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11話 メイドさん

 翌朝、俺の部屋に突然の訪問者が現れた。


「殿下にお仕えすることになった、ビスケッタと申します。どうかよろしくお願いいたします」


 本人もメイドさんの格好をしており、さらにはメイドさんたちを後ろに引き連れている。

 いったい何が起きているんだろう?


「ビスケッタ様!?」


 エメラルドが驚いている。

「もうすぐ訪問者が来るはずだ。きっと驚くぞー」

 なんて言ってた本人が一番驚いてどうする。


「な、なぜビスケッタ様が?」

「殿下は陛下に準ずるお方。畏れ多いことですが、それゆえ私が適任だと選ばれたのです」

「そういうことですか…。だから、ビスケッタ様ほどの方が…」


 なんとなく察した。

 謙遜してるが、この人はきっとすごい人だ。

 エメラルドと同格、本人が騎士とか伯爵家令嬢とかそういう立場なのだ。

 そんな人が俺のメイドなんかになるから、驚いている。

 きっとそんなことだろう。


 …勘弁して欲しい。

 別にメイドさんなんかいなくても、一人で何でもできるのに。


「ソラ。こちらはロッキー公爵家公女、ビスケッタ・ロッキー様だ」


 俺の予想を軽く超えてきた!?


 公爵といえば、貴族でもトップクラスの家柄。

 貴族社会ヒエラルキーの頂点に立つ四つの大公家。

 それに続くのが公爵家。

 文句なしの大貴族。


 そこのご令嬢が、俺のメイドさん、だと…?


「後ろの者達も全て爵位貴族の家の出です。出自について情報がお必要でしたら、いつでもご要望ください」


 万一にも怪しいやつが紛れ込まないよう、貴族のご令嬢を集めたのだろう。

 だが俺の健康のためにも詳細は聞かないほうが良さそうだ。

 そんなこと聞いたら、心臓が止まりかけない。


「経歴についてもご説明のための手はずは全て整えてございます。裏がないよう、交友関係も全て調査済でございます」

「あ、いや、必要ないっす」


 むしろ、他人のそんなこと知りたくないっす。

 交友関係含めて経歴全部を説明可能って、どんだけ慎重なんだ。

 そしてその上で問題ないって、潔白すぎるだろ。

 つい昨日まで下民だった俺に、そんな大事なお嬢さんたちを仕えさせていいのか?


 ちなみにこのメイドさん、エメラルドとは以前から付き合いがあるらしい。

 領地が隣同士で、小さい頃からエメラルドがお世話になっていたとか。

 小声で教えてくれた。


「エメラルド、殿下に対してその口の聞き方…」


 メイドさんの眉間にシワが。

 俺の前だから抑えているが、もしいなかったら憤怒の化身となることだろう。


 真っ青になるエメラルド。

 慌てて俺がフォローする。


「いや、俺とエメラルドは友達なんです。だからむしろ気にせず、こうして欲しいと俺がお願いしたんです」

「そうですか」


 怒りがおさまり一安心。

 今ならいけるかと付け加える。


「だからどうか、あなたも俺に対してもう少し気軽に…」

「それはなりません」


 だが、俺の言葉はピシャリと遮られる。


「私は殿下にお仕えするメイドでございます。私と殿下が馴れ合っては、他の者にも示しがつきません。君臣の区別は、きちんとしなければならないのです」


 見た目通り厳しい人だった。

 だが、その殿下という言い方はやめてもらいたい。

 自分のことを呼ばれている気がしない。


 お願いしてみると、それはあっさり許された。


「そうですか?ではなんとお呼びすればよろしいでしょう?」

「名前で、例えば、ソラさんとか…」

「承知しました。では、ソラ様で」


 やはり気軽さはNGらしい。

 難しいものだ。

 様付けも嬉しくはないが、殿下よりは遥かにマシだから良しとしよう。


「俺はさん付けで呼ばせてもらうね」


 自分の世話をしてくれる年上の女性。

 それを呼び捨てにするのは何となく拒否感があり、そこは譲れなかった。

 俺の呼称に比べれば妥協の余地は十分あるらしく、少しの押し問答で許された。

 …押し問答しないと、さん付けすら許してもらえなかった。


「それではソラ様。改めて、どうかよろしくお願いいたします」

「「よろしくお願いいたします」」


 ビスケッタさんと後ろのメイドさん達が同時に、美しく、礼をしてくれる。


「こちらこそ、よろしくお願いします。ビスケッタさん、皆さん」


 それに俺もできるだけ丁重に礼を返した。

「別にメイドさんなんていらないのにな」なんて思いながら。


 それが大いなる思い上がりだと気づくのは、すぐのことだった。



 ---



 帝城

 それは皇帝の居城

 強大な魔法で空に浮かび、魔法使いたちが住む城


 そう、ここは魔法使いたちが住む場所。

 ゆえに、魔法使いが住むように最適化されている。


 それはつまり、魔法が使えない人間のことなど考慮されていないのだ。



「お水でございます」

「あ、ありがとう」

「とんでもございません。何かあればいつでもご用命ください」


 俺が昨日まで住んでいた部屋は、実は臣民が泊まることも想定されていたらしい。

 それゆえ魔法が使えない人間でも生活できるようになっていた。

 だが、今俺が住んでいる部屋は違う。

 ここに住むことが想定されているのは、貴族。しかも高位の。

 それはつまり、魔法使いが住むための部屋だというわけだ。


「まさか、水すら自由に飲めないとは…」


 いつでも水が出る蛇口

 好きな時に熱いお湯が楽しめるシャワー

 人が来れば勝手に開く自動ドア


 これら全て、魔力を宿した手をかざさないと動かない。

 魔力をもっていないと、全く使えない代物なのだ。


 ちなみに、トイレの水を流すのにも手助けがいる。

 このことは恥ずかしすぎてすでに記憶の奥底に封印した。 

 トラウマレベルである。


 このままではつらすぎると、最低限は魔力なしでも動かせるように調整してもらっている。

 俺のために便利なものをわざわざ不便にする調整。

 非常に申し訳ない。


 だがその調整もあくまで俺の居室内のこと。

 ここから一歩出てしまえば、他の帝城内は全て魔法使いのための場所。

 俺は扉一つ開けることすらままならないのだ。


 以前エメラルドの部屋に行ったとき、あのときは彼女がそういうものを全て対応してくれていたのだ。

 俺に気づかせず、悟らせもせずに。

 やはりエメラルドは、すごいな。


 だから俺は部屋から出ることがほとんどない。

 なにせ自室の扉の開閉すら自分でできないのだ。

 そもそも、自分の意志で出入りができない。


 それゆえ、こんな悲劇も起きてしまう。



「申し訳ございません!!」


 目の前で土下座しているのは俺のメイドさん。

 ビスケッタさん配下のメイドさん。

 今彼女は土下座という言葉を体現したような素晴らしい土下座を披露してくれている。


 …土下座を体現ってなんだろう。

 自分で言ってて意味がわからない。


「殿下のご気分を害したこと、万死に値することは百も承知でございます。ただどうか、ビスケッタ様と我がマスタング伯爵家には寛大なご処置を。全ては、私一人の罪でございます!」


 俺の気分を害する、ただそれだけの死に値する罪らしい。

 そして貴族という人々は自分の所属先や実家は絶対に守りたいものらしい。

 エメラルドもそうだった。

 俺には全くわからない感覚だ。


 ただそもそも、俺は気分を害してなんか全くいない。

 むしろ彼女には感謝しているのだ。


「いや、俺のこと部屋に入れてくれて、ありがとうと思ってるんだよ?」


 そう。彼女は開いてたドアを勝手に出て、勝手に閉め出された俺を部屋に入れてくれた恩人なのだ。

 だが、彼女にとってはそうではないらしい。


「とんでもございません!私がドアを開けたままに、閉めずにいたことが全て悪いのでございます。本当に、本当に、申し訳ございませんでした。」


 彼女は別に何も考えずに開きっぱなしにしていたわけではない。

 ドア周りの清掃をしており、一瞬目を話したスキに俺が出ていったしまっただけなのだ。

 普通に俺が悪い。


 その後ビスケッタさんも入ってもらい、三者会談を実施。

 結果、彼女は帝城から永久追放という結論になった。


 慌ててエメラルドにも入ってもらい、四者会談に変更。

 味方を一人得た俺は何とか譲歩を勝ち取った。


「…では二度と同じミスを犯さないということを絶対条件に、今回のことは不問ということで。リゼル、良かったですね」

「ありがとうございます。このような寛大な処置をしていただき、感謝の言葉もございません。二度と同じミスを犯さないこと、そしてマスタング伯爵家が殿下に永遠の忠誠を尽くすことを、ここに誓います」


 そんな重いこと、簡単に誓わないで欲しい。


 だがここで反論してはいけない。

 ビスケッタさんは今もこの結論に納得していない。

 俺が何か言っては四者会談の結論そのものをひっくり返そうとしてくるかもしれない。

 これ以上の深追いは禁物。

 これだけでも十分、俺とエメラルドの勝利なのだ。

 何と戦っているのかは、不明だが。


 ちなみに、リゼルというのはミスしたメイドさんの名前である。

 リゼル・マスタング

 マスタング伯爵家のご令嬢、ではない。

 マスタング伯爵家次期当主、である。


 そんな重要人物を俺のメイドさんなんかにしないで欲しい。

 ちなみに当主を継ぐ前に帝城で経験を、高貴な方の側仕えをするという経験を積みに来たらしい。

 絶対に俺のメイドさんなんかにしておいていい人材ではないと思う。


 なんという悲劇。

 色んな意味で。 



 ---



 そんな疲れる日々を過ごす中、一枚の招待状が届いた。


「部屋に来いって?サラの部屋に?」

「はい。お迎えの方々がお待ちです」


 招待の手紙とともに迎えまで派遣されてくるとは。

 準備万端だな。


 だが、すぐ行くわけにもいかない。


「じゃあささっと食事すませちゃうから、ちょっと待っててもらって」


 今日のご飯はビスケッタさんの手料理なのだ。

 ビスケッタさんの焼いてくれるパンは絶品なのである。

 楽しみにしていたのだ。


「そ、ソラ様?陛下のお迎えが、お待ちなのですよ?」

「へ?うん。もちろんわかってるよ」


 パンを食べながら返事をする。

 エメラルドに見られたら怒られそうだが、ビスケッタさんはそこまで厳しくないから大丈夫だ。


 それに今はそんなことより、サラからの招待状が気になって仕方ないらしい。


「ソラ様。ど、どうかお考え直しください。陛下の使者をお待たせするということは、畏れ多くも陛下をお待たせすることに等しいことです。どうか急いで、ご準備ください」


 パンをごくんと飲み込む。

 ビスケッタさんがそこまで言うのならそこまでのことなのだろう。


「帰ってきたら、焼き立てパンをお願いします」

「もちろんでございます」


 その確約を得て、俺は後ろ髪を引かれつつも準備を始めた。

 かわいい妹に会いに。


 しかし妹に会いに行くのにパンの一つや二つ食べる時間も待ってもらえないとは


「ままならんなあ」


 本当に、そう思う。



幕間に対して否定のご意見はなく、受け入れていただけたのかなと一安心しております。


そして第二章、始まりました。

少し間を空けようと思っておりましたが、多くの評価をモチベーションに今日更新することができました。ありがとうございます。


評価とブクマが本当に励みになります。

面白いと思われた方はぜひ↓の☆☆☆☆☆を★★★★★に変更頂ますようお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 少年に学がありすぎるのでは? 孤児院に秘密があるんですかね
[気になる点] 三者面談…… 「状況を鑑みて、極刑も適応可能なこの罪ですが……」 「(ハラハラ)」 「当のソラ様のご恩情も加味した結果…」 「(あ、穏便に済んでくれるかな?)」 「リゼルは帝都を永久…
[一言] 今作みたいのには、幕間は必要だと思いますね。 他方面からの視点は、物語の世界感を広げてくれます。 しかし、幕間に関しては分割はよろしくないでしょう。 今回みたいに同日に更新しないのであれば、…
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