81話 大公会議②
「では会議を再開しましょうか」
その言葉を発したのは意外にもダインだった。
無気力そうに見えたが裏があるのか?とも思ったが、むしろその雰囲気はさっさと終わらせて帰りたいというものだ。
裏がありそうには見えない。
「ああ、そうだな」
アルヴィスは当然のようにダインの意見に賛成する。
ノヴァは別に何も言わない。
セティはさっきまでの爽やかな笑顔が一変し、眉間にシワを寄せている。
口を開こうとするが、その前にアルヴィスが先手を切る。
「だが議論はすでに不要だろう。ノヴァ・ガイアの終身蟄居について、そろそろ決を採ろうではないか」
終身蟄居?
なんだそれは?
「私は反対です!」
俺が質問する間もなく、今度こそセティが口を開いた。
「終身蟄居など…。ノヴァ大公はまだまだお若い。一生自領から出ることが許されないなど、ありえません!」
セティの言葉で理解できた。
終身蟄居とは文字通り、一生蟄居させられること。
まだ学生で俺より一つ歳上なだけのノヴァ。
そんなノヴァを帝城から追い出し、今後の生涯全てを自領に閉じ込めようとしているのだ。
大公家は増えることもなく、減ることもない。
そして大公家当主は一族で最強の者が選定される。
ゆえに大公は格下げすることも引きずり下ろすこともできない。
だからこの終身蟄居こそ、大公に対する最大の刑罰というわけか。
理解は出来た。
だが納得はできない。
俺の不満を代弁してくれるかのように、セティは言葉を続ける。
「終身蟄居は死罪に値するほどの罪を犯した大公にだけ与えられるもの。つまりは大逆罪、皇帝陛下に反逆した罪だけです。ノヴァ大公はそんなことはなさっていません!」
真っ直ぐな瞳に正義感であふれた表情。
横暴な大公家筆頭に対し、セティはたった一人で反論する。
そんなセティを、アルヴィスは鼻で笑い飛ばした。
「晩餐会で皇帝の兄殿下を危険な目にあわせ、皇帝陛下のお手を煩わせたのは誰だ?もちろんこやつだ。皇帝の兄とは皇帝陛下と同等、もしくはそれに準ずる存在。これを大逆罪と言わずして何という?」
「なっ…!」
あの晩餐会での出来事で!?
そんな馬鹿なこと、あってたまるか!
「それは間違ってる!ノヴァは俺のことなんて狙っていない!」
俺の言葉を聞いてアルヴィスがこちらに視線を向けた。
「殿下は議決権に参加されることはないでしょうが、発言権はもちろんございます」
そして嫌味のように俺に議決権がないことを復唱しながら、口を開く。
「殿下がどう思われたかは存じません。ただ殿下が危険な目にあっていると陛下がお考えになり、御自らノヴァ大公を押さえつけられたのは事実でございます。その事実に、殿下は何か反論がございますか?」
「それは、事実かもしれない。でもノヴァにそんな気はなかったし、俺も危険は感じなかった!」
だから間違っていたのはサラ
サラが勘違いしていただけ
そう言おうとした。
だが、アルヴィスに機先を制される。
「まさか、皇帝陛下が間違っていたなどとはおっしゃられませんでしょうな?」
ものすごい威圧感だった。
そして気づいた。
自分がとんでもないことを口にしようとしていたことに。
俺はサラに言えるだろう。
「サラが間違っているよ」と。
だってサラは俺の妹だから。
俺が何を言おうと、サラは素直に受け止めてくれるだろう。
だが俺は他の者には言えないのだ。
「サラが間違っている」などとは。
なぜなら、サラは皇帝だから。
皇帝は、無謬にして絶対。
皇帝は、間違わない。
皇帝が間違ったように見えるならば、それは己が間違っているのだ。
皇帝がルールを犯したのならば、それはルールが間違っているのだ。
それが、この世界の理なのだ。
皇帝を否定することはこの世界のすべてを否定するに等しい。
その言葉を発した瞬間、俺はこの世界の住人であることを否定される。
現実的には、俺は何を発言しても許されるだろう。
サラの慈愛でもって、全てが許されるだろう。
皇帝を否定する発言を、皇帝自身によって、許されるだろう。
だがこの言葉を発した瞬間、俺は世界の理から外れた者となる。
ただただサラの慈悲によって生きるだけの存在となる。
それはダメだ。
絶対にダメだ。
俺は俺として、この世界で生きてやるんだ。
発しかけた言葉をぐっとこらえ、俺は再び口を開く。
そしてこの世界にふさわしい言葉を吐いた。
「皇帝陛下に間違いなど存在しない」
「でしょうな」
アルヴィスは少し残念そうだ。
俺がそのままの言葉を吐いていれば、もはや俺を相手にする必要もなくなると考えていたのかも知れない。
だが、そうはいかない。
「俺が危険な目にあっているように見え、サラがそれを止めたのは事実。だがあくまでそれは俺が受けたこと。大逆罪にする必要はないだろう」
だがアルヴィスは鼻で笑うだけ。
「殿下は皇帝陛下と同等の存在です。皇帝陛下と同等の存在を危険な目に合わせたとなれば、それは大逆罪に他ならないでしょう」
「俺に被害の意識がなくても?」
「皇帝陛下がご判断されたのですから、殿下の意見は必要ございますまい?」
俺を危険な目に合わせたことを理由にしてるのに、俺の意見は無視。
完全に言いがかりだ。
ノヴァに罪を着せるためだけに無理やり罪状をつくりあげたことが丸わかりだ。
「皇帝陛下からはノヴァ大公を罰せよという指示もいただいておりません。このような裁きは不要ではありませんか!?」
「セティよ、我ら大公は陛下の大御心を察する必要があるのだ。陛下がお命じになってからでは、遅すぎるのだよ」
アルヴィスはセティが何を言おうと聞く耳は持たない。
「これ以上の議論は無駄だ。決を採るぞ!」
だがセティが反対している以上、大公会議の判断は二分される。
裁きに賛成なのはアルヴィスとダイン
反対なのはセティとノヴァ
ならばセティが反対してくれている以上、過半数がとられることはない。
この裁きは成立しない。
そんなことがわかりきっているのに、アルヴィスは決を急ぐ。
意味がわからない。
「ノヴァ・ガイアの終身蟄居に賛成者は挙手を!」
アルヴィスが自信満々に
ダインはどうでもよさげに
手を挙げる。
「賛成者は二名。では反対者が二名いなければ、小僧のツラを二度と見なくてすむわけか」
だがそれはありえない。
なのにアルヴィスはほくそ笑んでいる。
「では次、反対者は挙手を」
ノヴァが気だるげに手を挙げる。
わかりきったことなのにめんどくさいと、どうでもよさげに。
そして当然もうひとりも…
「うむ。反対は一人だけだな」
アルヴィスの言葉が会議場に響く。
そんなことはありえないと思ったのに、それは事実だった。
最後の一人、セティ・クリマ
この場で唯一ノヴァのために真正面からアルヴィスに反論してくれていた彼は
手を上げることなく
歯を食いしばりながら
両拳を、テーブルの上に置いていた。
明日も更新できればと思います。




