卒業試合 その6~ラークVs百龍~
準々決勝は、ライン以外は七聖同士との対決となった。
百龍とラーク、ホリーとマジル、エンシルと武蔵。ラインはセド国立魔剣高等学校のクリス・ジョンソンと対決することになった。
「え!凄い上手いんですけど。カルイさんが作ったんですよね?」
母さんが作ってくれた昼食を食べ、観客席へ戻ると、カルイさんからサンドイッチを1つ頂いた。
パンの匂いやラナさん達のお財布事情を察すると、3枚入りで銅貨2枚の激安パン。あのパンは厚みはあるが、パサパサで硬かった記憶がある。なのに、少し高めのパンと同じ柔らかく、微かなパサつきしか感じない。何より、パンに挟んであるのがレタスとハム1枚ずつと、謎の調味料だが、この調味料が旨さを引き出している。
―何かを混ぜているのか。単品でこんな美味しい調味料なら、必ず噂が広がるはずだし―
「これより本大会第25回戦目。準々決勝を開始する!!まず東側、ユーベリア大陸ユベル都心騎士団アカデミー所属、武 百龍!!」
「「ワァー!!!」」
―凄い声量だな。百龍のやつ、この大会通してファン増えたんじゃないか―
「そして西側、マランシル大陸ケンジ国立魔剣高等学校所属、ラーク・ケンジ!!」
「「ワァー!!!」」
―ラークも凄いな。初戦はあんなに引かれてたのに。やっぱり最初の七聖同士の戦いだから皆期待してるんだろうか―
「凄い熱量でござるな…」
「それほどこの世界の人間達にとって七聖という存在は大きいんだろ」
百龍とラークは睨み合う。プライベートで友であっても、戦いの場となれば敵となる。特にラークは、百龍にリベンジすると宣言しただけにいつになく真剣だった。
「……感じる」
「ラナさんも感じますか」
ラークからおよそ100m程離れているのに、ラークの魔力を感じる。
通常なら魔力が漏れ出ることはない。漏れ出るということは、体を負傷し、血管から魔法原子が漏れているか、体の魔力容量を超え、魔力がオーバーフローを起こすのか2パターンだ。今、ラークは後者のオーバーフローを起こしている。
「興奮し過ぎだ。(魔法)原子が勿体ないぞ」
「うるせぇよ。今、俺は魔力をコントロールできるほど冷静じゃねんだ。」
百龍の体が、ラークの魔力に反応し震えている。自身の本気を、模擬練習でさえ扱うことの出来なかった技を使用しても良い相手が目の前にいることに無意識に興奮しているのだ。
ラークもまた、表面上は百龍への怒りを露にしながらも内心、興奮しているのだ。百龍を倒すために用意した技の数々、それに耐えゆる魔力原子を獲得し、魔力容量を増やすために今まで以上に努力した結果が、今日分かるのだ。
「レディー……ファイト!!!」
「デュラエル!!」
「満月廻し」
火・風・岩・光の混合魔法をラークが放つ。直線状に向かってくる魔法に対し、百龍は偃月刀に水魔法と夜魔法を付与し。円形に廻す。一時的には流せていたが、風魔法により、百龍の体が押される。
「陸破斬!!」
「空気魔法オービットシフト!」
百龍は急に満月廻しをやめる。攻撃が百龍に直撃しながらも、百龍は偃月刀の端を持ち、ゆっくりと上げる。そして、土魔法の上位である大地魔法を纏わせながら、勢いよく振り下ろす。
偃月刀から放たれた衝撃波は、デュラエルを突き破りながら真っ直ぐラークへと向かってくる。ラークは空気を固める。衝撃波は空気に触れ、ゆっくりと空気の斜面に従い攻撃がそれていく。
「偃月刀・十連突き」
衝撃波がラークの視界から消えた習慣、偃月刀の刃先がラークを襲う。
カン!という金属と金属がぶつかる音が重複して会場に響き渡る。額から血を流した百龍が笑みを浮かべる。
「ニヤニヤしてんじゃねえよ。気持ち悪い」
「ラークこそ」
体10箇所から少しばかり出血しながらもラークは笑みを浮かべていた。
「い、今の金属音がぶつかる音はどこからでござるか!!」
「…ラークの体内からです。あいつは風魔法を放ち終えた後、すぐに金属粒子を全身に展開させて防いだんです」
過去、ラークはこの十連突きに敗れた。魔法使いの弱点である発動の遅さにより、膝をついたのだ。
そしてリベンジを誓ったラークは今、その技を防いだのだ。
「展開しろ!!」
突如、地面からは小石、上空からは空気弾が複数箇所から、百龍に向けて放たれる。
デュラエルを放っている間、下手に百龍に近づかない選択肢を取ったラークは、周囲に仕込んでいたのだ。百龍が技を放った後に集中攻撃できるように。
百龍はステップや偃月刀を用いて防御するも、全方位からの攻めには耐えきれず被弾している。
「弾かれた技が全てラークの元へ集まっている…」
「このままじゃ百龍君の負けになるわね」
「……ライン。何故、ラークは剣を使わないんだ?初戦と2試合目は使っていたのに、今は持ってさえいない。魔剣高等学校の生徒なんだろう?」
「……あいつは剣よりも魔法が得意ですからね。あいつが魔剣士となったのは、いとこのマジルの方が、七聖賢者としての才能があっただけの話です。七聖の魔剣士と賢者が兄弟だったが故に、選択肢があっただけにあいつは心の奥で苦しんでいたんです」
百龍に敗れ、魔法も剣術も中途半端と判断したラークは、ケンジ家の意見を押し通し魔術だけを磨いた。一般人相手には魔剣士として半端な自分でも通用するが、百龍やその他七聖相手には通用しない。ならば1つの分野を極めるしかない。
―あいつは、自分だけの道を歩もうとしている―
「倒れろ!!百龍!!!」
―伝わる。あいつの全力が、あいつが何を想い、どんなことを経験してこの技を生み出したか。どんなに動いても正確に相手へ攻撃する追従性と精密性、弾かれた技を吸収し、可能な限り技を継続させる持続性。そして何より、これほどの技を放てる状況を作り、展開までに至った計画性や魔力。昔のラークではない―
「究極魔法・スターライトセブン!!!」
トドメと言わんばかりに、空から巨大な星を模った魔法が7個振ってくる。この技を受ければ、いくら百龍でも負ける。
「……まだだ」
―ラインと戦うまでは……まだ―
魔法が目の前まで迫り、敗北を目の前に百龍は何を想うか。
かつてはリーダーのように立ち振る舞い、自身の憧れだったラインのことだった。卒業試合という限定的な場所で、人生で初めての大舞台では、あの諦め、常に全力を隠して戦うライン・ユベルも本気を出して戦うだろう。本気と本気でぶつかりあえば、相手が何を想い鍛錬を積んできたのかが分かるため、ラインが変わってしまった原因が少しでも分かるのではないか。そんなことを考えていた。そう、そんな事。関係ない人間が聞けばそう言うだろう。
しかし、七聖子孫という特別な関係性であり、百龍にとっては、幼少期から今に至るまで心を許せる同性の友だった存在であった。そんな彼が変わってしまい、何も手を差し伸べることの出来なかった自分に苛立ちを覚えて数年、その原因が分かる可能性が目の前まで来たというのに。
「負ける訳ねぇだろ!!」
百龍の咆哮は爆発音と砂埃により消えた。
砂埃が会場中に響く。審判は砂埃が消え、百龍の戦闘不能を確認してから決着宣言をしようと必死に砂埃を風魔法で飛ばしていると、ドゴン!!という衝撃音が響いた。
「……ふっ。アイツやったな」
砂埃が徐々に薄れていくと、倒れているラークのそばに膝をついている百龍の姿があった。
ラインは確かに見ていた。細い偃月刀が、百龍の気持ちに応えた。魔法を流し、砂埃に紛れて上空からラークを叩き潰すように攻撃した。
頭に攻撃があたると、すぐに攻撃をずらした。ドゴンという衝撃音は、ずらした攻撃が地面に当たった音だろう。
「勝負あり!勝者・ユベル都心騎士団アカデミー、武 百龍!!!」
次回投稿予定
2025年9月21日 20時00頃




