表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔と皇子と殺意と私  作者: 夜府花使
13/81

13 この恋と悪魔って遅効性の毒っぽいよね

 リグナスは将軍に答えた。


「マグナキア56世はガンダール君の刑死から21年後に亡くなったよ。それから285年経過してる」

「なんと!」


 将軍が目を剥く。


「え、儂、気がつかなんだぞ。マグナキアはとっくに逝った後か」

「ガンダール君が来るのを冥府で待ちわびてるねぇ」


「ならば儂も急いで赴かねばなるまいて。冥府へはどうしたら逝けるのかのう」

「君の冥府への切符はとっくの昔に期限が切れてるし、僕が連れていく事になるね」


「左様であるか、では頼む。疾く儂を冥府へ連れてゆかれよ」


 リグナスが将軍の胸元に手を翳すと、将軍の身体は白く発光し始める。

 その様子を見て、


「おい、リグナス、待て!」


 殿下が声を上げた。


「え、何!?」


 リグナスは慌てて反応したけど、将軍の発光体はヒトの形からどんどん変化し、次第に輪郭が丸みを帯びて、まん丸くなって小さく縮み、白く光る球体になり、最後にはリグナスの手の平に収まってしまう。

 その様子は霊力ゴミの殿下にも見えているようだ。


「リグナス。将軍を元に戻せ」

「えー、なんなの? ようやく成仏させられるって段になって」

「ハノイヴァの事を訊く予定だった」

「あ、そっか。将軍が300年前の人って事は…」


 しまったなぁって顔をしてる。

 実は私も同じ顔。

 そういえば将軍にハノイヴァについて訊こうって件、

 リグナスには言ってなかったっけ、不覚。


「戻せないの?」

「うーん、手遅れだねぇ…」


 リグナスは眉尻を下げ、はぁと一息吐く。


「そういう事は先に言っといてくれないと。悪いけど今回は諦めて? 早速冥府に連れてくよ。とりあえず成仏一体目だし、例の日記はちゃあんと翻訳朗読してあげるから待っててね」


 ウィンクをした後、指パッチン―――



 ―――しようとしたみたいなんだけどね。



 リグナスがパッチンする寸前、

 手の平の光の球体がフッと消えた。


 「あれ?」


 と思う間もなく、将軍は元の状態に戻ってしまっていた。


 すなわち、


 英雄門の壁に額を当てて立ち尽くして、首は小脇に抱えられてて、その首はなにやらブツブツ呟き続けているという―――今までとえらく変らない状態に。


「……………おい、てめぇ。戻せねぇんじゃなかったのかよ」

「……本人が自主的に戻っちゃった場合はその限りではなく」


 リグナスは遠い目をしたあと無言になったし、殿下は「冥府に逝く逝く詐欺将軍…」と呟いたあと憮然とした。

 暫く呆然と三人で立ち尽くして将軍の背中を眺めていたんだけど、最初に立ち直ったのはリグナスで、


「ちょっと冥府に行ってくる。すぐ戻るから、宮で待ってて~」


 そう言って指パッチンして消えてしまった。

 どうやら今日はメリアザンの日記を翻訳朗読してもらえそうにない。


 殿下はよほどガッカリしたのか、ふて腐れた風に無言で地面を睨んでいる。


「で、殿下、とりあえず将軍にハノイヴァについて訊ける機会の復活ですよ?」


 そう慰めると、


「……ああ、その通りだな。うん」


 殿下は少しだけ気を取り直してくれた。






 その後、私と殿下はすごすごと紺碧宮への帰途に就いた。

 徒歩で。

 遠いからけっこう大変。


 殿下は神力持ちだけど移動に力を使った所は見た事がない。それは"出来ない"って事なのかな? まぁでも『殿下の神力ってレベルどの辺なんですか』なんて、ちょっと訊きにくいわけだけど。


 特に今は訊ける空気じゃなさすぎる。


 だって一旦は正気に返ったかに見えた将軍の幽霊性連呼症、結局元に戻っちゃったみたいだし。いや、完全には"元に"ではないみたいなんだけど。

 実はあの後、私が確認してみた所、将軍の繰り返す"自分語り"は一応は変化していたのよ。


 どうやら将軍、生前…というか、断頭台で首を落とされる寸前、唐突に思い出した事があったっぽい。

 でも死後300年間、その事は綺麗に忘れていた。

 なのによりによってたった今さっき、冥府に逝く寸前にまたその事を思い出したとかナントカ。


 そして現在の将軍はそれに関する事を延々と呟いてる状態になってた。


 ―――この結末を

 ―――あの娘は

 ―――どう(おも)うのだろう


 新しい自分語りの中にこんな言葉が度々出てくるわけ。


 殿下にそう報告すると、


「あの"娘"? 将軍の身内は公式記録では母親と嫁さん以外は男だらけの筈だが。愛人か? 隠し子か?」


 そう首を傾げてた。






 それ以降は特に話す事もなく、殿下と私は黙々と歩き続け、ようやく紺碧宮に着く。そうしてそのままリグナスの帰還を待つ。


 殿下はふて腐れたまま。


 せっかく訊けると思ったハノイヴァの事、

 せっかく朗読してもらえると思ったメリアザンの日記、


 だけどお預けを食らってしまった殿下。


 殿下はテーブルに両肘を付いて両手の指を交互に組み、その上に額を預けて顔を伏せるというド陰鬱ポーズをキメてたけど、正直私はハノイヴァもメリアザンの日記も殿下ほどの興味は無かったし、殿下と二人っきりで居られる事の方が嬉しいなって思っていたし、ダメージはほとんど無い。


(まるで遅効性の毒だわ)


 殿下を好きになる事でやがて訪れるかもしれない悲惨な最期。でもそれは"やがて"だし、回避出来る"かもしれない"という希望に縋って、"断れなかった"と言い訳をして、"まだまだ淡い恋だから"と言い聞かせて、結果私は服毒しているも同然の状態なんだよなぁ。


 そんな事を色々と考えていて、ふと脳裏にリグナスの顔が浮かぶ。


(あいつも殿下にとっては遅効性の毒なんじゃない?)


 愛嬌のある顔立ちとしゃべり方だけど、その正体は悪魔なわけで。あんな風に人当たり良く振る舞うのはこちらを油断させる為なんだろうし、けして信用しちゃいけない。できるだけ早く手を切るべき。それなのに殿下を諫止しないのは、殿下の服毒を見て見ぬ振りするも同然で。


 お諫めするなら今だよね?

 リグナスがいない今この時。


「殿下」


 声をかけると「……なんだ?」と返事をしてくれたのでホッとする。


 そうして私は改めて殿下に進言した。

 リグナスは所詮危険な悪魔である事。

 メリアザンの日記の価値についても。


「リグナスも言ってましたよね? メリアザンの日記には滅亡理由について明確な事は書かれていないかもって。ただヒントは得られるかもって程度。つまりたいした内容ではないって事です。そんな物の為に幽霊狩りなんかを―――」


 すると殿下はド陰鬱ポーズのまま仰る。


「……俺はな。もともとメリアザンの日記の内容にはそこまで期待しちゃいねぇんだよ。俺の目的はそこじゃねぇ」


「と申しますと」


「翻訳を元に言語学者や魔術師、なんなら神殿の協力も得てハノイヴァ語を解析すれば、お前んちの隠し部屋にある本・書類・手紙の類も自力で読めるようになるんじゃねぇかなぁって。メリアザンの日記には書かれて無くても、隠し部屋の方になら滅亡理由がズバッと書かれた何かがあるかもしんねぇじゃん?」


「だけどな」と更に続ける。


「将軍がハノイヴァ滅亡理由を知ってて、将軍の口から聞けさえすれば、悪魔どころか翻訳も言語学者も一切要らねぇんだよ。それで一発解決だろ? 当然リグナスとも即おさらばだよ」


「え、殿下、思ってたよりけっこうしっかりとしたお考えが。ちょっと安心しました」

「……お前、俺を馬鹿にしてねぇか?」


 殿下はド陰鬱ポーズを止めて顔を上げ、私を見る。


「馬鹿にしてません、ご心配申し上げていただけです。相手は悪魔ですし」

「この俺がリグナスにいいようにされるってか」


 じろりと睨まれたけどさ。

 殿下の不興を買うのは嫌だけど、

 こればかりはね。


「殿下、私は殿下とご一緒させて頂くようになってからまだ日が浅いです。殿下の能力がいかほどなのか把握出来てませんし。臣下としては悪魔との付き合いを推奨出来る筈もないです」


 そう言うと殿下は目を僅かに瞬かせる。


「…正論だな」


 そうしてふぃっと目を逸らす。


 生意気な態度だったろうか。

 なんだったら幽霊狩りの助っ人の任を解いて下さっても構いませんよー?

 むしろ望むところかな。


 その後、またしばらく無言が続いたけれど、


「……俺が契約解除を宣言すればリグナスは"招かれ人"の権利を失い、皇宮から弾き出される。心配無用だ」


 ぼそっと殿下が呟く。


「幽霊狩り自体はしち面倒だが、幸い俺は霊力ゴミなお陰で面倒くせぇ事はお前らに押しつけて高みの見物キメられるから楽なモンだし」

「え、そこを"幸い"って表現しちゃうんです?」

「それ以外にもメリットがねぇって事はねぇし」

「と申しますと」


「幽霊狩りを口実にお前を喚び出せるだろ?」


「……はい?」


 えっと、それってどういう意味?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ