第四十八話 復帰Ⅳ
蛇人を次々と倒していくと、次に現れたのはやはりラプトルだ。彼らは三体から五体ほどの群れとなっており、それ以上の数が現れる様子はない。とはいえ、それは中層での話である。“深層”はもっと多いラプトルの群れもあるという。
ラプトル相手にも、行うことは変わらない。
アスの探知により事前に敵を発見するので、基本的に発見が遅れることはないので先制攻撃が成功していた。
ブラミアによる一撃か、素早いアマレロによる一刀両断。それで相手の思考を切り崩していたから、アスのより強力な一撃が一体のラプトルを倒すのだ。
「どんどん行くぜ!」
「もうラプトルに負けることはないでござるなあ――」
調子のいいブラミアは浮かしたラプトルの首を自分で切り取ることもできた。
剣が冴えているアマレロはアビリティを使ってすらいなかった。自身の剣技のみでラプトルを倒している。その戦果は、アスと同じほどだった。
「強いけど、オレも強いんだ……!」
そんな仲間を見たアスは一段とボルテージを上げていく。風はそんな彼に力を貸し、ブラミアよりも“軽く”迷宮を駆け、アマレロよりも早い剣での斬撃でラプトルを倒していく。
「お、やっぱりアスは強いみたいだな。オレも負けてられねえぜ!」
そんなアスの活気に影響されたブラミアも、より前のめりに冒険に励むことになる。
「なら、拙者もより頑張らないと――」
そんな二人に競う合うように、アマレロもより感覚を研ぎ澄ませていく。
アーザ第一部隊は三人が競う合う事によって、ラプトルが多く出現する場所も突破し、簡単に目的の場所まで辿り着く。
――パキケファロサウルスの生息地だ。事前にアーザ第二部隊から情報を得ていたので、ここまでは一直線だった。
問題はここからだ。
パキケファロサウルスの目撃情報があるが、すぐに出会えるとは限らない。冒険者は時として、無駄な道を何時間も歩くことさえあると言う。
「――遠くに見つけたよ」
だが、そんな悩みをアスが簡単に解決した。
アスが遠い場所にまで風を使って、歩くことなくパキケファロサウルスを見つけたので、アーザ第一部隊は真っすぐその場所へと向かう。
だが、そんな中、迷宮内に響くような大きな声でブラミアは言った。
「そう言えば、パキケファロサウルスは“はぐれ”じゃなくなったらしいな?」
「迷宮の調査も最近はとまっているらしいでござる」
アマレロが頷いた。
これは最近の迷宮調査で判明したようだった。
これまでは中層に出現するモンスターと言えば、蛇人にラプトル、たまに浅層から紛れ込んだ火人だけだった。それ以外のモンスターは基本的には“はぐれ”だと認定されていたが、どうやら最近になって恒常的にパキケファロサウルスが出現しているとの情報が相次いでいるのだ。その結果を受けた冒険者組合が、正式にパキケファロサウルスをはぐれの認定から外したのである。
その結果を受けて、学者たちはソールのより深い場所で“何か異変”が起こったのではないか、との見解を示したが、他のクランは何も言わなかった。どうやら最近深層まで行けたパーティーはないらしい。どのクランも遷移領域の環境が厳しくなり、冒険に手こずっているようだ。
「そんな無駄口を叩いていいのか? 石頭に見つかって先制を取られるぞ。少し緊張感が足りないのではないか?」
ナザレは無駄口を叩く二人を注意するが、二人とも意外そうな顔をしていた。
「そうか? この前の冒険なんて、ナダが大声を出して敵に気づかせてわざと先制を譲っていたぜ。あれにはオレも驚いたが、今後もっと先に行くつもりならいい訓練だな、と思ったんだ。もちろんカルヴァオンだけ狙うのなら、決していい選択だとは言えないがな」
特にブラミアはこの前の冒険を思い出していた。
ナダのめちゃくちゃな行動である。どう考えても、まともな冒険者のすることではなかった。
「……ナダ、またお前か……!」
ナザレの怒りの矛先がナダへと向くが、当の本人は明後日の方向を見ながら涼しい顔をしていた。特に気にもしていないようだ。
「結果的にあの冒険はその方が早く石頭を倒せたんだ。一応、倒し方も説明しようか?」
「ちっ、私の時は出来るだけ控えてくれ――」
苛つきながらナザレはそれ以上何も言わなかった。
言っても無駄だと分かったのだ。
何度か冒険を通してナザレが分かった事だが、ナダは“異常”に腕が立つ。その強さにはアビリティや経験などの後付けはなく、ただ戦う後に仲間が気づく“類”の強さなのだ。
事前の報告でパキケファロサウルスと戦うことは聞いていたが、石頭と戦う時に安全策を取らなかった、またそれをコルヴォが許した、とのことについてはナザレは報告を受けていなかった。
だからパキケファロサウルスの倒し方を初めて聞いた。さらにアマレロは「それも三体も同時に戦ったでござるよ」と付随して、かか、と笑いながら言う。
「……初めて戦うモンスターにわざと気づかせるなんて、そんな冒険が本当にありえるの?」
そんな冒険を知って驚いているのが、アスだった。
まともとは思えないような作戦の冒険だったからである。
冒険とは基本的に“安全”を第一に考える。
それを手放して命を賭けて“冒険”をするなど、冒険者としてあるまじき行為だった。
さらにそれも初めてのモンスター相手にするなんて言語道断だ。もしもそんなことをして仲間に怪我があった場合はどうするのだろうか、いやそもそもそれを切っ掛けに仲間が死ぬ可能性すらあるのだ。
「規律を乱す奴め……!」
ナザレもそれを知っているからこそ、ナダへと悪態づいた。
冒険者として褒められた行動ではないから注意したいが、その時の冒険のパーティーリーダーはナザレではない。クランリーダーであるコルヴォも問題視していないからこそ、今回の冒険のことしか注意できないのだ。
険悪な空気がアーザ第一部隊の間に流れる。
「まあ、基本的に冒険中の無駄口はよくないでござるからな。拙者も気を付けるでござるよ」
そんな中、アマレロが苦笑いしながら素直に謝った。
明らかに自分の行動がよくないことであるのは理解していたからだ。てっきりアーザ第一部隊はコルヴォがクランリーダーだったため、破天荒なパーティーだと思っていたアマレロだが、どうやらそうでもないのだと気づいたみたいだ。
「オレも悪かった。で、ナザレ。このパーティーはどう石頭と戦うんだ?」
アマレロに習って、同じく無駄口を叩いていたブラミアも謝罪した。そして切り替えて遠くにいるモンスターとどう戦うのか、パーティーリーダーに聞いた。
「姿が見つかったら攻撃を誘って壁にぶつけるのが定石だが、見つかる前に殺せるならそれがいい。アスによる最速の一撃だ。それで倒せなかったら、お前たちの出番だ」
ナザレはアスに目配せしてから言う。
そんなリーダーの意見にブラミアとコルヴォはお互いの顔を見合わせるが何も言わず、無言で頷いた。
「で、あとどれぐらいで石頭と会うんだ?」
まだパキケファロサウルスを見つけていないナダは、素直に位置をアスに聞いた。
「あともう少しここから歩いた場所にいるよ。何度か曲がるから、鳴いたとしてもまだ聞こえない距離だろうね」
「なるほど――」
「じゃあ、オレが先行するよ――」
またアーザ第一部隊は歩き始めた。
隊列を大きく変えて、アスが先頭に立ち、その後ろに他の仲間が続く。ナザレの指示通りに、少しだけアスと距離を開ける。他の仲間がいるよりも、アス一人の方が都合がいいとナザレは言うのだ。
「アスは『凪』という技が使えるようになったようだ。それはアビリティからの派生だ――」
アスは風のギフトを持っているとことにより、アビリティにも影響が出ているのだという。それは“風”へのより深い理解だ。アスは熟練の風のギフト使いに比べればまだまだな部分もあるが、肌で感じるその才覚はどの風のギフトも認めるものだと言う。
だから、風使いの中で、初めての技を編み出した。
それが、凪だ。自身の周りの風を消すことにより、全ての音を断ち、通常よりも隠密行動を可能にするようだ。仲間も含めた広範囲にまで音を消すほどまでまだアスは成長していない為、単独行動をナザレが推奨したようだ。
なお、この技は入院中にギフトやアビリティの叡智に地道に触れて、開発したのだという。
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