メイクアップの魔術師
いつも誤字報告ありがとうございます。
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「ふぃー、出来ましたー。小林さんいかがでしょう?」
額の汗を拭いながら、甲高い声で作業の終了を告げる木村。その隣で監視していた小林が「ほほう!」とその仕上がり具合に感心の意を込めていた。
「うん、流石は日本一のメイク魔術師。ここまで美しく仕上げるとは大した腕よね」
「いえいえ、咲良ちゃんが可愛いからですよー。私も負けじとつい本気を出してしまいましたー」
「そうね。確かに素材となる咲良ちゃんが居てこそ、これ程の芸術が完成したのよ。やっぱり私の目に狂いは無かったわ。ありきたりな言葉で申し訳ないけど『磨けばいくらでも光る、ダイヤの原石』よね。特に咲良ちゃんは別格」
「はい、全くです。小林さんの言う通りですよー」
「しかし、見れば見るほど凄いわ! 惚れ惚れしちゃう」
大人の女性二人は、メイクの仕上がった咲良を中心に囲み、隣の空き部屋で大盛り上がりをしていた。
早めのお昼を済ました彼女達は、ゴミの片付けを拓真に託して、早々にリビングの隣部屋に集結していた。先ずは咲良にメイクを施すところから始めている。
集結と言ってもメイクをされる身の咲良は、小林と木村に両腕を拘束されて連れて行かれたようなものだったのだが。
拘束された咲良も嫌がる風ではなく、どちらかと言えば恥ずかしさのあまり躊躇していたのだ。
予め衣装合わせをすると告げられていたので、それならばと咲良は適当なジャージ姿をしていた。それが直前になって「よし! 先ずはお化粧からやりましょー」と木村に言われた時には、目が点になってしばらく固まっていた。
そもそも本格的な化粧を経験した事が無い咲良にとって、変身した顔を男の子に初披露するとなると、それなりの心構えと心の準備が必要だったようだ。
小林の連れてきた木村は、あのメルクスタジオの中でもトップクラスのメイクアップアーティスト。
その技術は驚くほど素晴らしいらしく、完成した咲良のメイクをうっとりとした目で小林は大絶賛している。
一方の拓真とはいうと、盛り上がる女性陣を他所に、リビングでテレビを見ていた。
化粧中なら時折見学に行っても良かったのだが、隣部屋には大きな荷物が持ち込まれているためか、そこそこ狭くなっている。そんなところで拓真がうろうろしていると、かえって邪魔になるだろうと思いリビングに待機。それに、メイクが完成してから見た方が、その違いがはっきりと解るだろうと思っていた。
「ねえ咲良ちゃん。拓真様にも見せてあげて」
「……でも……はずかしいです」
「いいから、いいからー。立って、立ってー」
大人の女性達に背中を押された咲良が、テレビへと視線を向けている拓真の前に立たされた。
「テレビ見ているところに、ごめんねー」
「拓真様、ほら。咲良ちゃん見てあげて下さい、とっても可愛くなりましたよ」
咲良はおずおずと拓真に正面を向けると、肩を窄めながら上目使いで恥ずかしそうに感想を求めた。
「ど、どうですか……わたし」
「ん? んん? え……ええっ!! 本当に咲良さん!?」
拓真は思わず二度見。いや、三度見くらいしてしまった。
目の前に立つ咲良の顔は、拓真の予想を遥かに超えて全くの別人に見えた。
そんなに厚化粧しているような感じは無く、むしろナチュラルに仕上げてあるのにだ。
よくよく見ても、咲良の顔のパーツである大きな瞳や小さな唇などは、化粧で微妙に変化を付けてあるものの、その部分だけを注視すれば何ら変わった所など無いように見える。どう見ても間違いなく咲良本人の物なのに、全体で見るとまるで別人のように見えるのだから不思議なものだ。
学校での咲良は『天狗姫』と呼ばれているように、その顔の特徴は少しキツめのツンとした表情だ。
だが、今目の前に居る咲良は、尖った表情など一切見られず、穏やかで優しく、しかも少女のあどけなさを残した可愛らしい女の子。
まさに、メイクアップアーティスト恐るべし。
咲良の変わり様に、拓真は目を丸く見開いて絶句している。
その様子をまじまじと観察していた木村は、小さくガッツポーズを取りながら歓喜のあまり体を震わせていた。
「クーッ! これこれこれ! この反応が欲しいから、私この仕事止められないんですよー」
「木村さんのメイク、私が知るなかで今日のが一番ね」
「小林さん! あざーっす」
両脇の女性達がうるさい。だがそれ以上に咲良の化粧による変化の方が衝撃的で、拓真はそのメイクから目を逸らせないでいる。
「そんなに変ですか? わたしの顔」
驚きのあまり目をパチクリさせるだけで他に何の反応も見せない拓真に、咲良の潤んだ瞳が向けられて、やっと我に返った拓真は小刻みに首を振り慌てて口を開く。
「変じゃない! 変じゃない!」
「そ、そうですか」
「そう、すごくいい……か、かわ、かわいいよ!」
「うっ……ぁ」
「あら、拓真様。素直な感想でとてもステキですよ。でもその代わりに、正面の咲良ちゃんが恥ずかしさで茹でだこになっちゃってますけどね」
言った拓真も、恥ずかしさで顔が熱くなっていた。
首や少し見えていた鎖骨、手や腕などのメイクした顔以外の露出した肌はすでに真っ赤になっていた咲良。羞恥のための熱で、額にキラキラと光る汗がにじみ出ていた。
「あああぁ! 拓真君駄目じゃないですかー! 咲良ちゃんを恥ずかしがらせると、メイクが崩れるー」
「まあ、それは大変! 彼女のメイク代高いんですから気を付けて下さい、拓真様!」
「え? 俺?」
咲良を素直に褒めたのに、お叱りを受けてしまった拓真は、そもそも小林達がそう仕向けたのではないかと、腑に落ちず不貞腐れている。
それに、メイク代が高いとか口走っていたのが気になる。浴衣も数着有るらしいので、それらを含めて小林は今回いくらお金を使っているのだろうか。
「あー、それなんですけどー、いつもお世話になっている小林さんの頼みですから、お代は頂きませんよー」
「あら、そう、良いのかしら……」
「はい! こんなに素適なモデルさんを用意してくれたんですからー。でもその代わりー……」
「分かってるわ。浴衣の件もある事だし、必ず咲良ちゃんを説得してみせます。そこは任せて頂戴」
「流石、小林さんです! AV女優以外で私の技術が活躍出来るなんて、夢みたいですー。嬉しすぎますー」
(あれ? 今、木村さん変な事言ってなかった?)
「大船に乗った気持ちでいてちょうだい」
「じゃあ、私は次の準備してきますねー」
拓真と咲良を他所に、大人の女性達は着々とその闇の計画を進めて行く事に。
一段とテンションの上がった木村は、鼻歌を歌いながら隣部屋に籠っていく。
嫌な予感しかしない拓真は、何があっても咲良を守ろうと気を引き締めている事にした。
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