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磯に香る君のそばに海神  作者: 悠鬼由宇
第1章
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第一楽章 Grande Sonate pathetique Op.23


 顔を叩きつける潮風が急に冷たく感じた。


 目の前の海がさっきよりも深い蒼色になっている。入ればたちまち凍えてしまいそうな冷たい色だ。


 足元を見回すと、洗濯板のような形状の岩場が広がっており、後ろを振り向くと斜めに走った地層が顕《あらわ》となっている崖がそそり立っている。


 足元を小さな蟹が通り過ぎる。ふと気付くとさっきまで岩場だった所に水が入ってきている、そうだ潮が満ちてきているのだ。



 そろそろ引き上げないと革靴を濡らしてしまうだろう、悠人は名残惜しくも海に背を向け、まだ水に浸っていない岩場を探し陸地に戻ろうとした。


 辺りが急に暗くなってくる、時計を見ると四時半過ぎである。日没まで間が無さそうだ、悠人の足は自然早くなり、多少靴が潮に濡れても気にしなくなっている。



 もう少しで陸地に、と言うところで革底に滑りを感じた。次の瞬間、悠人の左足が宙を舞い、視界いっぱいに黄昏かけた空が広がった。ああ、空が、行ってしまう! 両手で空を掴もうといっぱいに伸ばし……



 後頭部に強い衝撃を覚え、悠人の意識は遠ざかっていった。



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