87話 それぞれの意見
「兄さん、おめでとうございます!」
大公会議からしばらく経ったころ。
サラに会いに来たら突然祝福された。
特におめでとうなんて言われる覚えはない。
いったい何だろう?と思ったのだが
「兄さんが大公を一人ひとり丁寧に説き伏せて、全大公が兄さんに従うことになったと聞きました!さすが兄さんです!」
大公会議のことのようだ。
俺が実体験した内容とはずいぶん趣が異なるが、サラの耳に入るときにこうなったのだろう。
間違いではないし、事実をそのままサラに伝えることもできはしない。
納得だ。
そう、実体験した内容とは、ずいぶん異なるのだ…。
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「いやー、実にいい啖呵だったねえ」
マーニャが嬉しそうに笑っている。
大公会議終了後、残っているのは俺とカレンとノヴァにマーニャとセリス。
アルヴィスはすでに去った。
敗北を悟り力なく去っていくその後ろ姿、俺達が追撃することはなかった。
勝敗は決まった。
これで安心だと思ったそのときだ。
「これで階級なんてめんどくさいものを潰していけるねえ!私も開放されるってわけだ!」
「これで貴族社会の階級を正していけるよ。力ある者がふさわしい地位につき、この世界を統治する。偉大なる皇帝陛下のもと、この世界は秩序を取り戻すんだ」
「「ん?」」
ちょっとした意見の食い違いがあった。
「まだそんな古臭いこと言ってるのかい?力ある者が支配するだなんて、アルヴィスと一緒じゃないか」
「聞き捨てならないね。あいつは自らの権力維持のためなら地位にふさわしくない者も貴族に取り立てていた。僕は違う。僕は貴族は貴族にふさわしい者だけを選別する」
「それが古臭いって言ってるんだよ。下民の街、パラディスを見たんだろう?下民も臣民も変わらない。みんな自由になるべきなんだよ」
「あの街を見たからこそ、だよ。下民と臣民はそもそもほぼ同等だ。それに差をつけること自体が間違っていた。優秀な下民は成り上がり、無能な臣民は落ちこぼれる。当然のことだ」
「じゃあ、魔法使いとそうでない者は?」
「魔法使いでなかろうと、優秀な者は取り立てるのは当然だ。現にソラがいるだろう?彼は魔法使いでないが貴族の頂点に立っている。他にもセリスやジャックのように優秀な者達もいる。彼らはもっと上の立場に立つべきだ」
「…優秀でない者は?」
「過分な地位を得ている者は追い落とされる。そうでない者は今まで通り。当然だろう?」
ちょっとではなかった。
根本から食い違っていた。
ノヴァとちゃんとこの話をしたことはなかったが、予想できていたことだ。
ノヴァは力を、本人の実力を重視する。
だから下民と臣民に差をつけたりはしない。
両者は等しく魔力をもたない無力な者たちだからだ。
ただ才能がある者は躊躇なく重用する。
事実、元下民であるセリスにノヴァはうちの派閥のほぼ全権を与えている。
そこに元下民などという意識は全く感じられない。
優秀な者に対し、その実力にふさわしい地位と権限を与えているだけだ。
ノヴァがアルヴィスを嫌っていたのもそこだろう。
貴族の血筋というだけで地位についている者たち。
過分な地位を得ている者たち。
そういった者がのさばっている現在の貴族社会を、ノヴァは心から嫌っていたのだ。
ノヴァはこの階級社会を否定しない。
ただその内情を、否定しているのだ。
血縁やコネでなく、実力によって決まる階級社会へと変貌させようとしているのだ。
これに対して、マーニャは違う。
この絶対的な階級社会そのものを否定し、下民も臣民も魔法使いも関係なくしようとしている。
世界の秩序を根底からひっくり返そうとする荒事だ。
俺の考えはどちらかと言えばマーニャに近い。
近いのだが…
「ソラは当然私に賛成してくれると思うけどねえ?」
「ソラと僕は親友だよ?当然僕に賛成してくれるに決まってるじゃないか」
二人共が俺の賛意を得ているかのように話し出す。
ここでマーニャを支持するとも言い難く、非常に気まずい。
黙りこくる俺に業を煮やした二人は、カレンに同意を迫る。
元下民のカレンは当然マーニャに賛同するかと思ったが
「私は先輩に従います」
即答だった。
俺は大公会議において無条件に賛同してくれる一票をいつの間にか得ていた。
びっくりだ。
当然だがこの場で結論が出ることはなかった。
セティと一緒に二人を取りなし、なんとか解散に持ち込んだ。
これで大公会議の勢力図がはっきりした。
貴族至上主義、アルヴィス
既存の貴族勢力を絶対視し、それ以外を見下しながら自分たちの権力維持を図る者。
実力至上主義、ノヴァ
貴族至上主義ら既得権勢力を打破し、実力に基づく新たな秩序を構築せんとする者。
平等至上主義、マーニャ
この階級社会を根底から覆し、魔法使いもそうでない者も平等な社会をつくろうとする者。
ソラ至上主義、カレン
特に意見はなく、俺の意見に全面賛成。以上!
二対二や三対一などではなかった。
これは、一対一対一対一だ。
4つの強烈な個性により4つの意見が対立しあう。
これが、大公会議なのだ。
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このように、大公会議は決して俺が平定などはしていない。
だが一人は俺に全面賛成で、もう二人はそれぞれが俺が賛同していると主張している。
残りの一人も今更表立って俺と対決しようとはしないだろう。
だから俺が全ての大公を説き伏せたというのは間違いではない。
だが決して事実ではない。
事実ではないのだが
「やっぱり兄さんはすごいですねえ!私は皇帝だからみんな従ってくれますけど、兄さんはそんなこと関係なしにみんなが自主的に兄さんに従ってくれたんですもん!」
サラは嬉しそうにニコニコ笑っている。
サラの方がむしろ実力でみんなを従えているというか、全貴族が自主的に従っていると思うのだが…。
本人的には俺のほうがすごいらしい。
サラじゃなかったらお世辞かと思ってしまうところだ。
「そ、そういえば、そんなこと、誰から聞いたんだ?」
話を変えてみる。
サラは話が変わったことなど気にせず、もちろん笑顔で答えてくれる。
「エメラルドに聞きました。優秀な親衛隊員なので、今度男爵位を叙勲することになったんですよ。兄さんの親友なんですよね?だからせっかくだから、少し一緒にお話したんです」
なるほど。
エメラルドなら全て知っている。
サラと二人きりになったエメラルドが俺について根掘り葉掘り聞かれ、一生懸命あいまいに答えたのがさっきのことというわけだ。
たいへんだったろうに。
ありがとう。
「私からお礼は伝えたんですけど、兄さんからも伝えておいてくださいね!」
サラからお礼を伝えられたとしたら、真面目なエメラルドは恐縮しきりだろう。
俺からはやんわりと伝えさせてもらおう。
その後も俺はサラから「兄さんはすごいですね」と何度も言われた。
俺には、自分がすごい自覚なんて全くなく、実際にすごくもないので、ただひたすら気恥ずかしかった。
年末年始はできるだけ更新できればと考えております。




