35話 襲撃
俺と玲は茶臼岳山中を駆けていた。追従するドローンは6機。そのうち2機は前方を照らしながら、俺達の前を飛び誘導する。残り4機はそれぞれ等間隔で前の2機から通信を受けつつ後方から付いてくる。さらに通信傍受の攪乱とジャミングに対応できるように、ポイントごとに通信中継強化ブイを投下していく。このブイは全て衛星を経由している為ジャミングされにくい。しかも、ジャミングを受けた時どこからジャミング波が来たのかすぐに解る仕組みで、妨害や傍受等の異常があればこれらのブイがドローンより先に反応して基地に知らせるようにできている。広域瘴気下での使用を想定しての装備だがこういった時にも役に立つ優れ物で、さすがは日本製。米軍にはない装備だ。
『あと少しで観測ポイントに到着です。現在、周囲に魍魎鬼の反応はありません。また、瘴気濃度は緩やかに下降を続けていますが、注意してください』
インカムから柚子の声がして、現在位置をしらせてくれる。
「「 了解!! 」」
『朝倉です。今のところ通信傍受とジャミング波の影響は受けていません』
通信関係の異常は斎藤チームが担当してくれるみたいだ。この斎藤チームのドローンは弥生さんが操縦するドローンと遜色ない速度と制度で道案内をしてくれる。他のCチームのドローンも、さすが調査を専門にしているだけあって見事だ。しかし、Cチームの前衛は貧弱に見えたな。Cチームだから経験が少ないのも解るが正直な。でも、これが今の現実なんだろうな。
前方のドローンが動きを止める。
『観測地点に到着です』
そこには三本の黒い筒状の物が地面に刺さっていた。これの事か。その足元にはトラッキング装置らしきものが落ちて居る。これは、斎藤チームか消息を経ったCチームの物かもしれない。拾いあげて見ると、…壊れている?
と、突然耳鳴りのようなものを感じた。玲も一瞬戸惑った顔で俺を見る。
「!?耳鳴り?」
『一真さん!ジャミングです!!』
カキンッ!!
朝倉さんが叫ぶ。と、同時にドローンが何かに当たる音がする。俺と玲は咄嗟に身構える。すると突然、背中に衝撃を感じた。俺はすぐさま弥生さんから預かったナイフを両手で握り後ろを振りむく。そこには黒装束を纏った者が二人並んで銃口らしき物をこちらに向けて立っていた。瞬間、左に持ったナイフを投げる。一人は確実に急所に当たり倒れ込む。もう片方の黒装束にも残った右手のナイフを投げる。今度はあえて急所を狙わなかったので、一瞬動きは止まったものの逃げ出そうとする。その黒装束に一瞬で詰め寄り、組打ちを仕掛け制圧する。相手が落ちたのを確認すると今度は玲の状況を見る。玲が自分の持っていたロッド型の神器で黒装束の頭をおもいっきり振りかぶって横から殴ったのを見た。『ガコン!』と、物凄い音が聞こえ地面に頭から叩きつけられて、バウンドしてボールのように跳ねる。俺は思わず瞬きして見てしまった。
凄い力だったな…
「だ、大丈夫か玲?」
「はい!大丈夫です!でも、背中で、何かブラブラしてます」
背中には麻酔銃の弾丸らしきものが防弾チョッキに突き刺さっていた。着てきて正解だったな。
俺がそれを抜くと玲はギョッとした顔をして一瞬で真っ青になり神器をその場に落とし、両の手を頬にあてて固まってしまった。こりゃ、戻るのに少しかかるかな・・。はは。
俺は制圧した者の側に行く。頭巾を取ると男らしい者は口から血を流していた。
自決?か。
慌てて、ナイフを投げたもう一人も見に行くとやはり口から血をながしていた。
一応、玲を襲った者も確認に行く。これは、まぁ、確認するまでもないな・・。頭巾の上からでも惨状が分かる。うん、これ以上は止めておこう・・・
しかし、自決とは完全にやられたな。
『一真さん!!大丈夫ですか?!』
インカムから柚子の大声が響く。
「あ、ああ。俺達は大丈夫だ。三人から襲撃を受けた。相手は麻痺銃を使ってきたけど防弾チョッキのお陰で助かったよ、柚子のお陰だ。残念だけど、二人は交戦で死亡。一人は下を嚙み切って自決された。この三本の筒は明らかに俺達を誘う罠で6人と斎藤リーダー三人もこいつらにやられた可能性大だな。死人に口なしだ。どこに連れて行かれたか分からないな」
『そうでもないよ!』
『『 弥生さん?! 』』
「実は、柚子の一言からなんか嫌な予感がしててね。到着した瞬間にフラフラさせてたら案の定撃ってきやがったのさ。多分、斎藤チームのドローンもそれにやられたんだと思う。で、撃ち落されたフリして着地させたのさ、しっかり撃った相手はトレースさせてもらってね。奴は失敗したからとっとと逃げ出しやがった。でもね、ただいま絶賛追跡中さ」
「弥生さん!!グッジョブです!」
『朝倉です。こちらのドローンはジャミングの発信ポイントに向かわせます。ただ、空振りな予感がしますが…』
「その可能性が高いでしょうね。自決するくらいなんで、そんな簡単に足が付くような事はしないでしょう。さっき逃げたやつも通信が使えない以上、直接失敗の報告をしないといけないはずだから、そっに賭けましょう。あと、皆さんにお願いです。まず、人為的が確定した以上そこも安全の可能性が下がったので各々分散するが最も危険です。副局長室に追加報告と自衛隊の出動を要請してください。斎藤チームはそのまま調査を、Cチームは前衛に対人対策ができる様に装備を工夫して、仮設基地周辺にセンサー二重に設置して備えて下さい。それと、山岳救助隊と消防隊はこの暗闇で避難するのは逆に危険ですので、増援が来るまで固まって襲撃に備えて下さい。決して建物から出ないように」
『おっと!そろそろ、奴さん到着のようだね。動きが止まったよ。なんか建物があるね』
『ここは?この建物は?少し待ってください。照会してみます』
弥生が追跡していた黒装束がアジトに到着したようだ。俺は柚子からの返事を待ちながら逡巡する。対人が確定した以上、疑似神器では対応しきれない。
と、言う事で・・
「すまないが、ドローンを2機戻して対人装備を持ってきてほしい。柚子、用意を頼む」
『解りました。新型も最終調整はまだですが通常運用なら可能なんで、それも搬送させます』
『朝倉です。すみません・・。やはりハズレでした。ですが電力を全て消費しているようです。私たちはこのまま周辺を調べます。それと、副局長室への報告をしました。朝霞駐屯地から救援がこちらに来るそうです。あと副局長から無理はしないようにとの事です』
「わかりました。では斎藤チームのドローンはこのまま索敵と周辺警戒をお願いします」
『了解です」』
俺と玲は、対人装備が到着するのを待ちながら、この瘴気を発生させる筒の様な物を調べることにした。
◇◆◇◆◇◆
《 マナ因子研究施設跡・地下室 》
うううううううう・・・
いくつかの呻き声が響き渡る。その一角に鉄でできた大型のケージが三つおいてあり、その中の一つには人がうずくまった状態で入れられている。そのケージの中に斎藤が入れらていた。
斎藤が目を覚ます。うっすらと開けた目の先には機械の前で作業をしている男が立っていた。
機械の側には自分の仲間の2人がベッドにそれぞれ仰向けに縛り付けられていて、両腕から管が機械に伸びている。その機械から管を通して薄黒い何かが二人の体に注入されている。
「おや?目を覚ましたようですね。さすがBクラスでも上位と言ったところでしょうか?奥の院のご老体もなかなか良い被検体を用意してくれました。この後もどんどん集めてくれるのがとても楽しみです」
斎藤は次第に意識が戻り、自分がケージの中に閉じ込められていることを理解する。開けようとしたり、揺らしたりするが出ることができない。すると、目の前に男が現れる。
「開けろ!ここから出せ!」
「そんなに睨まないでください。私ですか?私の名前は『草薙雅也』これでも瘴気研究の第一人者ですよ」
・・・次回『実験』




