第四十六話 復帰Ⅱ
急にフリーになったブラミアとアマレロはナダの近くに駆け寄り、二人を見踏みするように口を開いた。
「あれがアーザのエースとリーダーか? 特にエースは若い気がするが……」
「まだまだ発展途上でござるな――」
ブラミアとアマレロの評価としては、二人に対して厳しかった。特にナダへと意見を求めるように視線を送った。
「アスは双色だ。才能だけならピカ一だろうよ――」
ナダはアスの評価を告げる。それ以上、アスについていうことはあまりなかったのだ。
――双色。それは冒険者の中でも、アビリティとギフトの二つを持つ特別な存在だ。ラルヴァ学園でも殆どおらず、多くの双色が天才だと言われている。
何故なら本来なら二人でそれぞれアビリティ使いとギフト使いとしてこなすべき役割を、彼らは一人で行うことが出来るのだ。
パーティーの人数が一人少なくて済む、あるいはもう一人誰かを増やせる、それだけでパーティーとしては大助かりだった。
「双色とは珍しいじゃねえか。学園でも一握りだろう? まあ、その全てが芽が出るわけじゃねえが……」
ブラミアはアスを見定めるように眺める。
学園にも多少はいた双色であるが、その全てが物になったわけではない。もちろん卒業した後も活躍している生徒もいるが、迷宮探索という過酷な仕事に嫌気を差して辞めた者もいる。
それほど、冒険者とは過酷な職業なのだ。
そもそもまともな人間ではモンスターを殺すことを忌避し、辞めて行く者も多いのだ。
「まあ、アビリティが微妙でも、ギフト使いとして生きる道もござるから、やっぱり双色は優秀でござるよ」
アマレロは過去に出会った冒険者を振り返っているようだった。
アビリティ使いは、千差万別だ。便利な物もあれば、全く使えないようなアビリティもある。そんな中でギフト使いは一定水準を保って迷宮で戦えるので、多くの双色はギフト使いとしてアビリティを捨てることも多いという。
「そんな中でアスは風のギフトと風のアビリティだぜ。二つを組み合わせていつも戦っている。どうやらギフトで大きな風を起こして、そのサポートをアビリティによって行うようだ――」
「それは凄いじゃねえか。将来が楽しみだぜ」
ナダの評価に、ブラミアは少し驚いたように頷いた。
見たことのない双色の組み合わせだったのだ。
ブラミアが見たことのある双色はこれまでで三人である。一人は学園で最強の一角だったイリス。そして同学年にいたアビリティが筋力増強系だったが弱かったので水のギフト使いとして生きあまりぱっとしなかった者と、もう一人は武器に纏い攻撃力を上げるアビリティと光のギフトに目覚めて将来有望だったが二年生に上がった頃に片腕を食われた恐怖から冒険者を辞めた者だ。
そんなブラミアの知っている双色と言えば、一人としてアビリティとギフトを組み合わせることはなかった。それぞれ別個の力として使い、一人で二役をこなすのである。
アスはそれが組み合わさって、より一人の強力な冒険者なのだから、やはり稀であった。
そんなアスが、新しいクランメンバーであるブラミアとアマレロの元までやってきた。
堂々とした歩き方だっただった。
己がクランのエースだと自惚れているような。
「君たちがブラミアとアマレロだね?」
「そうだな」
「そうでござる」
アスの問いに、二人は頷く。
「これからよろしく頼むよ――」
「おう!」
「うむ!」
アスの差し出した手に、二人は順番に握った。新参者である二人にとっては当然の挨拶だった。
そして、アスはそんな二人の隣にいるナダを意識するように見る。
「ナダ、オレは帰ってきたよ――」
「無事に帰ってこれたみたいでよかったじゃねえか――」
ナダは後輩を見るように温かい目で言う。アスを見る目に敵愾心は一切なく、むしろ病み上がりであるアスを心配しているようだった。
「そうかい? ナダにとってはオレが帰ってこない方がよかったんじゃないか? そうすればナダがこの第一部隊のエースで、その地位が守れるんだよ?」
「別に、エースなんてどうだっていいさ――」
ナダは興味なさげに言った。
「本当かい? なら帰ってきたオレが、またアーザのエースとして立つ。ナダ、ここまで第一部隊の一員として、アーザの地位を守ってくれてありがとう。これからはオレが再度、その重たい役目を背負うことになるけど、本当にいいんだね?」
アスは強い闘志を燃やしていた。
一度ティラノサウルスに負けてから、怪我の治療の為に入院した病室でアスはずっと自分の事を振り返っていたのだ。
そして、より強さへの執念が露わになった。
「……いいぜ。別に――」
そんなアスへ、やはりナダは何も言わなかった。むしろ少しだけ――嗤っていた。
「分かった! 皆、病み上がりのリハビリもかねて、早速明日に第一部隊は迷宮に潜ろうと思う。最初は中層に潜って石頭から倒してから、体を慣らそうと思う! それから何日かしてから、“遷移領域”への挑戦をしたいと思っている!」
アスはこの部屋にいる全員に向けて大きな声で宣言した。
“遷移領域”とは、ソールにだけ存在する特徴だった。ソールは深層から大きく環境が変わる。あらゆるモンスターの種類が格段と多くなり、出会う数も増えると言う。それに比べて中層は出現するモンスターの種類も限られており、数種類だけだ。あとは深層から紛れ込んだ“はぐれ”だとされている。
そんな中、遷移領域はそんな中層と深層が混じった状況だと言う。土台は中層でありながら、深層のモンスターが多数出現するのである。深層に近いだけあって、紛れ込むモンスターが増えているのだ。
だが、深層程そんなモンスターの量は多くない。だから深層への慣らしとして、遷移領域は重要だった。遷移領域も満足に突破できない冒険者は、深層に挑戦する音すら叶わない。
いや、挑戦することはできるが、その結果が残念なものとして終わるだけだ。運が悪ければ、簡単に死に至るだろう。
「……アス、本当に遷移領域に行くつもりか?」
クランリーダーであるコルヴォは、アスの宣言に目つきを厳しくした。
アーザにおいて、未だに遷移領域への挑戦は果たしていない。そもそもソールは中層でさえ厳しい環境なのだ。ポディエなどと比べると過酷な環境、出現するモンスターに龍種が多く、他の迷宮と比べるとモンスターが固い、などだ。もしもポディエと比べるなら、ソールの中層がポディエにおいての深層とほぼ同じ程度の難易度だと言えるだろう。だからポディエの深層にコンスタントに潜っていたコルヴォであっても、未だにソールの中層までしか挑戦できていないのだ。
それ以上先は、冒険者の中でもポディエなどの深層を難なく突破できるレベルの冒険者、例えば――英雄かそれに準ずる力のある者しかまだ挑めていなかった。
その一人がアルシャインのフォカオンであり、ミラにいる冒険者の中では最強とされており、英雄に最も近い冒険者の一人だと言われている。
「ああ、行く! どっちにしろ、深層に到着しないと、アーザは他のクランに負けたままなんだ! いつまで先延ばしにしたって、きっとその決心はつきない! オレ達は数年前のを知っているから! でも、それでも、オレは挑戦したい! それが、アーザの進む道なんだ!」
アスは熱を帯びた声で言った。
「おお!」
「それでこそアスだ!」
「俺たちのアスだ!」
他のクランメンバーもアスの熱に突き動かされるように、声高に同調する。
何故ならアーザに集まった冒険者は、その為に、今のクランに所属しているのだ。他のクランのように既に実力者として降臨している冒険者のおこぼれに預かるのではなく、クランメンバーの一人として協力して夢に挑戦する。そうでなければ、他のクランに所属した方が実入りも、実績もいいのは確かなのだ。だが、彼らはコルヴォの誘いに頷き、アスの才能に乗った。
それが、アーザと言うクランの“歪な形”であった。
「ナダ、中層を突破し、変異領域を超えるぞ――」
「……まあ、いいけど」
熱いアスの言葉に、ナダは何の感慨もなく頷いた。
いつも感想ありがとうございます。
ちなみにマゴスもソールと同じく、ポディエの深層とマゴスの中層が同じぐらいの難易度で、湖はそれ以上の難易度となっております。
※第二巻発売中です。




