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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
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02 未来の被害者と仲良く?お茶を

「気にしたか?」


 ギーズゴオル殿下は面倒臭そうに仰ったけど、私の頭の中はそれどころじゃない。

 例の悪夢の件で頭が一杯だった。

 だって、あれが未来の記憶なら。

 あの悪夢が前世でもなく先祖の記憶でもないのなら。


 将来私は薄桃髪のア○○○ィという名前の女性を毒殺するって事?


 今まで可能性として考えた事がないわけではなかったけど、まさかそんな。


 うっかり思考の渦に呑まれかけたけど、自身が高位貴族令嬢である立場をハッと思い出す。皇族を前にした貴族令嬢としては、にっこり笑って「気にしていませんわ」とか言う場面だよね、ココ。

 と言うわけでなんとか令嬢らしくやりすごすと、公爵ご夫妻もうちの両親もホッとした顔をして「あとは若い二人で」とばかり、客間に私と殿下を置いて出て行く。


 二人きりになった途端、私は愛想笑いを維持したまま皇子殿下に問うた。


「皇子殿下」

「名前で呼ぶ事を許す」


「ありがとうございます」

「ああ」


「では、ギーズゴオル殿下」

「ああ」


「突然ですが、ひとつお訊ねしてもよろしいでしょうか」

「許す」


 殿下は偉そうに顎を上げる。


「ひょっとして、ですが。お知り合いにア○○○ィ的な名前の方、いらっしゃいます?」

「ア○○○ィ?」


 殿下は一瞬だけ眼をぱちくりさせてから「……それならばアイリビィが該当するな」なんて言うから私は思わず目をカッぴらいたわ。


 ア○○○ィ。

 アイリビィ。


「俺の幼馴染みだ」

「そ、そうなんですね」


 私は笑顔のまま凍り付いた。


 殿下の知るアイリビィという名の幼馴染みは私や殿下より三つ年上の女の子で、アイリビィ・エルカントという名前だという。エルカント伯爵家の令嬢で、エメラルド色の瞳で、そして、ふわふわの薄桃色の髪だという。


 やめてよね、夢の中の通りじゃん。


 私が話をふったせいもあるけど、殿下は楽しそうに"アイリビィ"の話をする。

 私ははりついた愛想笑いでその話を聞きながら、


(私、皇宮のお茶会に招待されても絶対行かない!)


 そう心の内で誓ってた。




 そうは言っても現実は無情で。




 ギーズゴオル殿下とお会いした三ヶ月後、

 私は皇宮の庭園で開催されるお茶会に招かれちゃってた。




「欠席してもいいですか?」


 そうお父様にお願いしてみたけどあえなく却下。侯爵家の令嬢としては皇宮からのお招きには嫌でも一度は伺わなくちゃいけないんだってさ。

 例の悪夢の中の登場人物がギーズゴオル殿下にそっくりだった事まで話してみると、


「その夢、まだ見てたのかい?」


 なんて、驚いていたけどね。

 でも諭すように、


「一度でもお伺いすれば貴族令嬢の義務は果たしたと言える。以降は招待状が来ても欠席してよいから、とにかく一度だけは伺いなさい」


 そう言われてしまった。

 しばらく渋面を作ったものの、私も考え直す。


 悪夢の中の年齢設定を思えば、あの夢の出来事が将来現実に起きるとしても、それでも数年は先の筈。だったらさっさと義務を終え、以降は引きこもってしまえば良くない?


 禍々しい予感に怯えながらも私はお茶会参加を決めた。

 むしろ悪夢の確認の為にもと意を決し、お茶会に臨むことにしたわけ。






 そうして迎えたお茶会当日、皇宮から私の為の公人魔術師が派遣されてきた。

 公人魔術師は魔方陣の描かれたスクロールを取り出し、ステッキを出して詠唱を始める。するとスクロール上の魔方陣が青白く光り出し、浮き上がり、するりと滑るように地面に落ちる。魔術師が更にステッキを振ると、魔方陣は数倍に広がった後、地面にピタリと吸着する。


「サーレンシス侯爵令嬢。どうぞ魔方陣の中へ」


 促されて足を踏み入れ、次の瞬間には無事皇宮の表門に到着。

 馬車だと半日、うちで雇ってる私人魔術師ミグリットさんだと休み休み三~四回くらい移動してようやく到着する距離が一瞬。

 さすが魔術師のエリート、公人魔術師は違うなーと感動。

 でも皇宮内は神殿が結界を張っていて、全ての魔術が無効化されるから皇宮内は基本、徒歩。皇宮はめちゃくちゃだだっ広さい。心の中で(お茶会会場、近いといいなぁ)なんて願ってしまう。


「サーレンシス侯爵家ご令嬢。ご帰宅の際は引き続き私が担当する事になっております。こちらで待機しておりますのでお帰りの際はお声がけください」


 そう言う公人魔術師に了承してから表門をくぐる。皇宮の女官が待機していて、私の名前と招待状を確認した後、お茶会会場まで案内してくださる事になった。


 女官について歩きながら景色を眺めていると、さすが皇宮と言うべきなのか―――あちこちに幽霊が居る。皇宮は築700年くらいだし、皇宮内のどこかに要人向けの監獄や非公開用の処刑場があるしで、けっこう色々とアレなんだよね。うちの城も築500年でそこそこ古いけど、皇宮と比べると幽霊はたまに見かける程度で、一番新しいのがユーフェかなって感じ。


 しばらくしてそこそこ大きな門に行き着く。

 女官が「この門は英雄門といって、300年くらい前に立てられたんですよ」と教えてくれた。

 女官の後に続いて門をくぐると間近に幽霊が立ってて一瞬ビクッとしたわ。


 大柄で屈強な印象の幽霊だったけど首が無かった。

 でも、なんだかブツブツ声がする。

 それも肩の上の方からではなく、少し下の辺り。


 で、気がついた。

 その幽霊、自分の首を小脇に抱えてた。


(英雄門にいて、斬首刑になった方というと、ひょっとして…)


 そんな事を思いつつ小走りで通り過ぎ、先を歩く女官に追いつく。

 そうしてまたしばらく歩くと、遠くの方から大勢の話し声が聞えてきて、お茶会の開かれている庭園に着いた。

 お茶会には40~50人前後の令息令嬢がいて、幾つかのテーブルを囲んで行儀良く談笑している。

 女官に案内された席に着くと、すでに着席しているメンツに紹介され、改めて私も名乗ろうとした。


「サーレンシス侯爵家のライラですわ、どうぞよろし…」


 だけど私は途中から言葉を失ってしまった。

 だって、その中に薄桃髪の女の子がいた件。


 脳内が真っ白になった。

 だって、そのものだった。


 悪夢の中の"毒殺被害者"―――薄桃髪の女性と。


 ギーズゴオル殿下を見た瞬間と同じく、脳内で雷鳴が轟いたわ。


(名前、名前の確認を)


 でも問う迄もなく本人が自己紹介してくれたんだけどね。


 薄桃髪の女性はエメラルド色の瞳を細めて笑う。


「私、エルカント伯爵家のアイリビィよ。アイリビィ・エルカント。アイリビィでいいわ」


ずいぶんと不躾な方だった。


 私は侯爵令嬢で、貴族の令嬢としての立場ではこの方より一応私の方が格上―――なんだけど、いきなり名前呼びを強要されてしまった。まぁでもこの皇宮のお茶会は一応無礼講らしいし、私の方が三つ年下らしいし、新参だし。それよりも何よりもあの悪夢の中の主要人物とは揉めたくないし。この流れでは私も「ライラと呼んでくださいまし」とか言うしか無くなるわけでさ。


 戸惑っていたら、


「ライラ様。私のティーカップ、空になっちゃった。ポットのお茶を注いでくれない?」


 なあんて言われちゃう始末。

 私は背筋が寒くなったわ。


 するとプラチナブロンドに水色の瞳の―――アイリビィ様と同じか少し年上に見える令息がいつの間にか近くに居て、アイリビィ様の頭を軽く叩いて窘める。


「アイリビィ。そういう事は自分でやるか、女官に頼みなさい」


 そう言ってから私を振り返る。

 見るからに品の良い優しい雰囲気の美形だなと思ったら、


「僕は皇帝の第一皇子レジレンスだ。名前で呼んでくれていいよ」


 次期皇太子と噂されてる皇子殿下だった。

 ギーズゴオル殿下とはずいぶんと方向性が違う―――と言うか、正統派って感じの皇子様だ。


 レジレンス殿下は爽やかな笑顔を向けて仰る。


「ライラ嬢、宜しく。知っていた? 僕と君、ハトコなんだよ」

「あ、はい。皇帝陛下と私の母はイトコ同士だと聞いています」


 つまり私はギーズゴオル殿下ともハトコなんだよね。


 レジレンス殿下はこっくりと肯く。


「僕達、曾祖父母が同じなんだよ。ちょっと遠いけど親戚だし、歳は君よりお兄さんだしね。判らない事は何でも訊いて?」


(この方、悪夢の中で倒れたア○○○ィ―――アイリビィ様に取りすがって必死に呼びかけていた方よね……)


 私はにっこり愛想笑いをしながら、内心では大汗をかいてた。

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