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1-4 ダンジョン攻略戦

「ここ、は」


見渡すとドーム状の薄暗い空間。


「うっ・・・」


シエラが目を覚ます。

ライトは完全に気絶している。


「おい、起きろ。おーい」


頬を叩くと「サンドウィッチ!」と叫び飛び起きたライトの頭突きをモロに

くらい二人は悶えていた。


「ここは、どこだろう」

「さぁな、ろくな場所じゃないことは確かだな」


リリスの言葉を思い出す。

「ミスト」での魔王軍の軍記。

このダンジョンの主の二人との邂逅の記録。


ライトの不注意によって飛ばされた先の空間。

とはいえ予定調和なのだろう。


タクトは目を凝らす、奥にはこのダンジョンの主がいるだろうか。

主にシエラは殺され、ライトは奇しくも逃げ切る事ができ勇者として

生きることを決意する。


「そんな所か」


タクトは奥へと歩を進める。


「タクト、一人で先行しないほうがいい。危険だよ」

「なに、少し様子を見てくるだけだ」


勇者を陥落させる条件はシエラの生存と、タクトへの信頼。

どんな魔物がいるか、確認しておいた方がいいだろう。


「案外スライムの強い版って可能性だって、いてっ」


薄暗く気がつかなかった目の前には壁。


「何だこれ」


その壁をさすると壁が下方へずり下がる。

その瞬間、ドーム上の天井に灯りが灯る。

目の前に存在した“それ”は瞳。

瞳の化け物。


「うおっ!?」


ズン!

と音を立てる、その正体は日と身の回りにまとわり吐いている触手が

寝起きの手足のように気だるげに地面を支え瞳がどんどん浮かび上がる。


「偶然か、必然か。誰の導きもなしにここへ来るニンゲンが姿を「見」せるとは。

我が寝床を荒らす不届き者よ。我が前に姿を「見」せ糧となるが良い」


地響きのような声。

巨大な瞳の化け物がゆらりと空中に浮かぶ、数々の触手をぶら下げ、

謎の粘液をどろどろと零しながら。


「我、ミストの番人。「ジ・アイ」。魔族十三柱が一柱」

「タクト!」


駆け寄るライトとシエラが息を飲む。

直径十メートルはあるだろうか、その圧倒的な巨躯の迫力に三人は

石のように固まった。


「我は高貴な血を好む。より高貴な者を我に「見」差し出せ」


響く声、未だに二人は動けずにいる。

一瞬の沈黙が永遠にも感じる。

そんな中タクトは己を奮い立たせた。


「さすれば残りは「見」なかった事とする」

「お前、人間の言葉が分かるのか?」


その問いに答えはない。

存在感、肌で刺すような圧倒的なもの。

手に持つ魔王の杖を振るうも何の効果も見られない。


「レベル差ってことか・・!」


レベルが500のタクトであっても慄くこの目の前の化け物は

いったいどれ程の力を持っているのだろうか。

1000だろうか、はたまた1万?人間の測りで測れるのだろうか。


「最も高貴な者の血を、我に「見」捧げよ」


タクトの言葉を一蹴。

コイツは人間一匹を食べれば満足するのかもしれない

だが、高貴かどうかはわからないがこの中での該当者は間違いなく

王国民であるシエラだろう。

このままではシエラが死ぬ。


「迷ってしまったんだ、何とか逃がしてもらえないか?」


勝つ気でいた過去の自分を殴り飛ばしたい。

例えこの場にタクトのみだったとしても「勝てない」という確信がある。


「・・・意「見」のない問答をするのは望まぬ」


触手から光線が地面を抉りながらライトを狙う。


「馬鹿野郎!」


タクトはライトの元に飛び、突き飛ばす。


「タクっ!」


背に直に光線を浴び背が焼ける。


「痛ぅ!・・・ぼーっとするな!」


今ここでライトを見殺しにすれば、自分の望みは別の形で叶ったのではないかと

過ぎる。


「まだ人間やめれてないみたいだな」


ぼそりと零す。

ライトは恐怖からか息が荒く、完全に威圧感に飲まれている。


「どうする、タクト。僕らのレベルじゃ到底太刀打ちできる相手じゃないぞ」

「そうだな、おしゃべりしてる隙も無さそうだ!」


近づいたシエラの胸を強く押す。


「何を」


二人の間には地が抉れた痕。


「倒さなきゃ、倒さなきゃ、倒さなきゃ。私が正義を」


ライトが自らの剣を見つめ小刻みに震えている。

タクトは考える。

どうする、あの目玉の動きが辛うじて見えているのは自分だけ。

ライトが暴走し始めるのは明白。

否、この状況ならライトでなくとも一か八かの暴走をするだろう。

二人の生存を助けることは今のところ出来るがジリ貧。


今出来るタクトの攻撃手段、それは魔術とも呼べない

体内の魔力の放出するだけの攻撃。

これでどこまで抵抗できるのだろうか。

杖に魔力を流し込む。


「貴様」


目玉から声がする。


「貴様から「見」殺した方が、良さそうだ」

「そういうのは心の中で呟いた方がいいぞ」


ビンゴ、とタクトは心の中でガッツポーズ。

タクトは大きく二人から距離を離す。


「いいか!二人とも。俺が注意を引きつける!その間に兎に角攻撃しろ!」


タクトは跳ぶ。

己の脚力に関してだけは自信があった。


「させぬ」


触手が繰り出す全方位攻撃。


「しまっ!」

「プロテクション!」


シエラがライトの目の前に魔術による防護壁を発動する。


「最大出力なら!何とか!」

「よし!二人は連携して攻撃をしろ!」


タクトは魔物の周りを翻弄するように走る。

背後で己を奮い立たせるように叫ぶライトが触手に切りかかる。


「小癪」


タクトへの狙いを止め二人を狙おうとする瞬間、背負った杖を持ち魔力をこめる。

その所作だけで魔物はタクトから目を離せない。


やはり、とタクトは思う。

タクト自身魔術は何一つ習得していない。


だがレベルが示すとおり魔力は膨大にあるのだろう。

それゆえ本来であれば放たれるであろう魔術はほか二人の数百倍の脅威。

それだけでこの魔物はタクトから目を離せない。


「はっ、はっ」


とはいえ休む間もなくトップスピードで走り続けている。

ライトとシエラが攻撃をし続けてはいるが魔物が倒れる気がしない。


「HPバーくらいみえろって・・・ハァ」


瞳から放射状の広範囲の熱線。


「ぐっう!」


かわしきれず咄嗟に腕で顔を防ぐ、焼け落ちる服と焦げ臭い臭い。


「タクト!」


ライトの泣きそうな声。


「いいから攻撃をやめるな!」


杖を持ち、瞳の化け物と対峙する。


「いい加減に・・・しろ!」


杖にこめた魔力を放出する。

でたらめな黒色の波動。


「くはははは、我に「見」させるよう動いているな」


魔物から笑い声。


「くはは、くふはははははは!!しかも魔法が使えぬようだ」

「・・・」

「しかしこの威力、「見」侮っていたのは我の方か」


瞳の化け物の姿だったその中心に真っ直ぐの線が入る。


「此処に訪れる人間で、ここまで「見」応えのある者が来るとはな」


すう、と入った直線はぱっくりと割れ、中からぼとぼとと瞳の化け物の小さな姿の

魔物が何匹も現れる。


「魔王様に報告せねば、我が「見」眷属たちよ」


その魔物達はライトとシエラに襲い掛かる。


「まずい!」


激流のように押し寄せる物量による波状攻撃。

シエラが必死に盾の魔術を展開しているが直ぐに限界を迎えるだろう。


「貴様らニンゲンの中に、これ程の抵抗を「見」せられるとはな」


タクトが魔力を放出し小型の瞳の魔物を焼き殺すが、多すぎる。

背から噛み付かれ、大型の瞳からは変わらず熱線がタクトを焼く。

ミシミシをきしむ盾。

涙目になるライト。

必死に振るう剣で数体の魔物を殺すも圧倒的な物量に変わりはない。

一気に倒しきる方法は、思いつかない。


「下等生物の癖に何故我らに歯向かう?

家畜は喰われていればいいのだ。魔族の気のままに」


眷属を排出し終えた巨大な目玉が中央に悠然と佇む。

体中血だらけのタクトと、盾の魔術が破壊され絶望の表情の二人。


「とはいえ、我を「見」傷つける下等生物がいる事は

許しがたい事実。また発展しきる前に」


瞳の化け物からダメ押しの熱線がタクトを焼く。

痛みに意識が奪われる。


「「見」滅ぼさねばな」


ああ、ここまでなのか。

調子に乗ってライトを利用しようなどと考えた自分を恥じた。

所詮魔王に転生したからといって筧拓斗は筧拓斗なのだ。

自堕落に日々を過ごして来た過去は変わらないし

俺の本質なんてこんなもの。

いくら悪ぶろうとしたって同情もするし意思も揺らぐ。

異世界転生1ボスで死亡。これが俺にお似合いの最後なんだ、なんて

自嘲しながらタクトの意識がプツンと途切れる。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おい」


目玉の魔物に立つ男の姿。


「貴様、いつの間に」

「・・・」


それは紛れもないタクトの姿。

身体が黒く染まり瞳は赤く輝く。


「その姿、その黒炎、貴様、貴方は、「見」」


瞳から血涙が流れる。


「消えろ、我が同胞」


背負った杖に巻きついた紙を千切る。

杖に魔力を流すと黒雷を散らし剣へと姿を変える。


「馬鹿な、此処に貴方がいる筈が、「見」居られるはずが!」

「禍ツ炎」


瞳が黒炎に飲まれる。


「ああ、ああああ!「見」た!我は「見」た!その炎!貴方様は!

ああ!ついに!ついに!!」


巨大な瞳が燃える、その炎は眷属の魔物にも飛ぶ。

魔物の悲鳴の断末魔が響き渡る。

ライトとシエラもまた、致命傷はないものの魔物に殺される寸前といった状況だった。

ライトは泣きながらその光景を見つめ、シエラは炎から逃げるべくライトの手を引く。


「タクトォー!」


シエラが叫ぶ、続いてライトも叫ぶ。

空中から地上へと無造作に叩きつけられるタクト。


「タクト!大丈夫!?」


ライトに抱きつかれ、シエラも涙目になっている。

ようやく意識が覚醒する。


「俺は・・・」

「すごかったよ!あんな魔術初めて見た」

「魔術・・・?」


タクトの意識は混濁し、断片的な記憶を辿る。

俺があんな魔術を?と自身が信じられない。


「うわああぁああぁあ!死ぬかと思ったあああぁぁあ~!」

「ライト、うるさいよ」


ライトの泣いているのやら笑っているのやら複雑な感情の声。

シエラとタクトは笑う。


「で、どうやってここから出るの?」とライトが言ったときの

二人の顔は未だに忘れられないと後のライトは語った。

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