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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
19/81

19 特に哀しくはないし大事な事でもないけれど

「ライラ様ったらお茶会辞退をする事でレジレンス殿下には気が無いような演出をしつつ、本当はレジレンス殿下を狙っておいでなのよね?」


「はい?」

「うふふ」


「え? 私が狙っているのってレジレンス殿下なんですか?」


 キョトンを通り越して虚無に近い表情でベルザ様を見つめてしまった。


「いやぁね、ライラ様ったら。ご自分の事なのになんで他人事風なんですの」

「え、いえその。私がギーズゴオル殿下に度々喚ばれて皇宮でお会いしている事は、その。一部で有名みたいなんです、が。ベルザ様はその件は?」


 ひょっとしてご存じないのかなと思ったんだけど。


「勿論、知ってますわ」


 知ってんのかーい。


「私が"狙ってる"相手として出てくるお名前ならばギーズゴオル殿下だとばかり…」

「ふふ。当て馬になさっているのよね?」

「えぇ…?」


「本当はレジレンス殿下狙い。だけどあえて気のないフリをしてお茶会を辞退。そうする事でレジレンス殿下はライラ様を気に留めるようになる。―――そういう思惑なのでしょう?」


「私、そんな複雑な事しませんよう…」


 て言うか、そんな恋の駆け引きする12歳女児、ヤダ。あと、ギーズゴオル殿下を当て馬にする度胸なんてない。


「ふふ。男心を(くすぐ)る良い手だと思いましたわ。ただただ好意を全面に押し出してぐいぐい迫るよりも有効だと思います!」


 ええ~? この方、なんでこんな自信満々に断定してるの? 初対面では理知的な印象だったのに、とんだ見かけ倒し? あと、やたらと口元をサイドヘアで隠すのがやっぱり気になって仕方ない。


 て言うか、なんなんだろう。


 お兄様のお話では私の"一抜け"は各貴族に歓迎されてるって事だったし、当然エナゴーテイク公爵家もそうなんだとばかり思ってたわけだけど。でもベルザ様の読みどおり、私が結局レジレンス殿下を狙っているならトンだぬか喜びだろうに、なのになんでベルザ様はこんなに楽しそうなわけ?


 ううむ、解せぬ…。


「あの、ベルザ様」

「なあに?」

「ベルザ様もレジレンス殿下を、その。狙って? らっしゃるん……ですよね?」


 それか、ひょっとして実は他にお好きな方がいて、現在世間的にはレジレンス殿下のお相手として最有力候補となってるご自身のお立場を実は厭うていらっしゃるとか?


 だけどベルザ様はあっけらかんと肯定する。


「勿論私もレジレンス殿下を狙ってますわ。それでせっせと皇宮のお茶会に通い詰めているのですもの」

「そうなんですね…」


 じゃあなんで?

 いや、ホントなんで?

 意味不明すぎてわけがわかんない。


 いやしかし!


 絶対に理由がある筈だ。

 えーとえーとえーと。


 うん、わからん。


 困惑顔の私を置き去りにベルザ様は滔々と語る。


「私、ライラ様のお茶会不参加という"駆け引き"には本当に感心していました。でもね。残念だけれどレジレンス殿下にはその"手"は有効ではないと思うのよ」

「はあ…」

「殿下はきっと身近な女性に惹かれるタイプなのね。幼馴染みのアイリビィ様が良い例ですわ」

「はあ…」

「殿下は表向きはお茶会にいらっしゃる令嬢達に平等にお声がけなさるけれど、アイリビィ様への態度はやはりどうしても、ね。隠しても隠しきれない親しさを感じますし」

「はあ…」


 とんっっでもなくどうでもいい話だなあ。


「お互い、とても哀しいわよね」

「はあ…」


「ね?」


 ね? と言われましても。

 そもそも私が好きなのはギーズゴオル殿下だしな。


「ベルザ様。お茶会は一身上の都合ゆえご辞退申し上げた次第で、思惑とか駆け引きとか、そんな事ではありませんわ、おほほほ~」


 そう言ってみたけど、


「うふふ。何度も言わせないで? ライラ様の本音はお見通しよ」


 なんて仰る。


 私の意中の方はギーズゴオル殿下だと―――いっそ言ってしまおうかとちょっと思ったけど、そんな事を口にして、いつ殿下のお耳に入るかわかったもんじゃないしなあ。それに、そんな事、殿下にバレたら―――。


 しばし想像してみる。


 あ、マズイ。

 これはマズイ。


 なんか、殿下のお耳に入ったら、恋心を利用されそうな気がする。「そうかあ、お前、俺の事好きなんだ? じゃあ俺の命令なんでも聞くよな?」みたいなこと、しめしめって顔して言いそう。女の子に告られたからって照れる柄じゃなさそうだし、あの方。


 あれ?

 私、割と酷い男を好きになってるのかも?


 てか私、なんで殿下が好きなんだっけ。好きだけど。そうだ、神力持ちカッケーとかそういう感じだった、軽っ。でももう雰囲気もしゃべり方も最早全部好きだしな。それにアレでうっすら優しいトコも…。


 色ボケしながら混乱していると、


「ライラ様?」


 ベルザ様が不思議そうに私を見ているので正気に返る。


「失礼しました」


 そろそろお暇しようかな。

 でも、しょうもない誤解を野放しにするわけにもいかないしね。


 私は心を決めた。


「ベルザ様」

「なあに」


「私、ベルザ様とはお友達になれるのかなってちょっと思っていたんですが」

「あら。私達、もうお友達でしょう?」


「ありがとうございます。でも私、本心からレジレンス殿下に対してその気はないのです」

「だからそれは」


「ベルザ様!」


 私は少し強めに名を呼んだ。

 ベルザ様は言いかけた言葉を飲み込む。


「本当にレジレンス殿下に対してその気はないのです。なのにベルザ様があくまでその筈だと仰るなら、哀しいけれど私達、お友達にはなれませんわ。哀しいけれど。"ベルザ様"ではなく、"エナゴーテイク様"って呼ばなくてはならなくなります。哀しいけれど」


 特に哀しくはないし大事な事でもないので完全に嘘っぱちだけど、しつこく三回ほど言っとく。


 するとベルザ様はさすがに少し顔色を変える。

 私は哀しそうに目を伏せてみせる。


「あ、あら、ライラ様。その…、ごめんなさい。私、あんなにステキなレジレンス殿下に気のない令嬢がいるなんて想像出来なくて。…それでついそんな事を思いついてしまったのですわ。

 どうお許しくださいな」


「では、信じて下さるのですね? 私、ベルザ様の事、これからもお名前で呼んでもよろしいのですね?」


「ええ、勿論よ、ライラ様」

「よかったあ。嬉しいですわ、ベルザ様」


 ひしっと両手を繋ぎ合い、微笑み合う。


 うん、寒い。






 それから一時間ほど適当に談笑した後、エナゴーテイク公爵家をお暇する事にした。

 ベルザ様と一緒に客間を出てエントランスへ向かう。

 途中、廊下の壁に添って長々と飾られたタペストリーの図柄がふと目に入り、最初は何の気無しに眺めていたんだけど、


「あら?」


 気になる図柄があって、つい声を上げてしまった。


「ライラ様、どうかなさいました?」


 ベルザ様が私の視線の先を覗き込んでくる。


「あの、ベルザ様。このタペストリーの図柄って、エクスノヴァ将軍の生涯…ですよね?」

「ああ、それ」


 ベルザ様がニコッと笑う。


「そうよ。ライラ様はエクスノヴァ将軍についてお詳しいの?」

「いいえ。ただ、実は事情があってちょっと将軍について調べる機会があっただけなので、ぜんぜん浅い知識なんですが」


 私がタペストリーの中のある箇所を指さすと、ベルザ様は覗き込む。


「これがどうかしましたか?」

「ここの図柄。これ、将軍の凱旋パレードですよね? ちょっと珍しい図柄ですね。将軍が女の子を肩車してますが、この図柄は初めて見ました」


 そう言うと、


「ああ、それね!」


 ベルザ様の顔がぱぁと輝いた。

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