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悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
18/81

18 海賊令嬢からのお誘い

 帰宅すると使用人が私宛の手紙を二通渡してきた。

 一通はいつもの皇宮のお茶会の招待状だったけど、もう一通には見慣れない印璽の封蝋が捺してある。

 差出人を確認してキョトンとしてしまった。


「ベルザネート様?」


 エナゴーテイク公爵家からの招待状だった。


 ベルザ様と英雄門前で初めてお会いしたのは二ヶ月前だ。その時、別れ際に『いつかお茶会で会えるのを楽しみにしています』と仰っていたけど、その間に恐らく三回程度は皇宮のお茶会は開かれた筈で、そのいずれにも不参加だった私の事が気になったのだろうか。


(行くべき?)


 でも私のベルザ様の第一印象はあんまり良くなかったし。なんで良くなかったのかもわからない程度ではあるけれど。

 悩んだ結果、イライゼルお兄様に意見を求める事にした。


「エナゴーテイク公爵家からの誘い? ふーん。なるほどね」

「私、皇宮のお茶会をお断りしている時点で"社交"をサボっているも同然ですし、世間の目もある事だし、せめて皇宮以外の招待はお受けした方がいいのかなあって思うんだけど」


 するとお兄様はキョトンとした後「そこ、あんまり気にしなくてもいいよ」などと仰る。


「え」

「実のところ他の貴族からしたらお前のお茶会辞退は大歓迎されてるし」

「え、なんで」


「お前は身分的にも容姿的にもレジレンス殿下の相手候補として遜色が無い。と言うか、お茶会辞退するまではお前は有力候補の一人だったんだぞ」

「え、そうだったんだ」

「とは言っても3番手くらいだったけどな」


 1番手は海軍総督であるエナゴーテイク公爵の令嬢、

 2番手は宰相であるアーティボート侯爵の令嬢。


 そして3番手が―――爵位も血筋も役職もほぼほぼ突出するものが無く地味だけど全体的に上の下くらいに収まって謎のバランスを保っているサーレンシス侯爵…の令嬢。


 気のせいだろうか。うちの肩書きだけ微妙に哀しいんだけど。悪くは無い筈なのに褒められてる気はぜんぜんしない的な。


「エナゴーテイク公爵家がお前を招待したのは、ひょっとしたら探りを入れる為かもしれないね」

「探り?」

「いつお前がお茶会に復帰するとも限らないからしっかり観察して、サーレンシス家の思惑を探りたいのかもしれない。あるいは囲い込みだな。お前をご息女と親しくさせて、陣営に引き込みたいとか」

「うう、そういう事かあ、面倒臭そう。お断りしようかなあ…」


 そう言うとお兄様は「行った方がいいと思うよ」と勧めてきた。


「ライラにだって女友達は必要だろ? あそこの令嬢はお前と同い年だしな。女子力とかが養われるかも知れないよ?」


 女子力かあ。私が今現在やれてる社交的な事といえばギーズゴオル殿下やリグナスとの幽霊狩りだけだしね。どんな社交だ。このままで成長してしまうと確かに女子力的にマズイかもしれない。うん、行こう。


 そう決意表明をすると、お父様もお母様も大喜びでご訪問の用意を調えて下さる。エナゴーテイク公爵家へは我がサーレンシス家が雇用している私人魔術師ミグリットさんに送ってもらう事になった。ミグリットさんの移動魔術は色々とアレだけど、馬車よりはマシって事で。


 そうして私がベルザ様とお会い出来たのは、手紙を頂いた日から五日後だ。











 エナゴーテイク公爵家へ着くと、優しそうな公爵閣下ご家族が出迎えて下さった。閣下は海賊の子孫とはとても思えない知的で穏やかな印象の方でちょっとビックリ。


『エナゴーテイク公爵家は初代の元海賊を例外として、二代目以降は品格のあるご子孫ばかりが続いていてる』


 そうお父様が事前に教えて下さってたから、お兄様の不穏な推論と照らし合わせつつ、実際の所どっちかなーと思ってたんだけど、これはお兄様の考え過ぎだったというオチ?


 公爵閣下にそっくりなベルザ様の小さな弟さんも礼儀正しくご挨拶してくださった。


 通された客間は公爵家に相応しく豪華だけど品も良く、使用人達の態度も柔らかくて居心地がいい。

 ベルザ様とはご挨拶を皮切りに、お天気の話やら最近のご趣味やらと当たり障りの無い会話から始まったんだけど、やがて話題は皇宮のお茶会に及んだ。


「ライラ様、皇宮のお茶会には一度行ったきりで以降は辞退なさっているのですってね。どうしてかしらって心配してましたのよ?」

「あら、うふふ」


 気取りつつ、どう取り繕ったものかと内心で焦っていると、ベルザ様がくすくす笑う。


「ふふふ。私ね、」


 ベルザ様はサイドヘアを指に絡め取る。

 そうして意味ありげにじいっと私を見つめてくる。


「気付いてますわ、ライラ様の思惑―――」

「お、おもわく?」


 気付いてるって何を?


 え?


 なんだか不穏な感じ?


 すっかり油断しきっていたけど、エナゴーテイク公爵家一同、優しく穏やかな仮面を被って、実はやっぱり私の思惑を探ってる感じ? お兄様の推論の方が当たっていたの?―――て言うか、ベルザ様曰く『気付いてますわ』って一体なに?


 私の悪夢?

 あの悪夢の事?

 ベルザ様は私の悪夢の事を知ってるって事?


 あくまで無表情を装いつつ、心臓の方はかなりドキドキしてた。

 

 すると、


「ねえ、ライラ様」

「は、はい」

「レジレンス殿下のお相手候補、最有力はどなただと思います?」


 あっれれぇ? 話が変わってしまった?


 ま、まあいいか。

 レジレンス殿下の最有力お相手候補ね。

 それって。


「他ならぬベルザ様がそうなのでは? あちこちでそう聞きましたけど」


 ギーズゴオル殿下も仰ってたし、

 イライゼルお兄様も仰ってたし。


 するとベルザ様は小さく笑う。


「そうね。世間ではそう言われているみたい。でもそれってあくまで爵位順に過ぎないわ。それに私、レジレンス殿下には選ばれないと思うのよ。

 実はね。以前、レジレンス殿下と私の二人きりでのお茶会があったのだけど」


「あ、あの日ですね?」

「ええ、そうなの」


 ベルザ様は苦笑する。


 ベルザ様と英雄門近くで初対面したあの日。なんでギーズゴオル殿下は皇宮のお茶会の日に幽霊狩りをぶつけたのかなと不思議に思っていたあの日。

 後で殿下に訊いたら『皇宮のお茶会? 今日はレジレンスと令嬢一人とのさしの日だから俺は関係ねぇし』って仰ってたんだよね。

 なんか、お相手候補として有力な令嬢数人のみ定期的にそういう特別な日が設けられているらしくて、あの日は丁度ベルザ様の日だったみたい。


 ベルザ様は仰る。


「レジレンス殿下はとてもお優しくて気を遣って下さるけど、でもそれだけね。哀しい事だけど脈なんか無いわ。我家は他の候補者と比べて爵位だけは高いけど血統としては劣りますし、容姿は地味で今ひとつパッとしない自覚がありますもの」


「え、そんな事はないと思いますけど。私、ベルザ様を初めて見た時、知的で落ち着きのあるお美しさだと見惚れましたわよ?」


「あら、ありがとう。嬉しいわ。……でもね、私が思うに、本当に最有力なのはあの方だと思うのよ。あの華やかな…」

「どなたでしょう。あ。ひょっとしてアーティボート家のご令嬢ですか?」


 ベルザ様に次いで有力視されているというアーティボート家ご令嬢ミルクレア様のご容姿、私は見た事ないけれど。


「あの方も華やかだけど、でも違うわ」


 ベルザ様は首を振る。


「エルカント伯爵家のアイリビィ様が最有力だと思うわ」

「え。アイリビィ様、ですか?」


「レジレンス殿下とアイリビィ様ってとても仲がおよろしいの、ご存じ?」

「幼馴染みって聞いた事あります」

「そうなのよ。私、アイリビィ様とレジレンス殿下は相愛だと睨んでますの。ライラ様はこの事、どう思います?」


 そう仰いながら、ベルザ様は探るように私の表情を覗き込んでくる。


 でもこちらとしてはどんな顔をしていいかわからないんだけど。ギーズゴオル殿下はアイリビィ様をお好きだと思うから、もしもレジレンス殿下とアイリビィ様が相愛なら、ギーズゴオル殿下失恋乙ってトコだなーとか、そうなったら私はヒャッホーだなぁとか。


 うーむ。ベルザ様の意図が読めないなー。


 なんて思ってたら、


「ショック?」


 ベルザ様が小首を傾げる。


「え? いいえ?」


 今のお話、私がショックを受ける要素あったっけ?


 するとベルザ様は苦笑する。


「ライラ様、あなたってなかなか肝が据わっておいでよね。顔色も変えないんですもの」

「はい?」

「でも、ライラ様。実際の所、本当はあの方を狙っているのでしょう?」


 え?

 あの方?

 狙ってる?


 え、ギーズゴオル殿下の事?


 かな?


 恋より命な私としては

 別に狙ってなどいませんが―――

 まあ、好きではありますが


 何故それを。


 皇宮のお茶会は辞退してるのにギーズゴオル殿下に喚び出されてほいほい出掛けているって辺りからバレちゃってるとか、そういう感じだろうか。


 まあ、バレるか


 ちょっと頬を赤めていたら、

 ベルザ様は指に絡めていたサイドヘアで口元を隠す。


 そして。


「レジレンス殿下」

「ん? え? レジレンス殿下?」


 予想外の名前が出てきて素でキョトンとしてしまった。

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