第四十一話 新メンバーⅣ
「私はね、ギフト使いの中ではそれほど優秀じゃなかったの――」
分厚い雲に隠れているのか、一つも星がない夜空。いつもよりか暗い夜道を二人は歩く。
だからナダには俯いて歩くマルチーザの顔が見えなかった。
「――よく言うでしょ? ギフト使いは迷宮に潜ってから、どれぐらいの日数で目覚めたかによって、その才能が決まるって。同期には二週間や数日の人もいたのに、私は二ケ月もかかった。ギフト使いとしては遅咲きだね」
「そうかもな――」
ナダがよく知っているギフト使い達は、初日から数日で目覚めたギフト使いが多い。彼らの才能はどれも輝いており、学園時代は成績上位者が多かった。
『マゴス』での冒険で“英雄”になったニレナも、一週間ほどでギフト使いに成ったと言う。だからか、彼女の氷のギフトの才能は学園でも随一だった。
「それから必死に頑張って今ではこうして第一部隊のギフト使いとして成れているけど、力が足りないのは他の人に言われなくても私が一番分かっているんだ。扱えるギフトの数も三つと少ないし、私より強力なギフト使いなんて沢山いる。アルシャインにいる年下のアメイシャなんて、本当に羨ましいよ。もうアルシャインで活躍している――」
どうやらアーザの冒険者の耳にも、アルシャインに所属しているアメイシャの勇名はよく聞こえてくるようだ。
学園を卒業してすぐにこの街に来たアメイシャは、イリスの勧めもあってすぐにアルシャインに入り、入って十数日で活躍し始めたそうだ。今でも新進気鋭の冒険者の一人としての名が有名だ。
「そう言えば、アメイシャは潜って三日だったか――」
「知っているの?」
「ああ、学園で同期だったからな」
当時のナダの学年で最も早く頭角を現したのがアメイシャである。誰よりも早いギフトの目覚め、類稀なる火のギフトの破壊力、多彩なギフトの数、どれも他のギフト使いとは一線を画していた。
その力は結局、卒業するまで続いたという。
「凄いよね。憧れちゃう――」
「そうか? 目覚めた日数だけで決まるのは通説だろう? 冒険者はそれだけじゃ決まらねえよ――」
「……そう言ってくれると嬉しいよ」
嘘がないナダの真摯な言葉に、マルチーザは顔をあげてはっとし、曖昧に笑った。
「まあ、冒険者を続けるなら、嫌でも“上”に行けるんじゃねえか? そう悲観しててもマルチーザは冒険者を続けるんだろう?」
「うん、私は辞めない」
小さく頷くマルチーザに、ナダは強い意思を感じる。
◆◆◆
この日も朝からアーザ第一部隊の冒険者達はクランの本拠地にいた。これから後に冒険に向かうためだ。
だが、この日はいつもとは違い、クランの他のメンバーもいた。コルヴォに集められたのである。迷宮に既に潜っている者、あるいは怪我などで離脱している者、もしくはこの町にいないクランメンバーを除いて現在活動しているアーザの冒険者が集まっていた。
「さて、本日も新たな仲間がアーザに入ったから、紹介をしたいと思う。最近はミラで活躍していた冒険者だ!」
コルヴォが大きく声を発すると、奥の部屋から新しい冒険者が現れた。
あまりパライゾ王国では見かけない着流しを着た男だった。艶やかな藍色を黒い帯で止めているのだ。
大胆にはだけた胸元と、片腕を袖に通していないラフな姿。
ぼらぼらの長い髪を後ろで一纏めにし、眠たげな糸目が特徴的な男。
どれもナダには見覚えがあったが、何よりも腰につけている――黒漆の打刀と脇差はよく覚えている。
「いやはや、こんなにも大勢に出迎えられて嬉しいでござるな。拙者がアマレロでござる。この度、コルヴォ殿からスカウトを受けた。これからよろしく頼む――」
ナダにとって、かつて龍の体内でブラミアなどと共に冒険した冒険者の一人であった。
「おいおい! やっぱり来たのか!」
「おおー! ブラミア殿ではないか! まさかこんなところで会うとは奇遇でござるなー!」
「オレは自分からこの町に来て、コルヴォがいるって聞いたからアーザに入ったんだよ!」
ブラミアとアマレロは手をがっしりと握り合った。
どうやら二人も久しぶりに会うらしい。
「他に知り合いは……おや、これはこれは分かりやすい人物がいたでござる。まさか“消息不明”と聞いたナダ殿がここにいたとは――」
そしてアマレロは嬉しそうに笑いながらナダに近づき、お互いの手を強く握りしめた。
久しぶりのアマレロの手は、以前よりも著しくなったようにナダは感じる。
「久しぶりだな――」
「久しぶりでござるなあ。ナダ殿は相変わらず著しいようで、老獪そうな気がするでござる」
「アマレロこそ、体が大きくなったか? 以前よりも強くなったんだろう?」
「それほどでもないでござるよ」
ナダとアマレロはお互いの変化に気づく。どちらも冒険者と成長していると思っているのだ。
身長はあまり変わっていないが筋肉が増えたアマレロはより攻撃的になったとナダは分析する。きっと刀の攻撃力が増したのだろう、とすぐに分かった。また性格もより獰猛になっているとナダは思った。
「さて、知り合いも何人かいるので、そんなアマレロは一旦、第一部隊で預かることにする。そこでオレが直接適性を見極めるよ。以上だ」
「精一杯頑張るので、宜しくでござるよー」
ひらひらと手を振るアマレロは、アーザの冒険者に少しだけ睨まれていた。
その要因の一つをナダは、いきなり第一部隊に抜擢された事だろう、と思った。アーザの中で最も花形のパーティーが第一部隊である。迷宮の最も先に行くことを義務にされ、常に新しい敵や凶悪なはぐれと戦い深層に辿り着くことを目標に定められている。
本来なら、第一部隊の冒険者が一時的に抜けたのなら、第二部隊や第三部隊から“昇格”するのが当然だろうが、コルヴォはそうしなかった。
だから、反感を買っていた。
その感情はぽっと出のアマレロだけではなく、アーザを作ったコルヴォにも向けられている。
ナダはそんな様子を冷ややかな目で眺めていた。
他の部隊の冒険者は次々と出ていき、残ったのは第一部隊のナダ達だけだった。
ナダ、ブラミア、アマレロは顔を互いに見渡す。先ほどの他の冒険者の視線から、自分たちが歓迎されていないことを理解したからだ。
ナダは元より、他の二人も強く理解していた。
「――実力で黙らせればいいさ」
だからこそ、ナダは二人にはっぱをかけるように言った。
いつも自分がそうしてきたように、ナダの口調は軽かった。
「それは手厳しいでござるなあ。まだ拙者は『ソール』にも潜ったことはないでござるよ――」
アマレロは口では拒否をしながらも、楽しそうだった。初めての迷宮、初めての敵、初めての仲間達、本来なら“冒険”をするような状況ではない筈なのに、アマレロは今にでも迷宮に潜りそうな空気を醸し出している。
武人の、空気だ。
腰の物を左手に持ち、いつでも右手で引き抜けるように構えるのだ。
常在戦場、という言葉が似あう男だった。
アマレロは、まるで今も迷宮にいるかのようだった。
いつも感想ありがとうございます!
久しぶりのキャラはアマレロでした。予想が当たった方はおめでとうございます!
もしも忘れている方は是非イラスト付きの2巻をご覧ください。




