22話 気づいたら領主
貴族というものは、たいてい領地を持っている。
上は大公から下は騎士まで、世襲貴族ならほぼ全員が領地を持っている。
ただ当然だが、領地は地位に比例する。
大公ならば大きさも規模も他の貴族を圧倒している。
逆に騎士などは臣民の町一つや村数個という場合もあるという。
ならば皇帝の兄はどうなんだろう?
一応貴族なので領地を持っていてもおかしくはないのだが
「もちろん、ソラ様にふさわしい領地でございます」
とはビスケッタさんの言。
俺にふさわしいとなると、あばら家一つで十分だと思うが…。
「大公にも、見劣りいたしませんよ」
劣ってて、全然構わないんだけどなあ…。
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なんで俺は領地を持っているんだろう?
領地なんて降って湧いてくるはずもなく、いったいどこからやってきた?
そんな素朴な疑問はすぐに解決する。
「皇帝直轄領ってのがあるらしくて、その半分を兄さんにプレゼントしました!」
うちの妹がとんでもないことしてくれてた。
「でもオスカルがもう少し抑えましょうって何度も何度もお願いしてきて…。結局、大公よりちょっと多いぐらいってことになっちゃいました」
オスカルグッジョブ。
もっと削ってくれても良かったのに。
珍しく俺とやつの利害が一致したようだ。
「増やしたかったらいつでも言ってくださいね!」
サラの笑顔が眩しい。
でもお兄ちゃん、絶対永遠に増やしたくなんかならないよ。
「夏休みは領地に行かれるんですね?いいなー。私も行ってみたいなー」
いつか聞いたセリフ。
前回は学院だったからダメだったが、今回は領地なのでサラを止めるすべはない。
連れて行こうかどうしようか迷っていたが、ふと気づく。
サラの目が本気ではないことに。
口では俺について行きたがっているが、本音は別であることに。
そしてさらに気づく。
うちの妹、もしかして根っからの引きこもりなのでは?
「…もしかして、サラってあまり部屋から出たくない系?」
「べ、別にそんなことありませんよ?兄さんの行くとこなら、私、どこでも行きたいって思ってますよ?」
ちょっと焦ってる。
可愛いやつめ。
あまりいじめるのもかわいそうだし、追求はしないであげよう。
部屋から出たくなったら自分で出るだろうしな。
それに、万一にも俺の領地に来たいなんて言い出すほうがよっぽどたいへんだ。
皇帝の行幸とか冗談ではない。
もちろん具体的なに何がまずいかはわからない。
想像もつかない。
ただとんでもないことになることだけは、想像できなくてもわかってしまう。
だからそれだけは、絶対に避けねば。
その後は意識して領地の話は避け、サラと他愛もない話を続ける。
領地を守るという、俺の初めての領主としてのお仕事だ。
なお夏季休暇中も頻繁にサラへ連絡を入れることだけは約束させられた。
サラの圧、すごかった。
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「え?エメラルドも来てくれるの?」
「うん…」
エメラルドは何か複雑な表情をしている。
理由を聞いてみると、微妙な顔をして答えてくれる。
「いや、元々休みとって少しついてってやるつもりではあったんだ。ユキにも頼まれたし。でも、陛下から直々に「兄さんを頼みます!」ってお言葉をいただいてしまってな…。隊長とも話したんだが、何かどうも、夏季休暇中にソラの傍にいるのが、私の任務になったっぽくて…」
なるほど。
俺との友情でついて来てくれるはずが、正式な命令で俺の警護をするはめになったと。
親衛隊の正式任務として俺を警護する。
それは複雑な気分になっても仕方ない。
俺だって仕事でエメラルドと遊べとか言われたら嫌だもん。
変な気分になってしまう。
「でもまあ、元々やるつもりのことだったし、頑張るよ。ソラは地上については詳しいだろうが、なんというか、詳しくない部分も多いだろうし…。うん、そうだよな。そこは私がサポートしよう!」
確かに俺は地上に詳しい。
全てが魔法で管理された帝城とは違い、地上は気候が安定していない。
いつ自然災害が起きるかわからず、それが帝城育ちの貴族には不安の種らしい。
だが俺にとってはそれが日常。
帝城に住んでる今こそむしろ非日常。
今更驚いたりはしない。
ただ俺の知ってる地上の人間の街は、偏っている。
偏ってるどころか、スラムしか知らない。
下民の街のことしか、知らないのだ。
魔法使いの街どころか、魔法使いでない臣民達の街すら行ったことがない。
見たこともない。
スラムにいたころは臣民なんて目の前に来たら土下座する対象だった。
街に行くなんてとんでもないことだ。
命がいくつあっても足りない。
でもまあ、今はそんな命の心配をする必要もないだろう。
堂々とするのは無理かもしれないが、ビクビクしないよう気をつけよう。
エメラルドが来てくれるならなお安心だ。
ちなみにビスケッタさんを始めとするメイドの皆さんは当然のようについて来てくれる。
申し訳ない話だ。
しかし領地か。
まず帝城を出て地上に降りて、そこから移動するわけだ。
サラのときは帝城が迎えに来たが、俺なんかのためにさすがにそれはないだろう。
サラならやりかねないが、出発日は言ってないからたぶん大丈夫。のはず。
となると、普通に地上を移動することになる。
しかし世界は広い。
俺の領地とやらがどこかは知らないが、歩いたらとんでもなく時間がかかるだろう。
でも俺は馬なんか乗ったことないし乗れるはずがない。
となると、馬車とかで移動するのだろうか?
馬車でエメラルドやビスケッタさん達と移動して、街々で泊まっていく。
そこの名物を食べたり、ちょっと観光したり。
もしかして、これが旅行ってやつだろうか?
生まれて始めての旅行。
すごく楽しそう。
想像するだけでワクワクしてくる。
夏季休暇の半分ぐらいは移動時間で終わるかもしれない。
でもこんな移動なら、すごく楽しそうだ。
サラにお土産買ったり、手紙書いたりしてあげよう。
その地方の景色が描かれた手紙とか、きっと喜ぶぞ。
いい夏休みになりそう!
「ソラ様。準備が整いました」
噂をすればなんとやら。
ビスケッタさんがわざわざ連絡しに来てくれた。
「ビスケッタさん、ありがとうございました。俺の方の準備は、まあ、大丈夫ですよ」
俺としては特別に準備しておくようなものはない。
むしろビスケッタさんに任せたほうが安全安心だ。
俺は、この身一つで十分。
私物なんて、そもそも持ってないし。
これで準備は整った。
じゃあ、明朝あたりには出発かな。
今夜は早く寝ないとね。
最初の街はどんなところだろう。
楽しみだ!
「では、参りましょうか」
参りましょうか、とは?
質問する間もなく、一瞬部屋全体が輝いた。
驚いているのは俺だけ。
エメラルドもビスケッタさんも他のメイドさん達も平然とした顔をしている。
それが転移魔法だとわかったのはしばらく後。
俺が自分の領地に到着した、数秒後のことだった。
第三章、開始となります。
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三章は領主編で、ソラは早速領地に向かいます。
馬車で移動なんて牧歌的な風景はなく、魔法でささっと移動です。
ソラ以外の貴族のお嬢様方ばかりなので転移魔法は慣れたものですね。
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