第四十三話 新メンバーⅥ
事前に他の第三部隊や第二部隊の調べで、居場所はこの辺りだと分かっていたので向かったのだが、簡単に巡り合えたことに感謝するようにナダは嗤った。
実際に情報を得られても、モンスターは既にその場にいないことはよくある。
“はぐれ”なら尚更だ。彼らは深層という特定の出現位置から外れたため、“はぐれ”と呼ばれた存在だ。事前に調査した場所にいるとは限らない。より浅い位置にまで移動することもあれば、より深くに戻ることもある。そんな不安定なモンスターだ。
「アーザって、最弱のクランなんだろう? それにしては、いい仲間が揃っているじゃねえか!」
きっと情報を仕入れた仲間達が、最速で戻ってきたのだろう、とブラミアは予想し、純粋に仲間達を褒めていた。
「流石はコルヴォ殿でござる。人望があるでござるな――」
アマレロも同じような意見だった。
「オレを褒めるのもいいが、どう戦うかは三人に任せるぞ。今回はアマレロの試金石で、ナダとブラミアの再評価だ。オレがあまり手を出して、他の仲間達から反感を買っても困るだろう?」
遠くに石頭がいる状態でナダ達は隠れるように集まっていた。いつ戦いを仕掛けるかを考えているのだ。
現在のアーザ第一部隊に作戦を決める“リーダー”はいない。
だからコルヴォは――三人に任せた。
「ナダ、どうする?」
リーダーとして経験のないブラミアは、ナダに意見を聞いた。
「――このまま何も考えずに突っ込もうぜ。所詮は、石頭だろう? 深層から逃げ出した負け犬だ。あれに負けるぐらいだったら、この先の俺たちに未来は無いと思うけどな」
「中々にナダ殿は無鉄砲でござるが、確かに拙者たちならその無茶なぐらいがちょうどいいかも知れんなあ」
一切表情を変えなかったナダに、アマレロが面白そうに同意した。
きっと今の最効率を求める冒険ではなく、先のハプニングを見越したナダの冒険を気に入ったのだ。
「相変わらず、突っ込むしか能がない奴だな――」
ブラミアも、ナダに苦笑いしながら頷いた。
懐かしく思っているのだろう。
ナダはいつも勝手に突っ込み、己の実力だけで何とかする。かつての龍の体内の冒険でもそうだ。事前に情報収集をし、下準備を欠かさず、まるで落ちが決まったゲームの様に詰める冒険が主流な現代に於いて、悪く言えば行き当たりばったりのナダの冒険は、道理に合っていない。
(だが、だからこそ――面白い)
だが、それがナダの魅力なのだともブラミアは思うのだ。
「おいおい、マジかよ……」
出たとこ勝負のナダの意見に全員が乗ろうとしていることに、ガスパロは動揺を隠しきれなかった。
どんな攻撃をすればいいか、全く分からないのだ。
「――決まりだな。おい! 石頭! 俺はここにいるぞ」
勝手に作戦を決めたナダは、それからの行動も自由極まりないものだった。
岩陰から勝手に身を現して、斬りかかることもせずに剣を右手で肩に担ぐように持ち、左手で挑発するようにパキケファロサウルスへと手招きしている。
まるで――攻撃を誘っているように。
「本当に何も考えていないか、実は考えているのかのどっちなんだよ――」
「ナダ殿は相変わらずでござるなあ――」
ブラミアとアマレロはそんなナダに呆れながら、すぐにナダから離れて隠れてパキケファロサウルスへと近づいて行く。
“二体”のパキケファロサウルスはナダへと狙いを定めて、足をいつでも駆けだそうと何度も地面を蹴る仕草を始めた。
「おいおい、マジかよ――」
そんなナダの行動におろおろとうろたえているガスパロは、ナダの近くから動けずにいた。
あまりの突発的であり、作戦も何もないように見えるナダの行動へ、自分がどう対処すべきか分かっていないのだ。
「ガスパロ、すぐにこの戦場から離れるぞ――」
コルヴォはすぐにパキケファロサウルスが迫って来るであろうナダの元から逃げようとしていた。特にコルヴォの傍にはギフト使いであるマルチーザがいる。彼女は生身でモンスターと戦えるような冒険者ではない為、すぐにナダから距離を取ってパキケファロサウルスの歯牙から逃れるのだ。
「わ、分かった――」
ガスパロはコルヴォに言われるがまま、ブラミアとアマレロとは逆方向へ走り出してよりパキケファロサウルスから大きく離れる。
その場から何とか自分の仕事を果たそうと、銃をパキケファロサウルスへと構えるのだ。
そんな時にパキケファロサウルスは唸り声を上げてから、ナダへと真っすぐ突っ込んだ。
ナダは剣を前に構えたまま待った。
「早いな――」
パキケファロサウルスの足は、明らかにナダよりも早い。アーザ第一部隊の中で最も身軽なアマレロよりも早い。人なら絶対に追いつけないスピードだ。
一手間違えれば、パキケファロサウルスの“石頭”が、体に当たる。重症なのは間違いない。鎧を着ていたとしても、体の骨が折れ、内臓が損傷する一撃になるだろう。
だが、ナダは焦らなかった。
パキケファロサウルスとの距離を精密に図り、ぎりぎりまで引きつけた。そして一体のパキケファロサウルスの上へと地面を蹴り、固い石頭を左手でつき、そのまま飛び越えた。
パキケファロサウルスはナダしか見ておらず、その背後にある壁までは視認できていなかった。
だから――二体のパキケファロサウルスは、壁へと勢いよく激突した。岩の壁を破壊し、動きが止まる。あまりの衝撃にモンスターの脳が耐えきれなかったのだ。
「今だっ!」
ブラミアは叫んだ。片方のパキケファロサウルスへ大剣を振り下ろすのだ。
「教科書通りの戦い方でござるなあ」
アマレロはナダの行動に感心したように頷きながら、もう一体のパキケファロサウルスへと刃を煌めかせた。
二体のパキケファロサウルスは、無防備になった途端にすぐに狩られる事となる。アーザ第一部隊に被害はなく、現代の冒険者らしく電光石火の冒険だった。
「おいおい、俺の分も残しとけよ――」
剣を使う暇さえ与えられなかったナダは不満な声を出しながらも、仲間の見事な連携を褒め称えるように嗤っていた。すでに首がないパキケファロサウルスへと近づいて、ブラミア、アマレロのそれぞれと拳をぶつけ合う。作戦も告げずに行った行動に合わせてくれた仲間へ、ナダは酷く感謝していた。
「……こいつら、なんなんだよ――」
ガスパロはそんな三人を見ながら、構えていた銃を下ろすように手放した。出番はなかったのもそうだが、これまで強敵だと思っていたパキケファロサウルスを、たったの三人で、さらに事前情報があるとはいえ初見で戦うはずなのに全く苦戦しなかった姿に三人を畏れたのだ。
それは、自分よりより才能のあるアスの戦いを見ても、全く生まれなかった感情だった。
ブラミアも、アマレロも、アビリティのランクで言えば、それほど高いとは言えない。より強いアビリティなどごまんとある。それなのに明らかに二人は自分よりも強かった。アビリティを持っていないとされるナダも自分よりも強かった。
三人よりも年上であるガスパロは、三人を超える自分の姿が想像できなかった。
ガスパロのアビリティである『魔弾』は龍種には牽制にしかならず、致命傷を与えることは出来ない。
だからと言って、ガスパロの剣技では、マルチーザのアビリティによる付与があったとしてもパキケファロサウルスを切れると言う想像が、彼自身が出来なかった。
「――オレって、弱いのか?」
そんな焦燥感のある言葉を呟いたガスパロ。
彼は――心が折れてしまった。
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