第七章
静江は恵子が小学校へ上がった頃から、あまり彼女を構わなくなった。小学校が忙しくて、疎遠になったというだけではなかっただろうと恵子は言う。
ある時、静江は抱いていた恵子を膝からおろして、下へ行きなさいと怒った。突然だったので、恵子はびっくりした。ばあちゃんは私のことが嫌いになってしまったのだろうか。恵子は悲しかった。今なら彼女にも判るが、静江からすれば生意気盛りの恵子を持て余したのだろう。
その翌年の秋、静江が風邪を引いた。恵子が遊びに行くと、蒲団を敷いて寝ているので、それを帰ってきた母に言ったら、具合が悪いようだから静かにしていなさいと釘を刺された。
翌日学校から帰ってから心配になって覗くと静江はいなかった。母は入院したのよと言う。じゃあお見舞いに行くと話し合っていたら、その翌日静江は帰ってきた。
部屋に静かに寝かされている。娘が二人駈けつけ、アパートの住人とともに蒲団を囲んで坐り、ハンケチで涙を拭いている。静江はたった一日の入院で死んでしまったのである。肺炎であった。つい数日前まで元気だったせいもあって、一同みな茫然自失状態であった。
恵子が部屋に入ると、
「ばあちゃんは亡くなったんだよ。お別れをしなさい」と言われた。
静江の死に顔は眠るようにやさしく、ほんのりと頬を赤く染めていた。
恵子にはそのときどういうことか判ったのだろうか。「いやだ!」と叫んで外へ飛び出して行ってしまった。そしてアパートの境のところにずっとしゃがんでいた。じっとしていると涙がにじんできた。悔しいから、思い切りぎゅっと眼をつぶり、恵子は地面を叩いた。
その時も葬儀の時も、泰蔵の姿はなかった。密葬だったが、泰蔵の姿を見ることはなかった。
静江はその後小平の親族の墓に入ったという。




