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結界

偶然、お盆に思い出しました。

 これはBさんから聞いた話です。


 自称見える人であるAさん、Bさん、Cさんは、霊感が備わっているという以外にも幾つかの共通点が有った。

 簡単に思い付くだけで、三人共が昔武道を嗜んでいた。そして、三人共が神社仏閣好き。

 更に、もう一つ。三人共がカメラ好きでもあった。

 各々が自分専用の高価な一眼レフを持ってたし、レンタルビデオ店に自分の所有する自慢のカメラを持って来てはカメラオタク談義に花を咲かせたりもしていた。

 その時ばかりは、カメラに全く興味無しの俺は話に加われなかった。

 心霊写真ツーリングも、Aさんは一眼レフ、Dさんは一般的な普通のカメラで撮影をしていたそうだ。


 Bさんも心霊写真撮影ではないが、社会人となってからは休日を利用してたまに一人で撮影旅行に出掛けていた。

 旅行先は、やはり各地の歴史的名所。態々東京から旅費を出して出向いているのだ。カメラ女子が好む、近代的な建物、下町の風景、空に浮かぶ雲、野良猫、ラテアートなどはアウト・オブ・眼中。

 自然の中に溶け込む神社仏閣、歴史的建造物や旧跡こそが日本風景の醍醐味であり、Bさんお目当ての被写体だった。


 とは言え、現代においてそのような場所は綺麗に整備され観光客で賑わっているし、Bさん以外にも撮影目的で訪れているアマチュアカメラマンは腐る程居る。

 前にも説明したが、Bさんはかなり唯我独尊オラオラな性格をしているので、他人と同じ当たり前のモノを好まない。

 故に、本当に撮りたい被写体を撮る時は、平気で人が足を踏み入れない場所に入り、自分だけのポジションから自分だけの写真を撮ろうとしてしまう人なのだ。

 けれども、そんな真似は観光地の人にとって迷惑以外の何物でもないし、見付かれば間違いなく怒られてしまう。

 だから、ここぞという時、Bさんは日が昇る前の早朝に目的の場所近くへと訪れる。そして、立入禁止の立札が立っていない遠くの場所から草木が生い茂る林や森の中へ潜入する。

 そのまま、草木を掻き分け目的地まで進み、その中から自然と一体となった被写体を撮影をするという荒業をやってのけるのだ。


 人間の手が殆んど入っていない自然の中は観光地と化した場所からでは絶対にお目に掛かれない見事な風景が広がっており、絶好の撮影スポットなのだとか。

 更には、早朝なので空気も清んでるし観光客も居ないので、被写体のありのままの姿を撮影出来るという。

 そんな事をやっていたBさんは、とある撮影旅行の時も最寄りの街へ着いた後、夜明け前を狙って迷惑極まりない荒業を決行した。


 その時の目的地であり被写体は、山奥の広大な敷地に建立された大きな寺と、それに類する建造物にその周辺の風景。

 そう、被写体は山の奥地に有る。にも関わらず、Bさんは整備された山道ではなく、林ですらなく、何の山岳的な用意もせずに、木々が生い茂る道無き山中へと入って行ったのだ。

 Bさんとしては、何時もやってるし山に潜るのは今回が初めてでも無いから然程問題無いだろと思っていたらしいのだが。

 そのまま、自然豊かな山中の風景写真を撮りつつBさんは奥へ奥へと進んで行った。


 しかし、結構な時間斜面を登り、暗かった辺りも明るくなり始め、木々隙間から日の光が射して来ても、目的の寺に類する建物や風景は見えて来ない。

 流石のBさんでも『こりゃ迷ったなと』思ったが、ある意味その山は、山全体が有名な観光地でもあった。

 Bさんは『その内太陽が昇ったらそれを目印にして方向を見極め、外の道に出れば良いや』と気楽に考え、更に先へと進んだ。


 山へ潜入してどれぐらい経ったのか、不意にBさんはさ迷っていた木々の間から綺麗に整備された細い石の階段へと抜け出てしまった。

『山の中で下手に迷うよりマシだし、朝一だったら観光客も少ないから良いか』と結論付けたBさんは、そのまま階段を上り始めた。

 けれど、その階段は何処か変な感じだった。

 寺の有る場所は日本でもかなり有名な観光地。先程も説明した通り、周辺はおろか山奥だろうが整備されている場所なら大抵はガイドブックに載っているので、当然出入口へと続く道や階段ならば尚更雑誌等で見覚えがある筈。

 それなのに、Bさんが上っている階段は観光客用にしては急だし細すぎた。

『もしかして関係者専用の階段かな?』とも頭を過ぎったが、今まで道無き山の中を登って来た疲れも有り『まっ、いっか』程度に留めて階段を上り続けた。


 Bさんが上り初めて直ぐに、先の方で階段を掃除をしている年配の坊さんが目に着いた。

 坊さんはBさんの存在に気付かないのか無視しているのか無言で階段の掃除を続けている。Bさんはどんどんと階段を上り、坊さんに近付いて行く。

 すると、Bさんが階段のとある地点を上り過ぎた瞬間、坊さんは信じられない物を見ているような驚愕の表情を醸し、掃除していた手を止めた。

 階段を上って来るBさんの姿に、坊さんは顔を向けてひたすら凝視する。

 Bさんは、その坊さんの表情から『やっぱ身内専用の出入口だったか』と思いながらも関係者のフリして横を通り過ぎようとした。


「どうも~」


 すれ違いざまに、さも当然のように馴れ馴れしく挨拶したBさん。

 でも、そうは問屋が卸さない。


「ちょ、ちょっと君!」


 明らかに呼び止められたので、いくら図太い神経を持つBさんでも無視は出来なかった。

 それでも、一応平静を装う。


「なんスか?」

「君、何処から来たんだ?」

「はぁ?東京からですけど?」

「そうじゃなく、どうやってこの場所に来れたんだ?」

「普通に階段で上って来ましたけど?」


 途中まで山の中を潜って来たと言ったら怒られる程度では済まないと思い、その辺はあえて答えなかった。

 だが、その後も坊さんはBさんの名前や素性を根掘り葉掘り聞いて来る。

 素性まで聞かれるとは思わなかったBさんは、下手に嘘を付くよりも正直に答えて悪くとも階段を引き返し穏便に事を済まそうと思った。

 Bさんが質問に正直に答えていくと、当初は取り乱した様子だった坊さんも段々と冷静に戻っていく。

 最後には「此処で待っていなさい」と言って、坊さんは階段を上って行ってしまった。

 後には階段の途中に残されたBさんただけ。少しの間、その場で待ちぼうけをくらってしまう。


 何故少しの間かと言うと、掃除をしていた坊さんが階段を上って姿を消した後、然程時間を掛けずに今度は、四、五人の坊さんが階段の先から下って来たからだ。

 ぼんやりと、自分へと向かって来る坊さん集団を眺めるBさん。

 その時の坊さん達は、全員が武蔵坊弁慶のような格好をしており背が高くてガタイが良く、ちょっとした剣道の防具みたいなのを着用し、錫杖のような長い棒を持っていたとの事。


 Bさんが『何だ?』と思っていると、そのガタイの良い坊さん達がBさんに近付くやいなや、急に数人掛かりで襲い掛かって来た。

 ハッキリ言って多勢に無勢、力と体格の差は歴然、本場の少林拳使いのBさんでも手も足も出なかったという。あっという間に背中に背負ったリュックを剥ぎ取られ、羽交い締めにされてしまった。

 もう、ここまでされたら流石にヤバいと分かる。この坊さん達は僧兵だと直感したBさんは、無駄な抵抗をせずに大人しく羽交い締めされるがままになった。

 すると、Bさんが首からぶら下げている一眼レフのカメラを、羽交い締めに加わってない僧兵がブン取った。

 これには、大人しくしていたBさんも思わず声を荒げてしまう。カメラを壊されるorカメラを奪われると思ったのだ。


「ちょ!ちょとそのカメラ、メチャクチャ高かったんだ! 勘弁してくれ!」


 そう叫ぶと、カメラを取った僧兵は錫杖でBさんの腹を容赦無く突いた。

 そのせいで、叫ぶどころか声が出なくなってしまったが、懇願の甲斐あってか僧兵はカメラ自体には何もせず、カメラの中に収められているフィルムだけを抜き取った。

 それと同じく、リュックやウエストポーチの中も調べられ、フィルムの類いは全て没収されてしまった。

 次にBさんは目隠しをさせられ、羽交い締めの姿勢から両腕を左右の僧兵によってガッツリ組まれた状態で階段を下ろされて行った(目隠しはさせられていたが、階段を下りる足の感覚は分かったと言ってた)


 目隠し状態で促されるままに階段を下りるBさん達だったが、ふと両腕を組んでる僧兵が足を止めたので、自然にBさんの足も止まる。

 すると、組まれていた腕が解かれ、手の平に何かを押し付けられる感覚が有った。

 どうやらそれは、僧兵に取られたBさんのカメラのようだった。

 そのまま自分のカメラらしき物を受け取とると、僧兵からとおぼしき声が掛かった。


「もう此処には来るな」


 その忠告をもって、どうやら解放されたみたいだった。それでも目隠しをされたままのBさんはその場を動けなかった。

 そりゃそうだ。さっきまで一歩間違えれば半殺し程度では済まなかったのだから。

 暫く経って漸くドキドキが収まって来たので目隠しを取り周りを確認すると、其処は人気の無い整備された道だった。

 足下には、やはり僧兵に剥ぎ取られたリュックが置いてある。

 Bさんは、さっきまで下っていた階段を確認しようと後ろを振り返る。

 けれど其処には、階段どころか整備された道すら無く、草木が生い茂る山林となっていた。


 その後Bさんは、フィルムを買い直すと言った真似はせず、整備された観光客用の山道から改めて寺へと入り、普通の観光客と同じく普通に参拝して帰って来たという。






 Bさんは、改めてこの話を総括する。まぁ、総括と言ってもBさん個人の見解なのだが。

 それも、とびきりブッ飛んだ推測である。


 最初にBさんは、僧兵に襲われた階段の先には、やはり寺が有るのだろうと予想した。

 だが、その寺は観光地と化している“表の寺”ではなく、秘匿されてる“裏の寺”なのだとか。

 山中を迷ったBさんは、偶然にも裏の寺へと通じる階段へ出てしまったのだ。

 そして、階段を掃除していた坊さんが、とある瞬間からBさんの存在に気付き驚きを隠せなかった理由。


 それは、裏の寺を守る為、人の目に触れないよう施されていた“結界”をBさんが無意識に越えてしまったからだ。


 また、恐らく結界は山中と階段、つまり二重の結界だった筈とも推測する。

 先ず、山中に施されている結界に引っ掛かると、山の中をひたすら迷い続ける。これで、裏の寺と何の関わりの無い一般人が山に潜り込んでも大丈夫。けれど、Bさんは写真を撮りながら山中をさ迷っていた。

 それを踏まえた上でBさんは語る。


「自然の風景や動物を撮るカメラマンは景色と同化するだろ。自分がその辺に転がってる石コロと同じになるんだよ。自然と一体化するってヤツだな。それは無の境地なんだよ」


「多分」と付け加えて説明を続ける。


「俺はあの時、登り疲れたお陰もあって無の境地になっていたのかもな。ファインダー越しに見る夜明け前の山中は幻想的で神秘的な風景だったしよ。もしかすると一種のトランス状態だったのかも知れんが、それで山の中に施されていた結界から抜け出せたのかも」


 つまり、結界は普通の人には反応するけど、ありのままの自然には反応しない。普段は煩悩の塊みたいなBさんだが、ボーッとした思考回路(無の境地)だったので山の中の結界が機能せずに抜け出せてしまい、裏の寺へと続く階段の結界も勢いのまま通りすぎてしまったのだとか。

 更に、掃除をしていた坊さんは、Bさんが階段の結界を通り過ぎるまでBさんを人として認識出来なかった。

 結界の外に居たBさんの存在は、無の境地によって周りに生えている木や草、石といった風景と同化していたからだ。

 だが、階段の結界が施されている地点を越えた事により初めてその姿が認識出来るようになった。

 その時の坊さんの表情から察するに、まさか結界の外から一般人がやって来るとは思わなかったのだろう。

 本来なら、例え山の中の結界を越えても、階段に施されている結界に引っ掛かれば、終点の無い階段をひたすら上り続ける事になる。

 けれども、下りだとBさんが僧兵から解放された場所へと辿り着く。

 もしかすると、階段の入口にも結界が施されているのかもしれない。階段の内から外には出れても、外の道から階段へは入れないようになっているのかも。

 だから、掃除の坊さんは、結界を素通りしたBさんが化け物や霊の類いかどうかを見極める為に色々と質問をして、これ以上先へ踏み入れさせない為に僧兵を呼びに行った。

 そしてBさんは、痛い目に会い、裏の寺へと通じる階段から追い出されたのでした。めでたし、めでたし。


 以上がBさん解説による世にも不思議な物語だ。


 流石にこの話は、当時世間知らずなファンタジスタだった俺でも眉唾過ぎるだろと思いました。余りにも現実離れしている上に内容が某漫画に似ていたからです。

 さて、漫画好きで勘の良い人ならもう気付いてるかも知れません。

 Bさんが僧兵に羽交い締めにされた場所であり、山奥に位置する広大な敷地の寺とは、密教、即ち真言宗の総本山。


 高野山金剛峯寺です。


 仮にこの話が本当なら、孔○王に出てくる裏高野みたいなのがリアルガチに実在しているのかも。


 まぁ、裏高野は別にして、漫画みたいな派手な術は無くとも退魔師は実在しているとAさんBさんは言ってましたが。

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