

44 悪魔の置き手紙

 と言う事は。


 "ヒントしか無い"って言ってた事がリグナスの嘘だったって事なのかしら。でも殿下はその事には言及なさらなかったわよね。

 あるいはリグナスが追加で呪いの内容までメモ書きでもしていったとか?

 そんなサービス、わざわざする?

 そもそもリグナスは魔神との誓約で滅亡理由に関わるユンライ様の呪いの内容は口に出来ないって言ってたわけで。口には出来ないけど紙に書くのはいいって事? そんな穴だらけの誓約ある?


 私は小首を傾げる。


 うちの城の地下の空き空間(スペース)から紺碧宮へ戻る時の、直前のリグナスの胡散臭い笑顔が脳裏を過ぎる。


 紺碧宮に舞い戻って、この件での違和感について殿下にお窺いしたくなった―――けど。でも、お互いの間でもハノイヴァについては口にしないって、それこそ誓約を交わしてしまったわけで―――。


 しばらくああでもないこうでもないと悩んだけど、万が一両耳朶がコーデリア様のしょうもない物語の朗読をし始めたらと思うと恐ろしくって、それで私はスパッと忘れる事にした。


 腹を決めて再び歩き出そうとして―――。


「……えーと。ここどこ?」


 考え事をしていたせいで、気がついたら道に迷っちゃってた。


 周囲を見回す。


 通路の左右は背の高い植樹に囲まれてて、自分がどこに居るのかわからない。でも、めちゃくちゃ嫌な予感もする。この場所は確かに馴染みはないけれど、よくよく見回してみると何となく知ってる、そういう感じで。


「あ」


(思い出した…)


 ここは3年前に一度だけ来た事のある道。

 初めて来たお茶会の帰りに殿下が送ってくれて、

 道を間違えてしまった通路。


 恐る恐る突き当たりの角を曲がると案の定薔薇園が見えた。


 なんだか禍々しい気配を遠くに感じ、

 ああ、うん、はいって思うほか無かった。


 薔薇園の女官の霊―――メネルト・ワナティカ様は相変わらず薔薇の木に囲まれた芝の空間の真ん中に佇んでいる。3年前に見た時同様、立体的な三次元の背景の中にただ一人のっぺりと、遠近感のない肖像画のように佇んでいる。そしてどす黒いオーラを発し続けている。


 引き返したくなった。


 だけどこの通路は馴染みが無くて、戻っても紺碧宮にたどり着ける気がしなかった。少なくともこの道を真っ直ぐに行けば間もなく皇族専用門に行き着く筈で、その時に門兵さんにでも事情説明すれば、一般用の表門まで送ってくれる筈。


 そう思い、私は一歩を踏み出す。


 薔薇園に近づくにつれ、

 メネルト様の気配がどんどん濃くなって、

 背筋に寒気が走る。


 ついにメネルト様の横を通り過ぎる。


 メネルト様の佇む場所と私の歩く通路の距離は3リメトルほどは離れているけど、それでも全身に鳥肌が立つ。だけど私はメネルト様の存在には気配すらも一切気付いていないようなフリをして行き過ぎようとして、


「?」


 ふいに耳が―――メネルト様の囁くような小さな早口を拾った。


「どこへ行った? どうして消えた? どこへ行った? どうして消えた? どこへ行った? どうして消えた?」


 不意打ち過ぎて一瞬振り返りそうになったけど、なんとか堪えて通り過ぎる。メネルト様の気配が届かない辺りまで来て、ようやく私は人心地がついた。


(前に連呼していた言葉とは違ってるわね。以前は―――なんだっけ。マバカサとかカサマバとか…)


 そこからしばらく歩いて、なんとか皇族専用門に着く。

 門兵さんが表門で待機してくれているだろうカルケイビタンさんと連絡を取ってくれたので、私は無事表門に着く事が出来た。

 これまでのようには皇宮に喚ばれる事はない―――そう言うとカルケイビタンさんは「お寂しくなりますね」と言ってくれた。






 帰宅した私は、ふと思いついて書庫へ向かった。

 勿論目的は例の隠し部屋。

 3年前、隠し部屋が発見された当初は物珍しさもあって頻繁に訪れたけど、その内飽きたし、ここ半年くらいは足すら向けていなかったのよね。


 書庫に入り、隠し部屋の扉を開けようとして、


「え!?」


 思わず声を上げた。

 扉の真ん中に描かれていた筈の模様―――神紋が消失していたからだ。


 恐る恐る扉を開ける。

 以前は室内に足を踏み入れるだけで部屋中が昼日中のように明るくなった筈だけど、何故か真っ暗闇のまま。


 神紋も消えていたし、

 ご先祖様の神力切れというやつだろうか。


 仕方なく私は書庫にあるランプに火を点けて、改めて隠し部屋の中に入り直す。


 相変わらず、机の引き出しにはご先祖の残したハノイヴァ語の本や書類の束が納められている。その中のひとつをなんとなく手に取り、開く。


「……あれ?」


 私は目を見開いた。

 その本には文字が載っていなかったからだ。


「まさか」


 慌てて他の本や書類を開く。

 だけどどれもこれも真っ白だった。


(ご先祖の神力が切れたと同時に結界も解除されて、そのせいでハノイヴァ語は溶けて消えてしまったって事?)


 私は隠し部屋から飛び出し、お兄様の部屋へ向かった。


「お兄様、隠し部屋の中の本や書類が真っ白になってるんだけど!」


 するとお兄様は訝しむような顔をする。

 なんだろう、この顔。


「さ、3年前、ギーズゴオル殿下と私とお兄様の3人でいる時に書庫の奥の隠し部屋を発見しましたよね?」


 まさか忘れてしまったの?


「ああ、憶えてるとも」


 ホッとしたけど、でも。


「隠し部屋の中には沢山の本と書類がありましたよね?」

「あったな」

「書かれているのは全部知らない文字で。お兄様、興奮して調べてましたよね。学問所の先生に訊いたりして」


 するとお兄様は危惧したとおりの反応を見せた。


「知らない文字? ライラ。お前が何を言ってるのかわからないよ。だってご先祖の本や書類はもともと全て真っ白だったじゃないか」


「そんな」


「ご先祖はなんでこんな真っ白な紙の束をわざわざ封印したんだろうってみんなで大笑いしたじゃないか。忘れたのか? ギーズゴオル殿下なんか、ノート替わりに一冊貰っていいかって仰ってお持ち帰りになったろう?」


 なんて事だろう。

 すっかり記憶が改竄されている。






 私はとぼとぼとお兄様の部屋を出た。

 自室へ戻ろうかと思ったけれど、隠し部屋の扉を開け放して来た気がして、確認の為にもう一度書庫へ向かう。


 見ると扉は案の定開いていた。

 だけど扉の隙間から光が漏れている。


 ランプの灯りとは到底思えない、まるでご先祖の結界が元通りにでもなったみたいな、昼日中のような明るさで。


 でも、私が足を踏み入れる前なのになんで?

 まさか今誰かが部屋の中にいるのだろうか。


 不思議に思ってまた恐る恐る部屋を覗く。

 するとご先祖様の机の上に封筒が置かれていた。


「え…」


 さっきまでは確実になかった封筒だ。


 特に封蝋などはされておらず、私は中身を覗いてみた。

 便箋が一枚だけ入っていて、それを取り出して開くと、



―――ライラちゃん、バイバイ。またいつか!



 走り書きのような文字で書かれてあった。

 ひょっとしてリグナス?


(と言う事は―――隠し部屋の結界が解除されてるのをいい事に、リグナスが本や書類の中身を真っ白にしていったのかしら。ついでに記憶改竄もやっていったのかな…)


 さっき私がこの部屋に来た時、実は近くに居たのかも。

 私がお兄様の部屋へ行ってる間にこれを書いたのかな。


 そんな事を考えていたら、

 リグナスの文字がふわりと便箋から浮き上がり、

 陽炎のように空間に溶ける。


 次には室内の灯りが薄暗くなる。


 私が部屋から出ると、完全に真っ暗になった。


 私は隠し部屋の扉を閉めて施錠する。


 きっといつかお父様かお兄様は部屋の中の真っ白な本や書類を片付けて、メモ紙替わりにでもするんだろうなぁなんて思いながら。











 ちなみに殿下と私は皇宮のお茶会でしか会える場がなくなったのかというとそんな事はなかったわ。なんと、殿下の方がサーレンシス城に遊びに来てくれるようになったのよね。

 1~2ヶ月に一度くらいだけど、イライゼルお兄様をだしにして遊びに来たり、瞬間移動で私の部屋のバルコニーに直の場合もあるという感じ。

 その段になって初めてうちの家族やアラクネイティズ公爵ご夫妻は私と殿下がいい仲なのではないかとソワソワし始めたけど。


 まぁでも殿下は相変わらず独身主義だったし、

 私は相変わらず"女友達"という立場でしかないまま2年が過ぎて、

 私とギーズゴオル殿下は17歳になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ