05話 帝城
帝城
空に浮かび、外界を見下ろす天空の城
世界の支配者たる魔法使いが集う場所
そこに住むのは文字通り、雲上人だけ
そんな場所に、魔法など使えるはずもない下民の俺が足を踏み入れることになってしまった。
黄金に輝く魔法の階段がついに帝城の入り口にたどり着く。
全く生きた心地がしない。
サラは親衛隊隊長オスカルに案内され、どんどん奥に突き進んでいく。
そして取り残される俺。
今から地面に突き落とされるのでは?と最悪の可能性が頭をよぎる。
「兄さん!また後で!」
サラが振り向いて手を降ってくる。
それに力なく手を振り返す。
だがその一言で空気が変わった。
それまで俺は「皇帝を帝城に連れてくるため、一緒に連れてこなければいけなかった下民」だった。
サラが帝城についた今、もはや用済み。
だから地面に落とされるなんて可能性が大だったが、サラの言葉でそれが覆る。
今の俺は「後ほど皇帝に会わせる必要がある下民」に格上げだ。
下民は下民でも、殺してしまっては皇帝の命に背くことになる下民だ。
彼らは俺を生かしておく必要ができた。
いや、生かしておくことが義務付けられた。
心のなかでサラに感謝を伝えながら一息つく。
だがまだ油断はできない。
生かしておけばいいだけで、傷つけていけないことではない。
だから「ありがとうサラ」なんて口にしようものなら
「皇帝陛下を呼び捨てにするな。下民」
などと言われて手足の一本や二本切り落とされかねない。
口は災いの元
沈黙は金
今はこれが正解だ。
ビクビクしながら指示を待つ。
勝手な行動も危険に直結する。
自分は石像だと言い聞かせて、微動だにしない。
「こっちだ」
騎士の一人が声をかけてきた。
声をかけただけでこちらも見ずに歩を進めていく。
慌ててその後ろについていこうと駆け出す。
最後に地上を、俺の住んでいた街に一瞥を送る。
あそこで過ごした日常へとは二度と帰れない予感に思いを巡らせながら、俺は帝城へと入っていった。
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間近で見た帝城は圧倒された。
地上からは下の土部分しか見えなかったが、建物の規模と荘厳さはとんでもないものだった。
そして中に入って再び圧倒された。
ただの廊下なのに、壁から天井まで装飾が施されている。
敷き詰められた絨毯もとんでもなくふわふわだ。
こんなところを歩いていいのかと不安になってくるほどに。
時間の感覚も距離の感覚もなかった。
ただひたすら圧倒され続け、気づいたら案内してくれた騎士が歩を止めていた。
「とりあえず、ここにいろ。狭いだろうが、文句は言うなよ」
そこは部屋だった。
俺が住んでた家の倍ぐらいありそうな大きさの部屋だ。
狭いなんてとんでもない。
「トイレはこっちで、風呂とシャワーはここだ。キッチンには食料も置いてあるから、腹が減ったら好きに使え」
しかも別のいろんな小部屋もついている!
まるでお屋敷じゃないか!
その後も部屋の説明をどんどんしてくれる。
わざわざ説明がいるほどの部屋。
そんな部屋にいさせてくれることへの感動に打ち震えていると、その騎士はバツが悪そうな顔をしていた。
すでに兜はとっており、可愛らしい顔が見えている。
俺と同じくらい、つまりサラより少し年上ぐらいの美少女だった。
「不満は言うなよ?下民が帝城の客室に来ること自体が前代未聞なんだ。いくら後々陛下に謁見するとはいえ、これより上のランクの部屋をあてがっていいかなんて、親衛隊でも判断できない」
俺が黙っているのを不満の現れだと思ったらしい。
とんでもない誤解だ。
そんな誤解をさせたままでは申し訳ない。
不安はあるが、意を決して口を開く。
「す、素晴らしい部屋を、ありがとうございます!」
腰を直角に曲げて頭を下げ、お礼を言う。
きっと失礼な態度ではないはずと信じながら。
「そ、そうか。不満がないならいいんだ」
なぜか少女の騎士は怯んだようだった。
不思議に思ったが、その理由はすぐわかる。
「下民って、普通に話せるんだ…」とつぶやいている。
…もしかして魔法使いって、下民は口がきけないとでも思っているんだろうか?
俺がさっき殺されかけたのは話しかけたからではなく、雑音を発したと思われたからかもしれない。
恐ろしいものだ。
「まあ、不満がないならいいんだ」
自分の任務が完遂されたことに満足したのか、機嫌がよくなった。
「私はたまに見回りに来るから、不満があるならそのとき言え。改善できるかはわからんが、聞くだけは聞いてやろう」
「私は優しいからな!」と胸を張っているが、実際優しいのだろう。
部屋の案内までは任務だろうが、部屋の中の説明や見回り時に不満を聞くというのは彼女の気遣いなのかもしれない。
魔法使い、貴族にもこんな優しい人がいるんだと感動した。
「ありがとうございます!」
「うむ。存分に感謝するといい!」
俺の渾身のお礼を満足気に受け止め、騎士は部屋を出ていく。
そして、俺は部屋を堪能した。
飛び込んだらそのまま跳ね返されるほどクッションのいいベッド
まるで空気のように軽く、でも心地よい羽毛布団
いつでも水が出るシャワー
熱い湯で水を張れるお風呂
見たこともないような豪華な食材
幸せなひとときだったが、ふと思ってしまった。
さっきサラと食べたご飯のほうが、美味しかったなと。
ローファンタジーデイリー17位、ありがとうございます!
お礼は更新ぐらいしかできませんので、今日書き上げた5話を更新させていただきます。
明日更新でいいかとも思っておりましたが、これで皆さんが喜んでいただけると嬉しいです。
前作を読んでいただいてた方がたくさんこちらも読んでくださってるのでしょうか?
ありがとうございます。




