04話 非日常へ
魔法使いに向かって許可もなく口をきく。
それは、俺たち下民にとって万死に値する行為。
俺はその禁忌を犯した。
ゆえに死ぬ。
至極当然のことだ。
愚か者は殺されるのが必然。
今回はその愚か者が俺だったというだけ。
「兄さん!!!」
サラの声がまるで俺を包み込んでくれるかのように感じる。
この中で死ねるのなら、悪くない。
むしろ上等だ。
だがすぐに、それは勘違いだったことに気付かされる。
包み込んでくれるかのよう?
違う。
実際に、包み込んでくれているのだ。
まるで空気が実態をもったかのように、俺の体は不思議な力で守られていた。
それが騎士の剣をはじく。
そして同時に、騎士達が吹っ飛んでいった。
サラの叫び声がまるで質量をもっているかのように
強烈な威力をもつ衝撃波となったかのように
フル装備の騎士達を、吹き飛ばしたのだ。
気づけば俺たちは地面の上に立っている。
さっきまで足元にも周りにも大量にあったガレキの山
俺たちの家、だったものが、どこにもなくなっていた。
今の衝撃波で、それらも全て吹き飛ばされていた。
どれほどの威力だったのかと、ゾッとする。
俺だけが残っていると異常性にも、背筋が凍る。
そう、俺だけ。
もちろん横にはサラがいる。
だが馬鹿な俺にもわかる。
これは、サラが起こしたことだ。
だから、サラが残っているのは当然。
サラが俺以外の全てを、吹き飛ばしたのだ。
ガレキも、騎士達も。
「素晴らしい」
騎士達をも吹き飛ばす衝撃波。
同時に襲ってきた瓦礫の山。
それらを全て耐え抜き、ただ一人だけが立っていた。
オスカル
頭から血を流しながら、燃えるような瞳でこちらを見つめている。
「詠唱もなく、魔術具も用いず、ただの魔力の放出だけでこの威力。ただそれだけで親衛隊の精鋭達を一瞬でなぎ倒す、その御業。まさに神に等しき、この世界の支配者たる御方にふさわしい」
イケメンという生き物は、流血してても美しいらしい。
それほどまでに、このオスカルという騎士は美しかった。
だが、それよりも
「皇帝陛下。ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます。貴方様こそ、全ての魔法使いの支配者にふさわしき御方。さあ、我らと共に向かいましょう。帝城へ!」
衝撃波で前髪が吹き飛ばされ、数年ぶりに見るサラの素顔
それはこの騎士すらも凌駕する、美しさだった。
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今考えるべきは顔の美醜などではない。
それぐらいはわかってるのに、それを気にしてしまった自分が嫌になる。
今気にすべきはこの騎士の発言内容だ。
皇帝
帝城
こいつらはサラを帝城に連れていくためにやってきた?
その理由は、サラが皇帝だから?
横にいるありえないほどの美少女が、皇帝?
全魔法使いの支配者。すなわち、この世界の支配者?
いや、こいつはサラだぞ?
俺の妹だぞ?
なんでサラが、皇帝なんだ?
気にすべきことを気にしたが、さっぱり意味がわからない。
むしろ混乱するばかり。
思考が袋小路に迷い込む。
だが目の前にいるイケメンが頼みもしないのにその理由を教えてくれる。
曰く、
「先代皇帝が崩御してから、空位が続いている」
「先代皇帝には子がなく、臣籍降下した者も含め皇帝にふさわしい者がいない」
「そんな中、先々代皇帝には隠し子がいるという噂が入手された」
「それが真実だとわかり、世界中を探し回っていた」
「微小な魔力反応が探知にかかり、それを辿ってここまでやってきた」
こんなことを、ものすごい敬語でとんでもない長さで語ってくれた。
簡単に言うとサラは先々代皇帝の子供で、次の皇帝というわけだ。
ポルターガイストだと思っていたサラの不器用さ
これは魔力の発露で、制御できずに軽く暴走させていたらしい。
普通は詠唱もなくこんなことなどできないとのことで、これこそがサラの偉大さの証明だとか。
だんだんと頭がついてきた。
俺はただの下民の捨て子だが、同じ捨て子でもサラは皇帝の子供だったわけだ。
そして才能もあった。
だから求められ、探され、彼らがここに来たのだ。
少し寂しい気もするが、サラが幸せならいいことだ。
それに俺も助かった。
サラのおかげで騎士達が来て、殺し屋共を追い払ってくれた。
俺が別の町に逃げるぐらいの時間もあるだろう。
ありがたい話だ。
「ほら、サラ」
そう言ってサラを立たせる。
「お前を迎えに来てくれたんだってさ。行ってきな」
サラにタメ口を聞く俺に、騎士達が顔をしかめる。
だがサラ自身がそれを許しているので、何も言うことはない。
不満そうな雰囲気がひしひしと伝わってくるが、あえて無視。
それよりもサラが悲しそうな瞳で見つめてくるほうがつらい。
かわいいサラ
こんな美少女だとは知らなかったが、そんなこと関係なしに俺にとっては世界で一番かわいい妹だ。
別れるのは寂しい。
だが家族であってもいつかは別れが来る。
それが我が家には今日であったというだけだ。
「どうぞ、陛下」
騎士オスカルが手を差し出す。
そこには金色の階段が生まれ、帝城へとつながっていく。
これも魔法なのだろう。
その凄さに圧倒される。
圧倒される俺を最後にひと目見つめ、サラが歩みを進めた。
「オスカルさん、でしたっけ?」
「畏れ多いことです、陛下。どうか私のことはオスカルとだけ」
「そうですか。では、オスカル」
「はっ!」
サラの言葉を聞いて、オスカルの顔は歓喜に彩られる。
まあ、サラが彼らの方に進んだのだから当然だろう。
彼らはこのために、こんなスラムまで来たのだから。
そして俺にとっては、これがサラとの永遠の別れとなる。
さようならサラ。
どうかこれからも、元気でな。
だが、そんな俺の想いは最も意外な方向で裏切られる。
「もちろん、兄さんも一緒ですよね?」
その一言で、場は一瞬で凍りついたのだ。
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「へ、陛下?」
一番先に立ち直ったのは親衛隊隊長オスカル
幾度も修羅場をくぐり抜けてきたであろう経験がものを言ったか
「も、申し訳ございません。ど、どうかもう一度、おっしゃっていただけますでしょうか?」
声が震えている。
なんとか発言してるという感じだ。
だが自らの耳がおかしいことを心から祈る彼の想いは、己が主には伝わらない。
「私があなた達と一緒に行くのは理解しました。で、もちろん兄さんも一緒に行くんですよね?って聞いてます」
言い直すサラ。
自分の言葉が理解できていなかったと思ったのだろう。
丁寧に言い直すその姿は、彼女の優しさからくるものだ。
だが、そんなことをしても意味はないのだ。
オスカルの耳にサラの言葉は届いている。
その言葉の意味も理解されている。
その上でオスカルは問いかけているのだ。
本来なら彼は、はっきりとこう聞きたいに違いない。
「こんな下民のガキを帝城に連れて行く?正気ですか??ありえませんよ!!」
と。
だが、サラは一切引かない。
問い直すオスカルに再度丁寧に説明する。
懇切丁寧に、いかにサラにとって俺が大事な家族かという解説まで加えて。
もう一度問い直そうとするオスカル
だがサラはついに業を煮やしたのか、彼女にしては珍しく啖呵を切った。
「兄さんも一緒に連れてってくれないなら、私も行きません!」
この一言が決め手となり、俺の帝城行きは決定された。
金色の階段に乗った瞬間の気持ちはどうだったかって?
ドナドナ、かな…
久々に前作を書いた勢いそのままで、書き上げることができました。
あちらのリンクから飛んできていただけてる方もいらっしゃるようで、ありがとうございます。
少し毛色が違うと思いますが、こちらも楽しんでいただけますと幸いです。




