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影41
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その日の朝は、氷点下5度だった。
律子は、布団まで持って帰ってしまったことを後悔した。幻一郎を見た律子は愕然とした。
律子の顔を見るなり起き上がった幻一郎が、薄いこたつ布団一枚で寒さに震えていた。心なしか、右目がおかしかった。どこかしら垂れ下がり、瞳の色を失っていた。
「網膜剥離かも知れない」と、幻一郎が言った。
幻一郎は一度、蓄膿症で鼻の手術をしたことがある。鼻の骨を削っているため、強い咳などをするたびに、目から涙が流れた。網膜剥離が進行すれば、視野が欠損してしまうという。
…ワタシは、脳卒中かクモ膜下出血で突然逝ってしまうかも知れない。
…今、遺言書を書いている。
…死期を感じるのだ。
幻一郎のつらそうで無機質な瞳が浮かんだ。心の氷がとけていくのは、むしろ律子の方であったのに、「私は、なんてことをしてしまったのだ」と、律子はひたすら後悔の念に苛まれていた。
「私は、たったひとりの人間さえ幸せにできないのだ…」




