第三十八話 新メンバーⅡ
冒険者は常に最速、最善を選び、最も効率を測った冒険によって、より下層を目指し、よりカルヴァオンを稼ぐのだ。二人の行動は酔狂としか思えないが、力試しをした経験がコルヴォに無いわけではなく、最初だからと容認した。
そんなコルヴォの許可を得たブラミアは、剣を抜いていた。
それは背中に担いだ“大剣”だった。
まるで大木をそのまま切り出したような分厚い木の刀身に、鋼の刃がつけられている。木材は丈夫で重たい物を選んでいるのか、鉄の様に黒々としていた。きっと特注品だろう。
そんな剣を両手で持つと支えきれないのか、ブラミアの手では切っ先が地面へと激しい音を立てて落ち、そこから全く上がらない。これまで背負っていた剣を引きずるように持っている。どうやら数十キロある剣を“素”で持つような筋力をブラミアは持っていないようだ。
――だが、問題はなかった。
「『重力からの解放』
ブラミアは、自身のアビリティの名前を唱える。
幾度となく使ったアビリティであり、ナダとコルヴォはそのアビリティを見たことがある。羽毛のように光る羽を生み出し、自身の周りにまき散らした。まるでブラミア自身が羽ばたいたかのように。
そうしてから、羽を武器に纏わせて、体にも羽が付く。光る羽が付いた場所を軽くするのがブラミアのアビリティなので、軽々と大剣を持ち上げた。
まるでその様子は、ナイフを持つに近いだろう。
「以前よりも羽が大きくなったな――」
「どうやらオレが学園で会った時よりも成長しているようだ――」
ナダの感想に、コルヴォも頷いた。
この数年間、二人はブラミアと会っていなかったが、ナダとコルヴォが成長したようにブラミアも大きく成長していた。
「まだこんなもんじゃねえよ――」
そんな二人の言葉が聞こえたブラミアは、二人へと挑発するように言う。
それと同時に、ブラミアは目的の火人に向けて、とんとんと地面を足で叩いてから、軽く地面を蹴った。
早い。
まるで燕が低空飛行するかのように、ブラミアは火人へと近づいた。地を這うような大剣の一振りは簡単に三体の火人を壁にまで吹き飛ばした。
三体の火人は簡単に爆発し、それは三つ重なったので普段よりも大きかった。
そこから大剣の横振りだけで、ブラミアは全ての火人を弾き飛ばし、全ての火人を倒した。
「やっぱり楽だな――」
ブラミアはニカッと嗤う。
実力は十分だ、とナダも嗤った。
◆◆◆
暗い病室の中、白いシーツのかかったベッドの上で、頭や胸などに包帯に包まれたアスは天井を見ながら悔しそうに呟いた。
「ナザレ、本当にごめん――」
「……別にいいさ。それに悪いのはアスではなく、戦う事を決めた私だ――」
ナザレの怪我はそう多くなかった。胸に包帯を巻かれただけだ。だが、その傷が深い。肺に損傷はないが、胸を肋骨まで斬り裂かれている。今も声を出すたびに胸が上下に動くので、苦しそうに呻いていた。
それほどティラノサウルスの足の爪は鋭かった。まるで――アスのように風のギフトを使っていると思うほどに。
「まだまだオレは弱いみたいだ」
アスは、ベッドの上で握った拳を見つめた。
力が、足りない。
アスはそう強く思っていた。
ソールに住むと言われる“暴君”がティラノサウルスだ。正式名称をティラノサウルス・レックスといい、王を意味するレックスという名前を与えられている。深層においてはまさしく、暴君に相応しい活躍を繰り広げている。
他の龍を圧倒し、時には喰らい、どんな龍であっても、ティラノサウルスには近づかないのだ。さらにティラノサウルスは深層には数多く存在し、時には群れで生活することもあるようだ。そんな多くのティラノサウルスの中で最も大きな個体が、ティラノサウルスの中でも最も強い“暴虐の王”として、深層には君臨していると言う。
そんなティラノサウルスであるが、中層には殆ど出現せず、今回の様にアスたちが出会ったのはとても稀なケースであった。
冒険者との戦闘実績も少なく、討伐例も実に二例であり、そのどちらもが小さな個体のティラノサウルスである。研究所によると、子どもの個体の可能性もある、と言われたようなティラノサウルスだ。
だから未だに――成体の討伐例はない、と言われている。
「仕方ないさ。アスはまだ若い。どんどん強くなっているが、“まだ”全盛期じゃない。怪我が治ったらもっと強くなるさ。いや、なってもらわないと困る」
「そう?」
「ああ。お前はアーザの“攻略の要”なんだ。こう言ってはなんだが、アーザは“タレント”と言えるような冒険者が少ない。アスだけが頼りなんだ」
「コルヴォもいるだろう?」
「コルヴォは強いが、冒険者としてはほぼ限界に近い。もう大きな成長は見込めないだろう――」
「……それはフォカオンと比べたらだろう?」
「ああ、そうだ。フォカオンは、アスとコルヴォを足しても足りないような冒険者だ。そもそも奴は――圧倒的に強い。アスは届くかもしれないが、コルヴォは目指したとしても辿り着くことはないだろう」
ナザレの見方では、アーザにおいてまだ若いのにベテランと言えるのがコルヴォであった。
コルヴォの特徴と言えば、広い視野と堅実な政治力である。クラン内を纏める時に事務や人事において力を発揮し、単体の冒険者としての実力は並みよりは上ではあるが、例えばアルシャインのフォカオンと比べると随分と劣っている。
もしも成長があるとすれば交渉力や指揮力だろうが、どうやらコルヴォ自身にそのつもりはなく、第一部隊のリーダーもナザレに譲り、クランの創設者の一人でありクランリーダーでもあるが、その権利を殆ど行使せずに一介の冒険者としての立場を好んでいる。
(きっとプライドだろうな。学園では強い冒険者だったが、一歩学園の外に出れば、コルヴォ“程度”の冒険者など数多くいる。きっと奴はまだ、冒険者として第一線に立つことを諦めながらも、どこかでその気持ちを捨てられていない)
自嘲気味にナザレは嗤った。
それには自分への嘲笑も含まれている。きっと自分もコルヴォと同じ穴の狢なのだ。トップを目指しながらも、自分の実力では無理だと諦めている。
そして――アス、という稀有な希望に縋っている。共鳴するギフトとアビリティを持つ唯一の冒険者に。
「じゃあ――ナダは、ナダはどうなんだ? コルヴォが新しくクランに入れたあいつは、タレントじゃあないのか? あいつはオレが簡単にやられてしまったティラノサウルスに一矢報いた。倒せはしてないけど、追い払った」
「……どうなんだろうな? 私としては“偶々”剣が見事に当たった、かもしれないように思えるが、コルヴォの見定めた通りに実力があるのかも知れない。それはきっと、時が教えてくれる。アス、今はナダがエースを務めるみたいだから、早くあいつから取り戻せるように一刻も早く回復するぞ」
「分かってるよ! 体がなまっても、すぐに取り戻してもっと強くなるさ! それが、オレのアーザでの存在意義だから!」
アスは屈託のない笑みで言った。
(そもそもナダの目的はなんだ? あいつはコルヴォと何を企んでいる?)
ナザレは、ナダが不思議だった。
ナダは、アーザに急に入った風来坊だった。コルヴォとは学園時代の知り合いのようだが、今の今までどこで活動していたのかはあまり明らかになっていない。学園卒業者に聞いても、数年前に話題になってから人知れず消えていたと言う話だったようだ。
どうして急にクラーテルに来たのか、『ソール』へ挑戦する目的は何なのか、そこそこの強さでアーザに固執する理由は何なのか、人から聞いた噂ではアルシャインにも誘われたと言う。それもアルシャインのお姫様と言われているイリスに、だ。それなりの地位は約束されている筈なのに、アーザに残った。
ナザレには、そんなナダの真意が未だに掴めていない。
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