78話 新政策・下
「ふーん。いいんじゃない?面白いと思うよ」
セリスの計画に対するノヴァの反応はこんなものだった。
薄い反応かと思ったが、別に興味がないわけではないらしい。
「セリスの計画なんだろう?だったらうまくいくよ。運用の中で問題が発生しようと、彼女だったら修正してうまくいかせてくれるだろうからね」
セリスに対する評価の高さの現れだったらしい。
ノヴァにここまで言わせるとはセリスは本当にすごい。
実際彼女には大いに助けられているし、感謝している。
しかしやはりノヴァの様子はいつもと少し違う。
心ころにあらずという感じがする。
「やっぱり晩餐会のこと、気にしてるのか?」
晩餐会で起きた騒動
ノヴァとアルヴィス、二人の大公の諍い
大公同士が争うことはよくあるらしい
それが互いの命を奪い合うものになることも
そしてそれが周囲に多大な被害を及ぼすことも
多くの命を巻き添えにすることすらも、珍しいことではない。
だが、今回はちょっと話が違った。
まずその周囲の中に、俺がいた。
そしてそれを、皇帝が、サラが見ていた。
こうしてサラが、皇帝自らが、二人の争いを無理やり止めた。
今にも放たれようとしていたノヴァの魔法を、たったの一言で打ち消すという離れ業でもって。
こうしてノヴァは皇帝の不興を買ってしまった。
そしてそれは結果的にアルヴィスに有利に働いてしまう。
皇帝を敬愛し、アルヴィスを毛嫌いするノヴァにとって、これらはきっと屈辱だっただろう。
だからそれを気にして心ころにあらずとなっている。
そう考えたのだが…
「そりゃ気にするよ。皇帝陛下のあの偉大なる魔力。何度思い出しても震えが止まらなくなるね。あれこそ皇帝陛下、世界を支配するに御方にふさわしい御力だよ!」
気にしているのは事実だったが、中身は全然違っていたようだ。
「僕、それなりに本気だったんだよ?君はカレンが守るだろうからと、帝城が消し飛んでもかまわないぐらいの威力を込めてたんだ」
ちなみに帝城は世界で最も大きな都市である。
そんなものを「それなりに本気」程度で消し飛ばさないでほしい。
「でもそんな僕の魔法を、陛下は一瞬で消し去ってしまわれた!ただの一言で!しかもついでのように、あの場の全員を地面に縛り付けるよう抑え込んでもしまわれたんだよ?これを素晴らしいと言わずして何と言おうか!?」
逆に俺は素晴らしいなんて全く思わなかったんだが。
でもそんな無粋なツッコミはやめておこう。
たぶん俺が今何か話をしても聞いてはいないと思うし。
「あのとき、陛下はほんの少しだけ魔力をもう少し込めるだけであの場の全員の命を音もなく刈り取ることができた。あれこそまさに神の御業だよ!僕も他の大公も、そしてその他の貴族達も、あの御方の前では差なんて存在しない。チリにも等しい存在だ。この世界を照らし、恩恵を与える唯一無二の存在!輝ける太陽!それこそが皇帝陛下なんだよ!!」
ノヴァはさっきまでの心ころにあらずという状態からは打って変わり、立ち上がって身振り手振りも交えてそんなことを熱弁していた。
俺にはなんとも言い難いので黙って聞いていた。
コーヒーを冷めないうちに飲んでしまおう。
やっぱり砂糖たっぷりが美味しいな。
「あの日からずっと陛下のことで頭がいっぱいでね。いっそあのとき陛下の手で殺されていれば、もっと幸せになれたんじゃないかと思ったりしてるんだよ」
「馬鹿言うな」
思わずコーヒーを吹きそうになったじゃないか。
サラにそんなことさせないでくれ。
「お前は俺を傷つけようとしたわけじゃないし、そんなつもりも、少なくとも今はないだろう?そんな誤解でサラにお前を殺させるなんてやめてくれ。冗談でも聞きたくない」
俺の言葉に、ノヴァはいつもの笑顔で返してくる。
「君は優しいねえ。いや、甘いのかな?あれほど陛下の寵愛を受けているんだから、それを使えば派閥なんて飛び越えて全てを支配できるのにやろうとしない。何故だい?」
「何故もなにも…。別に俺の力じゃないんだから、やるわけないだろう。今のこの地位だって、俺には過ぎたものだよ」
俺の地位は、サラの気まぐれによって成り立っている砂上の楼閣。
自分ではここまで成り上がることは当然として、この地位を維持することすらできはしない。
ただただサラのおかげだ。
そんな立場なのに権力を振りかざすなんて、ありえないこと。
それぐらいさすがに理解している。
「皇帝陛下は許してくださると思うけどね?君が何をしようと」
なのにノヴァは俺を煽るようなことを言ってくる。
「やらないったらやらないよ」
下民と臣民の階級差だって、サラに頼めばその場ですぐに解消できるだろう。
だけどそれはしない。
クスリの話と同じだ。
禁止するのは簡単だが、それでは闇に潜られるだけ。
だからまず下民の街で下民の自立と意識改革を始めた。
そして次に罪を犯した臣民を下民に落とすことを制度化し、両者の境を流動化させていく。
これらの地道な活動で、俺は俺の夢を実現させるんだ。
こういった活動を俺が行えることも全て、「皇帝の兄」なんていうサラがくれた地位のおかげ。
これ以上を望んだらバチがあたるだろう。
だからこれで十分。
今与えられたものだけで、できることからやっていこう。
「君がそれでいいなら、別にいいけどね」
ノヴァは俺の回答に満足なのか不満なのかよくわからない。
本当に不満な時は辛辣に責め立ててくるから、おそらくそこまで不満ではないのだろうと思う。
あとは細々な話をして、そろそろ帰ろうと席を立つ。
するとノヴァが今思い出したかのように声をかけてきた。
「そろそろ大公会議があるんだよ。たぶん夏季連休明けぐらいかな?君にも参加して欲しい議題になると思うから、その際はよろしく頼むよ」
大公会議
皇帝の勅命に次ぐ力をもつ事実上の最高意思決定機関。
この議決権は大公だけが持っており、ゆえに大公の力の源泉ともなっている。
なんで俺に参加して欲しいんだろう?
アルヴィスやダインと対立するのはわかっているけど、俺には議決権がないから参加しても意味ないのでは?
でも断るようなことでもないので了承はしておく。
「ああ、もちろんいいよ」
「ありがとう。頼んだよ」
よくわからないけどノヴァは嬉しそうだ。
変なことに巻き込まれてないことを望みたいが、たぶんすでに巻き込まれてるので諦めよう…。
前話の続きとなります。大公会議は47話で一瞬だけ言及されてたものになります。
明日も更新する予定ですが、できなかったらすいません…。




