滝壺の美しき天狗姫
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「キャ――――ッ!」
突然この場に現れた拓真に驚き、咲良はあわてて両腕で胸を隠すと同時に、彼に背を向ける格好で肩まで水の中に沈んだ。
「何で? どうして他人が居るの?」
半分泣きそうな震えた声で咲良が呟く。突然の羞恥に、拓真を睨む瞳が潤んでいて、顔は耳まで真っ赤になっていた。
拓真も一瞬頭が真っ白になるも、自分の行った行動にはたと気付き、すぐさま回れ右をする。顔中熱くなっていたのがわかった。
「ご、ご、ごめん」
「いつ……」
「え?」
「いつからそこに」
咲良の怒りに震えた声が、拓真の心に罪悪感をもたらした。
「あ、ちょっと前。ほんのちょっと前。ほんと、す、すぐ帰ります!」
早くこの場を去らなければと右足を前に出して移動しようとするも、それを見ていた彼女が身の危険を感じたのか瞬時に反応を示す。
「待って! 動かないで。ちょっとでも動いたら殺すわよ」
「は、はい!」
拓真が動こうとして、また自分の姿を見られるのではないかと過剰に反応してしまった咲良は、震える声で怒鳴りつけたのだ。
彼女の大きな声に、全身でビクリと反応して固まった拓真。なぜか反射的に両手を上げて降参のポーズをしてしまったが、咲良はそれを何もしないという意思表示に捉えたと思われ、それ以上は咎めてこなかった。
女の子の裸姿を見るなんて、そんな大それた事をするつもりは全く思って無く、結果こうなってしまった以上、今の彼女の命令に背く事は出来ない。
そもそも何故ここで裸になっていたのかは疑問ではあるが、そんな事を訊けば本当に抹殺されかねない。
自ら火に油を注ぎたくは無いので静かに黙っている事にする。
「いい。絶対こっち見ないで!」
拓真は黙って小さく何回も頷く。
「絶対に、絶対だからね!」
これ以上被害を拡大させないため瞼も閉じた。殺される宣言されていたので、まさに背中へ拳銃を突き付けられた悪人気分である。
じっと微動だにしない拓真を見て、これ以上何もしてはこないだろうと判断した咲良は、何やらぶつぶつ言いながら滝壺の中で動き始めた。
拓真の背後でぽちゃぽちゃと水面を移動する音がして、ぴちゃぴちゃと音質が変われば滝壺から上がるところだろう。タオルのような物で体を拭きゆっくりと衣服を着る、そんな柔らかく布を擦り合わせる音が拓真の耳をくすぐった。
思春期の拓真にとって、これほど艶めかしく辛いサウンドシチュエーションは無い。目を閉じていたせいか、さらに妄想の世界に引き込まれてしまいそうだった。
そんな如何わしい妄想のおかげで、拓真の脳内は桃色の思考に染まってしまい、いつの間にか咲良の脅しの効果は薄れてしまっていた。
(落ち着け俺、山崎さんのことは考えるな! 何かもっと違うことを考えろ)
こういう時の男子は、何かと辛いものである。
しばらく咲良が衣服を着終わるのを待っているのだが、その彼女から一向に終了の合図がない。
やはり女の子はこういう事には時間が掛るのだと思い、もうしばらくじっと待つ事に。
すると突然。
「目、つぶっていたんだ」
真正面から彼女の声が飛んできたので、思わず目を開けた拓真。
近距離で覗き込む咲良の顔が映って、心臓が飛び出るほど驚いてしまった。
まだ羞恥が少し残っていた彼女は、ほんのりと頬を染めていた。二重の大きな瞳は相変わらず拓真を睨んでいたが、その表情は学校では一度も見た事の無いあどけなさの残る微笑だった。
見とれてしまうほど可愛らしい彼女の仕草に、拓真の鼓動は高鳴る。
「顔が真っ赤。エッチなこと考えてたでしょ」
「そ、そんな事は決して……」
「どうだか」
まさに図星だった。怪訝な表情で睨む咲良を直視できず、その視線から逃げるように目を逸らしてしまう。
目を逸らせば彼女の服装が目に映り、なんの事は無い学校のジャージ姿だった。地味な小豆色で拓真達の学年指定色である。
「授業中とかずっと私の事見ていたわよね。気が散るからそういう事止めて欲しいんだけど」
やっぱ気付いていたじゃん、と心の中で突っ込みを入れつつ。
「隣の席同士、仲良くできればと……」
「私は嫌よ」
「どうして?」
「どうしても、特にあなたとは」
即行否定されるとかなりへこむ。
拓真にとって、今この状況で好意を持たれる事はまず無い。むしろ更に関係悪化しそうな勢いなので早めに退散したほうが無難だろう。
現に、正面に立つ咲良の表情からは、拓真への警戒の色が濃くなっていた。
「山崎さん。今日はホントに悪かった。また改めてお詫びさせてくれ」
とにかく謝って今日の所はこの場から離れようとして、拓真は後ずさりする。
「ええ、詫びは入れてもらうつもりよ。でも、学校では話しかけないで、約束して!」
「……わかった。約束する」
急いで振り返り、彼女とは反対方向に駆けだす。去り際に「じゃあ」と言って右手を上げたのだが、咲良から制止の声が掛かる。
「ちょっと、そっちは!」
「ワァ――ッ!」
瞬間、拓真の姿が消えた。
少しでも早くこの場を立ち去ることだけを考えていたので、急斜面になっている足元に全く気付かなかった。
豪快に踏み外した彼の体は、勢い良く転げ落ちていったのだった。
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