第六十六話 遷移領域Ⅱ
剣槍は暴力的な武器だった。
振り回すだけで、蛇人をまるで羽虫のように蹂躙していくのだ。これまで普通の剣だと苦労していた敵なのに、まるでそんな苦労を忘れるかのように撫で斬りにしていた。
剣槍は陸黒龍之顎のように両刃が広く重たいので当たるだけでそれなりの威力が出て、青龍偃月刀のように長いリーチを活かすこともできる。
だが、陸黒龍之顎よりも長いので扱うのにより技量と力が必要だった。また青龍偃月刀のように刃が湾曲しているわけではないので、自然と力のモーメントが働き必殺の一撃になることはない。
より重たい得物を、より強く振らなければ剣槍は必殺とならないのだ。
ナダは二つの武器の経験があるからこそ、より効率的に剣槍を扱うことができるが、また他の二つとは似ているのに明らかに違う武器であった。
これまでの特大武器よりもじゃじゃ馬にナダは感じるが、それでもテナシダの作った剣槍に早くも魅力を感じていた
材質があくまで木だからだろうか。思ったよりも軽いように感じる。もしもこの武器がウーツ鋼ならば、もっと重たくなっているだろう。だが、青龍偃月刀よりも長く刃が大きいので、結果的な重量まで増していた。
だが、ナダの息が切れることはない。少しばかり武器が変わった程度で体力が無くなるほど、やわな鍛え方はしていないのだ。涼しい顔でその後も戦闘を続けていく。
ラプトルに出会った。
龍鱗も、素早い動きも関係がない。特に何も考えず、来たモンスターを素早いフリで殺すだけだ。
ナダはやっと自身に合う武器を使えるようになったことで、嗤いながらモンスターを殺していくのだ。
「ナダ……あんなのと、オレは張り合う気だったのか?」
アスはナダのあまりの強さに冷や汗をかいていた。
水を得た魚のようなナダは、剣槍を振るうだけでアスの『竜巻の如き一撃』と同じような破壊力を誇る。特に溜めも必要なく、連続でその一撃を放つのだ。
だが、剣槍の扱いが未熟なので、ナダは壁や床すらも砕いている。
「私の想像より……」
強い、とマルチーザは言いそうになった。
「おいおい! 昔に戻ったみてえじゃねえか」
「懐かしいでござるなあ。でも、昔よりも随分と強くなったみたいでござる。あの武器を使っている姿も見たかったでござるなあ」
そんなナダの強さを見たブラミアとアマレロは、学生時代を思い出していた。共に冒険をした龍の胎内である。ある日いつものパーティーで迷宮に潜っていたというのに、突然現れた巨大な龍に喰われて、冒険をすることになった日だ。
集まった冒険者は七人。自分たちも含めて、ナダやコルヴォもまだ青い頃だった。
そんな中で、ナダは青龍偃月刀を用いて、確かに実力を見せつけていたのをブラミアトアマレロは知っている。
硬い虫のモンスターの鎧甲を簡単に砕いていたのだ。まさに今のように力で押し潰す戦闘スタイルだった。
そんなナダが、ソールでは比較的短い剣で鋭い剣技で戦っていた。二人にとっては衝撃的だった。その状態でも問題なく強かったので、四大迷宮に合わせて戦闘スタイルを変えたのかと思ってしまったほどなのだ。
「やっぱり、ナダはこっちだぜ!」
「いやはや、凄まじい鬼気でござる――」
だが、違うのだと二人は分かった。ナダがこれまで剣技に重きを置いていたのはただ単に自分に合う武器がなかっただけで、本来はこういう武器の方がやはり小児合っているのだ。
そんなナダの強さに、二人は剣を握る力が強くなった。
「……想像以上だ。あの時より……まだ慣れていない武器のはずなのに、あの時よりも強い……」
コルヴォがナダに憧れを持ったのは、彼の学生時代の最後の冒険であるユニコーンとの対決だ。あの戦いのナダは斧を使って、モンスターを蹂躙していた。普段の愛用武器を調整中だったため、コルヴォがナダの為に用意した武器であったが、慣れていない武器でも関係なく、ナダは多くのモンスターをほぼ一撃で沈めていた。その強さは、当時のラルヴァ学園では、一人として並ぶ者がいない実力だった。
だが、そんな彼よりも、今のナダの方が強かった。初めて使う武器だと聞いているのに、これまでの冒険が垣間見えるほどの強さだった。
どんな冒険を行えば、振り落とす剣槍でラプトルを真っ二つにし、振り上げた剣槍でまた別のラプトルを切り、たったのシンプルな薙ぎ払いだけで、二体のラプトルを同時に殺せるような実力を得られるのか、がコルヴォには分からなかった。
まるでもっと“多くのモンスター”と戦うのを前提にしているかのように感じるのだ。
本来のナダの実力に他の仲間たちは驚きながらも、アーザ第一部隊はナダを戦闘に破竹の勢いで迷宮を進んで行った。
そして中層の途中でまた隊列を変えて、今度はコルヴォが前に出る。『鬼殺し(オーガ・スレイヤー)』で右腕を肥大させたコルヴォが、率先してラプトルへと大打撃を与えるのである。その後ろに控えているブラミアとアマレロが、トドメを刺す。これも事前に相談済みの作戦だった。
今回、アーザ第一部隊の冒険の方針は、いかに仲間たちの力を温存して、遷移領域に挑めるか、だった。遷移領域に入ると、龍の数が格段と増えるという。その大半がアーザにとっては未だに経験のないモンスターばかりだった。
もちろん、それらのモンスターの特徴や行動、また具体的に他のクランや冒険者がどのように倒したのか、は頭の中に入っている。
とはいえ、彼らとはアビリティもギフトも違うので、実際にどんな動きになるのかは戦うまでは分からなかった。
「……ここから、が本番みたいだ。遠くから龍の姿が見える。でも、あれはラプトルでも、ディノニクスでもない。蛇人、かな?」
マルチーザの隣に控えたアスが、遠くまでを“風”で感じ取っていた。
探索のみに感覚を集中することで、より広く、より遠くまで見通せるようになっていた。だが、その力はモンスターの姿を感じるのみ、人形か龍型かまではわかるがそれ以上のことはあまりわからない。
どうやら龍種ではないようだ。
やがてアーザ第一部隊がゆっくりと近づいていくと、その姿が分かった。蛇人よりも大きな人の形をしていた。顔は同じような蜥蜴のようだが、より大きく、体に対して頭が大きすぎる。手に持っている武器は小さな手斧だった。それを左右に持っている。
そんなモンスターが五体も群れをなしている
「鰐人だね。聞いたことがあるよ。さて、事前の打ち合わせどおりに戦おうか?」
コルヴォは冷静にそのモンスターを判断する。
鰐人、あるいはケイショと呼ばれるモンスターだ。蛇人よりもより強い顎と、太い腕による斧は粗末な剣や盾なら破壊するほどの威力を持っている。
とはいえ、基本的な動きは蛇人と変わりはしない。
だから、コルヴォが仲間たちに目を配ると、既に彼らは動いていた。最初に動いたのが最も早いアスだ。
「『竜巻の如き一撃』!」
いつも感想ありがとうございます!
余談ですが、現在のナダの実力は慣れている青龍偃月刀や陸黒竜之顎だと、剣槍の倍は強いと思っていただいて大丈夫です。
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