卒業試合 その2~幕開けと実力差~
「10時00だな。よし!旗を上げろ!」
騎士団が時間を確認し、柱の下に待機している人間に無線機で命令を下す。
アリーナを囲むように各大陸の都心国旗が上げられる。
「お、旗が上がったぞ」
「もうそろそろ始まるってことね!」
アリーナの観客席は満席どころか、通路さえも観客が立っている。
いつもは賑わっている東区は門を閉め、商店街や公共施設は休業し、せめて熱気だけでもと皆アリーナの周りに集まっている。
「皆様。これより、第3110回卒業試合を開始いたします」
アナウンスの声がアリーナ内と、外に取り付けられたスピーカーから発せられる。
その瞬間、凄まじい歓声がユベル国内に響き渡る。試合前だというのに観客達は既に興奮している。
「選手32名が入場します。形泉町立祈祷高等学校から2名、武蔵ノ市立刀術専門学校から3名。以上。和陽大陸から5名の出場です」
和陽大陸。七聖武士の子孫である武蔵が出場しており、刀という剣より軽く細い武器、そして祈祷という魔法に似た学問を世界で唯一学べる場所だ。刀術はスピードとその脅威的な集中力により、見えない斬撃を放つことで有名で、祈禱は遠くにいる人物の血液や髪を使用し、自身の妬みや恨みを魔力に変え、対象に攻撃するらしい。
「続いて、虎龍高等学校から3名、朱雀高等学校から1名、玄武高等学校から1名。以上。中蘭大陸から5名の出場です」
中蘭大陸。百龍の生まれた土地であり、中蘭でしか学べない多くの武器が存在する。梢子棍、環首刀、カンなど、その多さや特殊性から、全ての武器を完璧に扱える者は歴史上誰もいないらしい。
「続いて、セグス国立科学高等学校より2名、アグレッス国立銃剣専門学校より3名。以上。ノスエイ大陸から5名の出場です」
大陸の最北端に位置するノスエイ大陸。科学的に発展している大陸であり、異世界ゲートもこの大陸にある。特徴としてはその科学力を活かした近未来チックな武器と、どの距離でも対応できる銃剣術のプロが、全大陸の中で最も多いことだろう。
「続いて、ケンジ国立魔法専門学校より2名、ケンジ国立魔剣高等学校より2名、セド国立魔剣高等学校より1名。以上。マランシル大陸より5名の出場です」
七聖賢者と魔剣士の出身大陸マランシル大陸。子孫であるマジルとラークが出場しており、魔法分野においては全大陸トップだ。今まではケンジ国内の高等学校が卒業試合に出場してきたが、今回はセド国の魔剣高等学校が出場してきた。相当腕が良いらしく、七聖が出場していなければ、間違いなく優勝候補に上がるレベルらしい。
「最後にユベル国立高等学校より2名、ユベル都心騎士団アカデミーより4名、ヴィエル国立総合戦闘育成学校より3名、エコノ国立魔法専門学校より3名。以上。ユーベリア大陸より12名の出場です」
国立の学校が3校と、民営学校が1校。おそらく民営学校で卒業試合に出場できるのは騎士団アカデミーだけだろう。普通、実力のある奴は皆国立学校の方に流れるが、騎士団アカデミーだけは聖騎士団が運営していることもあって、立場が逆になっている。特徴は特にない。
「以上。出場選手36名です」
各選手が自身の出身校毎に列を成し、アリーナの中央に堂々と立つ。
皆、緊張しながらも胸の奥には優勝するぞという強い意志が見える。ただ1人を除いては。
「これより開会式を行います。開会の言葉。開会の言葉を――」
今日はいい天気だな。雲一つない快晴だ。こっちの心の中はめちゃくちゃ曇ってるって言うのに。
「本大会のルールについて、ユベル国聖騎士団団長、アインヒル・エンフィールドより――」
何回も見た光景だ。卒業試合を見始めたのが記憶だと5歳から。つまり、最低でも13年間ホリーの父親は騎士団団長を任せられているのか。
「本大会は1対1のトーナメント方式で行われます。引き分けの場合、先に戦闘不能と判断された方、双方同時に戦闘不能と判断した場合、審判団にて話し合い決定いたします。試合については各自が用意した武器を用いて戦闘を行いますが、頭部、心臓、心臓への攻撃を行った場合は警告を行い、再度攻撃を行った場合は失格となります。闘い方については素手を除く他全てを良しとします。なお、例年通り試合後直ぐに回復魔法による治療が行われます。以上、正々堂々と闘ってください」
長い。残りは国王の話だけだが、いつも通り長いな。正直言って、国家斉唱とルール説明だけで良い。
観客席の顔を見ても分かる。さっきの熱意がどこにいったのか、本を読んだり、隣の席の人と話したりしている。あの興奮はどこへ行ったのやらってやつだ。
「以上をもちまして開会式を終了します。第1回戦、虎龍高等学校の李選手と、ユベル都心騎士団アカデミーの武選手はそのままアリーナ中央に待機してください」
―1回戦目は虎龍の女と百龍だったな。見なくていいか―
決して虎龍高等学校を低く見ている訳ではない。多くの武器を教え、生徒1人1人に対して適した戦闘術を身につけさせる。並の高等学校じゃ出来ないことだ。けれども、百龍はそんなレベルじゃない。
「それでは第1回戦目。虎龍高等学校、李 華葉とユベル都心騎士団アカデミー、武 百龍の試合を行う!!レディー……ファイト!!!」
審判が白い旗を振り下ろす。
華葉は百龍へ自身のスピードを活かし、瞬時に後ろへ回り両手に装着した細く長い金属針で刺そうとするが、百龍が右手に握った偃月刀を手首だけ一回して攻撃を弾く。
「素晴らしいスピードだ。攻撃しようとしていた場所もルールの範囲内での急所。素晴らしい技術を身につけたものだ」
「ちっ、強者の余裕かよ!」
華葉は百龍から距離を置き、武器を一つに束ねる。百龍と打ち合いになった場合、1本だけでは折れてしまう可能性を考慮してだ。
「それでは、次はこちらから行かせてもらおう」
偃月刀の端を両手で持ち、剣のように構える。
その動きを見て、華葉は一気に距離を詰める。
―大地割だろ。あんたのその動きならすでに勉強済みなんだよ―
瞬間、偃月刀の刃先が華葉の目の前に出現し、足を止める。
その瞬間、華葉の腹部を横方向に斬り、少しして大量の血液が華葉の腹部から流れる。
「偃月刀・雑刃」
―ぐ!感じる!こいつ2回も切りやがった!―
華葉の目には1回の攻撃だったが、実際は2回切られていた。体は感じていたのだ。1回目に体に傷をつけられ、2回目に傷口をぐちゃぐちゃにするかのように雑に、けれども正確にもう一度同じ場所を切ったと。
―ダメだ。なんだよこの出血量。たった1回切られただけなのに立ち上がれない―
「勝負あり!勝者・ユベル都心騎士団アカデミー、武 百龍!!!」
観客席から歓声が沸き上がる中、百龍は選手控室へ戻る最中に一言呟いた。
「刃先に痺れ薬を塗っていたが、やはり克服していなかったみたいだな」
百龍は幼少期から偃月刀を学びながら、最大限活かす方法を学んできた。加えて、この2年間、中蘭大陸の山に籠もって技術を磨いていたらしい。
俺が考えるに百龍は、ホリーと同レベル。つまりは七聖の中でトップレベルということだ。
次回投稿予定
2025年7月27(日) 21時00投稿予定




