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1-8 会戦

無常に時は流れる。


王の崩御により国民は混乱し魔王軍侵略の布告から混乱していた所

シエラの兄、フェリス王によって「勇者の発見」と魔王軍への全面降伏の

発表によりほんの少しの落ち着きを取り戻しつつあった。


異形のものに支配されるとはいえ、国民への被害を出さないよう最大限努力する

とフェリス王が必死の呼びかけを行った為だろう。

しかし、国民は焦り、おびえ、逃げ出すもの後を絶たない。


「結局、か」


タクトも逃げ出す算段を考えたが王国軍に厳重に監視された現状はとても逃げ出せる

状況ではなかった。

タクト自身ライトが勇者を押し付けられたことに同情はしている。


部屋で物思いにふけっているとライトが帰ってくる。


「おい、その怪我」

「へ?はは」

「また、か」


ライトは部屋を出るたびに石をぶつけられる。

ギルドに「ジ・アイ」討伐の旨を懇切丁寧に説明したからだ。

国民からは「生贄の勇者」として蔑まれ、或いは「災いを呼ぶ悪魔」

だとも揶揄されていた。


「部屋から出なければいいものを」

「皆、私が居なくなったと心配しなくてすむでしょう?」


彼女は本気で、この台詞を言ってのける。

自己犠牲の塊のような性格。

ここ数日で何故ここまで変化した、出会った当初の彼女はもっと

我侭でお転婆な少女だった。

ここまで彼女を歪めた物はいったい―――


「ライト様、タクト様。新王がお待ちです」


扉を開くメイドの女性が呼ぶ。


「行くか」

「はい」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「よく参った」


玉座に座る男。

以前あった時よりも数段威圧感が増している。

王となったからか、王座の建築上の効果なのか。


シエラは王のそばに立つ。

勇者側二人とは目もあわせなかった。


「本日正午、魔王軍が王都正門へ勇者を迎えに来る。勇者ライトよ」

「はい」


彼女は一歩前へ踏み出す。


「そなたに、この剣を託す」


王が玉座から立ち、控えている者から剣を受け取る。


「王家に伝わる物だ。魔王軍に少しでも抗って欲しい」


周りに控える臣下たちの嘲笑するような視線。

出鱈目だ。どう見てもただの鉄製の剣。

ライトはその剣を受け取る。


「ありがとうございます」

「よし、彼女らを正門まで」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


正門までべったりと十数名の兵士達に囲まれ、逃げ場無く連れられる。

その間もただただ侮蔑し、呪いの言葉を民達が二人にぶつける。


「既に居る様だな」


正門の外に立つ一つの影。

数十メートルは離れているにもかかわらず伝わる熱気。


「炎の大悪魔か」


胸ポケットを見る。


「アイツ一人だったら俺がミストの時みたいな全力で勝てるか?」

「は?無理に決まってるでしょ。大悪魔ナメすぎ。それにアンタ魔力の

使い方だってろくにわかってないじゃない」


やっぱりな、と思い歩を進める。

二人にとっての処刑台への階段。


目の前に相対するアポロニアはニコリと笑う。

まるで太陽がその場にあるような熱気。

兵達は正門で歩を止め、ライトとタクトの二人はさらに進む。


「よぉ、よくきたな。どっちが勇者だ」

「私です」


ライトが一歩前へ。


「だろうな。とはいえパッと見ただの村娘にしか見えねえな」


アポロニアが右手を前へ出すと、たったそれだけでライトが気を失う。


「ライト!」

「なに、ちょっと眠って貰っただけだ。一応聞いときたくてな。」


アポロニアは頭をボリボリと掻き毟りながら尋ねる。


「魔族のお前がなんで“そっち”にいる」

「俺は、成り行き上というか・・・」


ライトを気絶させたのは魔族なりに気を使ってくれたのだろうか。

どうあれ今はその偶然に感謝した。


「ちょっとタクト。いい機会じゃない。早くあっちに着いちゃいましょ。

アタシも下積みからガンバルわよ」


胸ポケットのリリスが話しかける。


「ソイツは?」

「リリスって言うんだ。聞き覚えが無いか?時の大悪魔らしいんだけど」

「さぁな、時はファウストだろ?」

「むぅ・・・なんでなのよ・・・」

「こっちに着く気はあるか?あるなら今から始まるパーティーに参加しろよ」

「な、に・・・?」


タクトは耳を疑った。


「パーティーって侵攻するって事か?勇者を差し出せば終わりってお前ら・・・」

「ハハハハ、ニンゲンの世界に毒されすぎたか?俺達は魔族だぞ。ニンゲンとの約束

なんて守る必要がどこにある」

「馬鹿な!じゃあライトは何の為に」

「何のもなにも、余興だよ。余興。ハナから勇者がいるなんて思ってもねえよ!

ハハハハハ!」


アポロニアが高らかに笑う。

心のそこから本物の馬鹿を見たと笑い転げる。


「リリス」

「何よ」

「俺は時が撒き戻ってからどう身を振るべきか、何をすべきかずっと迷ってきた。

だからニンゲンに深く干渉もしなかったし、ライトへの恨みもいったんは保留してきた」

「そうね。アンタはつまらない程なにもしなかったわ」


タクトの中の怒りの感情が爆発した。


「俺は決めたぞ。人間も魔物もクソだ!俺はその二つを支配する魔王になる!」


高らかに宣言する。

アポロニアはそれすら面白いと笑い、涙目になっている。


「それをアタシに話してどうするのよ」

「まず第一の配下にしてやる、と言ってるんだ」

「ふぅん」


リリスがタクトの顔をみつめる。

眉をひそめ、ため息を一つ。


「ふぅ、どうせ魔王様の方は居場所なさそうだしね。いいわ、付き合ってあげる。

こっちの方が面白そうだしね!」

「ハハハハハ!どこの辺境の魔族かはわからんが腹は決まったらしいな!」


その声にライトの意識が覚醒する。


「私は・・・気を?」

「構えろ!来るぞ!」


臨戦態勢を取る二人。

しかし、


「また会おう、諸君。マズはここの人間を喰らい尽くす」


ふわり、とアポロニアは空を飛ぶ。


地響きがする。以前の兵士達のものとは比べ物にならないほど大きな。

その言葉と共に現れる圧倒的な魔王軍の異形の軍勢。

地から這い出るもの。

空から飛来するもの。

姿を隠していたもの。


「奪いつくせ」


そのアポロニアの声と共に雄たけびを上げながら進軍する。

背後からは兵士達の悲鳴。

呆然とするタクト。


「アンタが相手にするのは、コレよ」

「ちょっと想像より数が多かっただけだ!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


炎。

悲鳴。

炎。

炎。

血。

涙。

悲鳴。

嗚咽。

悲鳴。

炎。


王都は地獄と化していた。

アポロニアは二人と戦うことも無く王都の蹂躙へと飛び去ってしまった。

脅威とすら見なされなかったのだ。


「危ない!」


ライトが泣き喚く女の子を庇い転がる。


「よかった、早く走って逃げて!王国軍のほうへ!」

「うっ・・・うん」


走り出した女の子は瞬間、首から上をムカデ型の魔物に食べられた。


「ああ、あああ・・・!」


瞳を抑え涙を流すライト。


「ぼうっとするな!」


迫るムカデ型の魔物をタクトが魔力の放出で焼き払う。

ライトの胸倉を掴み、頭突きをする。


「勇者になるんだろ!一匹でも多く魔物を倒してみせろ!

一人でも多く人間を救え!」


現実に戻ってこないライトの瞳の光。

戦争が、戦いがこれほど悲惨な物になるとは思いもしなかったのだろう。

大義があるわけでも、何をすべきともわからない戦いとも呼べぬ一方的な陵辱。

人間からは見放され、魔王軍は好き勝手に街で暴れまわる。

打つべき将もいない。

おそらくはアポロニアを打ち倒したとしても止まりはしないのだろう。

今この場に見える魔物には少なくとも理性はない。


「タクト!」


聞き覚えのある声。


「僕を正門の地下室まで連れて行ってくれ」


燃え盛る瓦礫をかいくぐりながら、息を切らしながらシエラが走る。


「どうして」

「いいから!ライトも来てくれ」


ライトの手を引き、地下室を降りる。

厳重な鍵のかかった部屋をシエラは鍵束を取り出し、がちゃがちゃと開け始める。


「お前、何を」

「王族だって事、黙ってて悪かったね」

「そんなことはいい、お前今なにしてる」

「君達を転移させる」


扉を開き、魔方陣の広がる部屋。

地上から爆音が響き、地下のはずの空間に空が見える。


「面白い事してるじゃねえか」


アポロニアが目ざとく現れる。


「これで逃げるんだ!」

「馬鹿!お前はどうするんだ!」

「僕はこれでもこの国の王族だ、最後までこの国と共にありたい」

「ダメです・・・そんな事・・・。これ以上私の前で・・・」


ライトは剣を抜く。


「誰も殺させやしない!」

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