23/434
第一楽章 Grande Sonate pathetique Op.23
顔を叩きつける潮風が急に冷たく感じた。
目の前の海がさっきよりも深い蒼色になっている。入ればたちまち凍えてしまいそうな冷たい色だ。
足元を見回すと、洗濯板のような形状の岩場が広がっており、後ろを振り向くと斜めに走った地層が顕となっている崖がそそり立っている。
足元を小さな蟹が通り過ぎる。ふと気付くとさっきまで岩場だった所に水が入ってきている、そうだ潮が満ちてきているのだ。
そろそろ引き上げないと革靴を濡らしてしまうだろう、悠人は名残惜しくも海に背を向け、まだ水に浸っていない岩場を探し陸地に戻ろうとした。
辺りが急に暗くなってくる、時計を見ると四時半過ぎである。日没まで間が無さそうだ、悠人の足は自然早くなり、多少靴が潮に濡れても気にしなくなっている。
もう少しで陸地に、と言うところで革底に滑りを感じた。次の瞬間、悠人の左足が宙を舞い、視界いっぱいに黄昏かけた空が広がった。ああ、空が、行ってしまう! 両手で空を掴もうといっぱいに伸ばし……
後頭部に強い衝撃を覚え、悠人の意識は遠ざかっていった。




