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57話 手がかり

 カレンはその後すぐに泣き止んだ。


 だがあの涙が尋常じゃないことなどさすがにわかる。

 明日は学院だ。だがこんな状態で登校させるのはやめておくべきだろうと判断し、俺達も付き添うことにした。


「すまん。私は明日は休めなくてな…」

「大丈夫だよ、エメラルド。気にしないでくれ」


 エメラルドは俺達学生とは違って責任がある。

 親衛隊なんて突発で休みを取れるような仕事ではないだろう。

 休めなくても気にすることなんてなにもない。

 当然の判断だ。


 それからはこの土地の領主であるリゼルの力も借り、夜通しでの調査が始まった。


 あの夕日が見えるのはマスタング伯領とその周辺のみ。

 魔法使いの街を虱潰しに探すのは骨が折れる所だったが、今回は運が良かった。

 魔法使い、市民の街があるのは伯爵領以上。

 この周辺には子爵以下の貴族領しかない。

 だからこのマスタング伯爵家の居城、その周辺に広がる街だけにしか魔法使いはいない。

 ここを調査すれば、きっとカレンの母親の手がかりがつかめる。


 そう思ったのに


「エメラルドを負かすような子なのですよね?そんな魔法使いが城下で生まれていれば、我がマスタング家に報告が来ないはずがないのですが…」


 苦虫を噛み潰したような顔で報告してくるのはリゼルだ。

 過去にこの街の市民から、貴族になれるほどの力をもった魔法使いは生まれた記録は存在しないらしい。

 正確には、数十年前にはあったらしい。

 だがカレンの生まれ年からはかけ離れており、関係はなかった。


 リゼルは市民の名簿も全て調べ上げてくれた。

 そこにはカレンと同い年、前後数歳も含め、行方不明になった赤ん坊はいなかった。

 当然だが母親でいなくなった者もいない。


 カレンはここの生まれではない?

 夕日の見間違い?


 そう思ったが


「間違いありません。あれはお母さんが大好きで、春になると必ず毎日一緒に見た、あの夕日です」


 真っ直ぐな瞳でそんなふうに断言されてはどうしようもない。

 嘘をついていないこと、俺達を騙そうとしていないこと、そんなことは考えてないとは見ればわかる。

 数日間の付き合いとは言え、カレンがそんなことをするタイプでないこともわかっている。


 だから謎は深まるばかり。

 夜通し探したが手がかりはなし。


 もうすぐ夜明け。


 みんな疲れており、目の下にクマができている。

 ミネルバは名簿を全部自分で目を通してくれたとかで、少し目が充血してて心配だ。

 なのに金髪縦ロールには一切乱れがないのはなんでだろう?


 さすがに疲れた。

 あまり根を詰めては倒れてしまう。

 そう考え、一旦休憩をとることにした。


 各々が仮眠をとり始める。

 みんな客間を用意してもらえたが、起きてすぐ作業を再会したいと俺はソファで横になる。


 うつらうつらとし始めた頃、物音がして目が覚めた。


「あ、すいません…。起こしてしまいましたでしょうか…?」


 自信なさげにそう話すのは、セリス。

 元々は俺の領地の領都ベクタの代官筆頭書記官で、今は下民の街の総代表に祭り上げられたあのセリスだ。

 ちなみに後者はノヴァの仕業である。


 どうして彼女がここに?

 すると俺の不思議そうな顔に気づいたのか、自分から説明をしてくれた。


「殿下がお困りと聞きまして…。書類仕事なら私でもお手伝いできるかと思い、参上いたしました…。ご迷惑、だったでしょうか…?」


 今にも消えてしまいそうな声と表情。

 これはやばい。


「いやいやいや、迷惑だなんてとんでもない!すごく助かるよ!!」


 全力でフォローする。

 セリスはすごいのに自分に自信がないのだけが問題だ。

 そろそろもっと堂々としてほしいが、なかなか難しい。


「よ、良かったです…」


 俺の全力フォローで少し安心してくれたようだ。

 よかったよかった。


 セリスがコーヒーを淹れてくれた。

 砂糖の量もミルクの量も俺好み。

 彼女の完璧な記憶力に改めて感心する。


「そういえばパラディス、下民と臣民が仲良くし始めてるみたいだね?」


 セリスも少し落ち着いたので一昨日見たパラディスの話をしてみた。

 するとセリスは嬉しそうな難しそうな、複雑な顔になった。


「そうなんです…。臣民を追い出して増長しそうになった下民もいたのですが、みんなで話し合って臣民とは協力するべきとなりました…。おかげであのようにいい関係を築き始められております…。ですが貧しい臣民の方々が、非常に攻撃的になってまして…。下民が豊かになったら争いが始まるのではと、懸念しております…」


 おおう。マーニャの心配はすでに現実になりかかっていた。

 自分たちより下の立場の下民が自分たちより豊かになるのが許せないわけか。


 それこそ自分で努力しろと思うが、これもなんとかしないとな…。


「とりあえず俺の、領主の財布から金を出して貧しい臣民達の生活保障をお願い。領主は下民だけでなく臣民も気にしてるってことを態度で示そう。他にも何かアイディアあれば好きに予算使ってくれていいから」

「よ、よろしいのでしょうか…?」

「もちろんOK!」


 俺の懐にはけっこうな額の税収が入ってきており、実は俺は大金持ちなのである。

 でも使うのは身の回りのものとメイドさん達の給金ぐらい。

 だから金は貯まる一方。

 別に貯金が趣味でもあるまいし、使った方が世の中のためになるだろう。


 とりあえずこれで当座はしのげるだろう。

 今後のことはちゃんと考えていこう。


「ところで、カレン様のお母様についてお探しと聞きましたが…」


 さすがセリス。

 俺がうつらうつらしている間に現状把握してくれていた。


「そうなんだよ。全然見つからなくてさ。昨夜ミネルバやみんなが住民の名簿一覧を過去の分も含めて全部見てくれたけど、手がかりなし。見落としあるかもしれないから、あとで俺も見てみるよ」

「ああ、いえ、それは大丈夫です…」

「?どうして?」

「私も、先程確認させていただきました…。間違いなく、あの名簿にはカレン様と同年代の行方不明者はいらっしゃいません…」

「もう、見終わったの?」

「はい…。あの程度の書類でしたら、一瞬ですので…」

「見落としは、なし?」

「はい…。それに一度見た書類は、私、忘れませんので…。間違いないかと思われます…」

「そ、そうか…」


 ミネルバたちが徹夜で確認した書類の山を、さーっと流し見するだけで速読完了。

 しかも中身もすべて記憶済み。

 これがダグエルが全幅の信頼を置く、首席秘書官の実力か。


 圧倒されると同時に、手がかりがなくなったことに落ち込んでくる。

 そんな俺の様子を見たセリスが慌ててフォローしてくれた。


「で、でも、手がかりがなかったわけじゃないんです…!」


 それはエメラルドのメモの中にあったらしい。

 エメラルドが帝城に帰る前にカレンから聞き出してくれたメモ。

 そこに書いてあったのは、ある病のこと。


 カレンが子供の頃、彼女の周囲で流行病があった。

 母親はそれが原因で倒れてしまい、カレンを育てられなくなった。

 そしてそのままペラス家に引き取られたらしい。


 その病の特徴は、延々と止まらない咳と発疹。

 最初の兆候は発疹。

 次に咳が出始める。

 咳が止まらずにだんだんと体力を蝕まれ、最期には死に至るという。


 周囲の殆どはその病気にかかり、街はゴーストタウンのようになりかかったらしい。

 ただなぜかカレンだけは平気だったとか。


「その病が流行った場所が、この領内にありました…。時期も、カレン様が子供のころと一致します…」

「それだ!」


 おもわず大声を出してしまった。

 だってようやく見つけた光明なのだ。

 喜ばないはずがない。


 だがセリスの顔は微妙なまま。


「ですが、その…」


 非常に言いづらそうに、口を開く。


「その病が流行ったのは、スラム、下民の住処なんです…」



 ---



「優秀な貴族の子供は通常は歓迎されるよ。一族の未来を担う者だから当然さ。だが一方で疎まれる場合もある。当代当主が己の地位を奪われるなどと警戒してね。だから優秀な赤ん坊を捨てる時だってあるんだよ。愚かなことだよねえ?」


 これはノヴァの言葉だ。

 カレンがペラス家の養子とわかったとき、「なぜ養子に?」と聞いた俺に教えてくれたことだ。


 ノヴァ自身も疎まれた方らしい。

 しかも疎んだのは、己の実の親だという。


「普通の貴族なら政治力で地位が決まる場合もあるけれど、大公家は例外でね。一族で最も優秀なものが当主になると決まっているんだ。大公家の内紛なんてめんどくさいことこの上ないから、ここだけ基準をはっきりさせてるんだろうね。まあ、そのせいで僕は父親に殺されかけたわけだけど」


 逆に返り討ちにして当主の地位に継いたのはさすがと言ったところか。


「だからカレンもその力を疎まれて捨てられたんだろうね。もしくは隠し子かな?どれほど優秀であろうと養子なら当主を譲る譲らないの権限はペラス家にあるし、都合良かったんだろうね。色々と」


 カレンの実の両親、そしてペラス家の者たち。

 彼らを軽蔑するような目と口調をしながら、ノヴァはいつものように薄笑いを浮かべていた。



「カレンは、スラムに捨てられていた…?」


 ノヴァの言葉を聞いた時、俺はカレンが捨てられた先はペラス家だと考えていた。

 だがそれは大きな勘違いだったようだ。


 カレンが捨てられた先は、スラム。

 彼女の親は、どれほど彼女のことを疎んでいたのかがそれだけでよくわかる。

 自分の手は汚さず、だが確実に彼女を消し去りたい。

 だからスラムに捨てたのだろう。


 スラムで捨てられた赤子の運命などほぼ一択。

 死だ。


 スラムでは他人を助けるほど余裕がある者などいない。

 俺やサラが生きてるのは奇跡だ。

 シスターと孤児院。

 この二つの奇跡が重なり、俺たちはこうして生き残ることができている。


 そしてカレンにも奇跡が起きていた。

 彼女を実の子供のように愛してくれる母親に拾われ、カレンはスラムで育ったのだ。


「セリス、そのスラムの場所は?」

「こ、このお城から西の方角に…」


 セリスが地図を使って詳しい場所を教えてくれる。

 かなり近い。


 人間の足ならつらくても、馬ならすぐだ。


「すぐに行きたい!この城に、しがみついてれば勝手に走ってくれるような馬はいるかな?」

「は、伯爵家の厩舎なら間違いなくいると思いますが…。い、行かれるのですか…?」

「もちろん!せっかくの手がかりだ!居ても立っても居られないよ!」


 セリスの静止も無視して厩舎に行き、マスタング伯の友人ということですぐに馬は借りられた。


「待てと言えばいつまでも待っていますし、戻れと言えば勝手にここまで戻ってきます。盗賊がでようと、こいつの足にはついてこれません!」


 厩舎長ご自慢の馬らしい。

 誇らしげに語ってくる。


「ありがとう!リゼルが何か言ってきたら全部ソラのせいって言っておいて!」

「ど、どうか、お気をつけて…!」


 心配そうなセリスの声を聞きながら、俺は出発した。


 西へ。

 カレンが生まれ育った場所。


 なつかしき、スラムへ。



寝込んでて平日は更新できずすいません。

あまり調子は戻ってませんがなぜか早く目が覚めてしまい書き上げました。

明日もなんとか更新いたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  残酷な現実が待っていそう。 [一言]  あまり無理はなさらない方が……
[気になる点] お体を大切に。ワクチンの副反応がそんなにひどいのですか。 ゆっくり休んでくださて。 元気になりましたら、更新楽しみにしています。とっても面白いです。
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