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ボスのメス

 人気のない深夜、いつものようにいつもの場所に集まる、4つの男達の影があった。




 一番体が小さいものは、ブランケットを腕に抱え、二番目に小さいものは、一番体が大きいものに寄り添い、二番目に体の大きいものはクッションに身を埋めている。一番体が大きいものは、皆が集まったのを確認すると、小さな声で話し始めた。

「例の話、聞いたか?」

「聞いたっ。聞いたっ」

「なんのこちょ?」

「おいしい話かの?」

「ラーとピー、知らねぇのかよ」

「知らねぇのかよっ。ばっかだなっ」

 二番目に体の大きいピーと一番体の小さいラーが顔を見合わせた。

「おちえて。おちえて」

「食べ物の話じゃないなら別にいいかの」

「そんなこと言ってていいのかよ、ピー」

「いいのかっ、ピー。ボスの話だぞっ」

 一番体の大きいカーがピーとラーを見下ろし、二番目に体の小さいバーも同調するように声を上げた。

「ボスの、かの?」

「ぼちゅの? ぼちゅの、ちりたい」

「よーしよーし、ラー落ち着け。このカー様が教えてやろうじゃねぇか」 カーは、ピーが体を起こし、ラーが興奮し、自分の周りを飛び跳ね回っているのを見て、満足したように頷いた。



「なんとな、あのボスが」

「メスを連れて帰ってきたんだっ。すっごいだろっ」

 バーの言葉を聞くと、ラーはさらに興奮して転げ回り、ピーはお尻を数度震わせた。

「なんでバーが言うんだよ。今のはオレが言うところだっただろ?」

「あの、ぼちゅがめちゅ? あのぼちゅが?」

「だってバーが言いたかったんだっ。カーより先にこの話を知ったのは、バーじゃないかっ」

「あのメスの匂いすらしないボスが、メスかの。それはとてもおもしろいかの。」

「チッ。わかってねぇなぁ。オレがドーンと言って、バーがバーンって自慢する方がかっこよかったじゃねぇか」

「めっちゅ、めっちゅ、めっめっちゅ」

「バーわかってなかったっ。カーの言う方がかっこいいっ。バー間違ってたっ」

「メスは挨拶にいつ来るかの」

「わかったならいい。バー、今度から俺の指示通りちゃんとやれよ」

 思い思いに騒いでいると、近くの寝所から何かを倒す音と共に大きな声が聞こえた。

「あんたら今、何時だと思ってんの。さっさと寝なさい」

「「「「はーい」」」」

 男たちは、すぐさまラーとピーの持ってきたブランケットとクッションで頭を隠した。

「チッ、オス同士の話の大事さが全くわかってねぇメスだぜ」

「わかってねぇ、わかってねぇっ」

「メスはそんなものかの。昼間は自分たちがぺちゃくちゃ沢山しゃべってるにも関わらずかの」

「ぼっちゅのめちゅ、めちゅ、めちゅ」

「とりあえず、メスについて詳しいことはまだわかってねぇから、みんなで調べるぞ」

「わかったっ」

「早くメスに会いたいかの」

「了解でち」

 男達は短い右手を少し上に上げて、賛成の意を表した。

「よし、じゃあ今日は解散。今度の集まりでそれぞれ、メスについて調べたことを発表な」

 男たちは、自分たちの寝床に戻っていく。そしてまた、夜の闇は深まっていった。





 前回の集まりから、数度太陽と月が入れ替わった夜、男たちはいつもの場所に集まった。いつものように、ラーはブランケットを抱え、ピーはクッションに身を任せ、バーはカーの身体に身を寄せている。

「おう、揃ったな。じゃあ、ボスのメス調査発表会を始めるか」

「バーから言いたいっ」

「うん、バーから始めていいかの」

 バーは少し鼻を上に上げながら一歩前に出た。

「ボスのメスの名前はリサで、ハタチっ」

「ボスが24歳だから嫁としてちょうどよい年頃かの」

「あとあと、今恋人なしっ。以上っ」

「なるほど。バーよくやた」

「えへへっ。バーよくやった、よくやったっ」

 バーが上半身をくねらせながら一歩下がると、ラーが勢いよく前に出た。

「ちゅ、ちゅぎは、ラー言いちゃい」

「おう。ラー、どんどん言え」

「めちゅは、記憶ちょーちつ、というのらちい」

「記憶喪失ってなにっ?」

「私は誰、ここはどこっていう感じらしいかの」

「ラーのちぇなかを流してくれるメイドちゃんがそう言っちゃ。めちゅは記憶ちょーちつで、初めは言葉がわからなかったけど今はなんちょか、って言っちゃ」

「へぇっ」

「あちょ、ぼちゅは、めちゅのことがちゅきって」

「ボスはリサのこと好きなのか。ラー、いい情報ありがとな」

「ラー頑張っちゃ」

 カーがラーの体を擦ると嬉しそうに跳ねた。ピーはそんなラーを横目に見ながら一歩前に進んで頷いた。

「そうみたいかの。次は、ピーかの。まず、メスは、ボスにこの前の雪の日に拾われたらしいかの」

「ボスがメスを、拾った?」

 カーがピーの言葉に首を傾げると、バーとラーも同じ方向に首を傾げた。

「そうらしいかの。いつもピーのお尻を拭いてくれる、かわいいメイドが言ってたかの。あと、ここらへんでは珍しい黒髪黒目らしいかの」

「黒ってなにっ?」

「ピーも黒というものを見たことないかの。メイドの話を聞いたところによると、ボスの髪が金という太陽みたいな色で、黒っていうのは夜の空みたいな色らしいかの」

 ピーが空を見上げると、同じように他の男達も首を上げた。

「ラー黒、見ちゃい」

「ピーも見たいかの。ピーからのメスの報告は以上かの」

 他の男達の報告が終わるとカーは大きく周りを見回した。そして、少し顎を上に向けるようにして、話を始めた。

「よし、最後はオレだな。オレが調べたのはいくつか言われちまったな。でもな、とっておきのが2つ残ってるんだ」

「とっておきっ、なにっ?」

「1つ目はな、メスの方もボスのこと嫌いじゃなくて、あと一歩でいい感じとからしい」

「めちゅもちょおなの?」

「オレのマッサージ担当のかわいこちゃんが言ってたことだから間違いない」

「あの子のマッサージは体がとろけるようだから、その情報は間違ってないと思うかの。ようやくボスもメスを得て、落ち着くのかの」

「そうだろ?あと、もう一つは…。」

 カーは声を徐々に小さくする。それにつられて、ピー、ラー、バーはカーの顔に自分の顔を近づけていった。

「明日、ボスのメスがオレらに会いに来るんだってさ」

「ちょ、ちょうなの?」

「ほんとかの?」

「ほんとっ、ほんとっ?」

「あぁ。コレはボス付きの髭もじゃのオスが、かわいこちゃんに言ってたのを聞いたから、間違いない」

 カーは得意げに大きく首を回した。つづいて、ピーもラーもバーもカーのマネをした。

「ちゅごい、ちゅごい。あちた、めちゅと黒が見られる」

「明日がとっても楽しみかの」

「だから、今日の夜、お風呂だったんだねっ。バーたちのお風呂の予定は、次の満月のはずだったのにっ」

「そうだ。イイオスっていうものは、メスに会う前には身体をきれいにしなきゃいけない決まりだからな」

「それは紳士の基本だからかの」

「あちた、あちた、めちゅ、めちゅ」

「なんか、バーお尻がもぞもぞしてきたっ」

「オレも、もぞもぞするぞ。明日は最高の状態でメスを迎えてやる。そして、ボスがメスを確実に落とせるように協力するぞ」

「「「了解」」」

 男たちはお尻を震わせながら、お互いの顔を見合わせて深くうなずいた。


「今日もあんたら、まだ起きてんのかい? さっさと、寝なさいって言ってるだろうに。」

 近くの寝所から大きな叱り声が聞こえると、男たちは身を寄せ合った。

「毎回毎回メスってやつは、どうもうるせぇな。オレらは大切な話してるって言ってるじゃねぇか。」

「してるっ。してるっ。」

「でも、明日の為にそろそろ眠るとするかの。」

「ラーは寝ちゃい。」

「よし、明日はボスのメスに気に入ってもらえるように頑張るぞ。じゃあ、今日は解散。」

 いつもの集まりより少しだけ早く終えると、男たちは自分たちの寝床に戻っていった。男たちの夜道を満月には少し足りない月が、明るく優しく照らしていた。




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