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『ご苦労様でした。後はガナリアス副将軍たち軍の方々が引き継ぎます。それと、ゆっくり休んでください』
「はい。わかりました」
そう言ってレイジは通信機の電源を切った。すでに《聖剣》は元の古ぼけた銀の十字架に戻っている。
レイジの足下には首から上がなくなった悪魔の死体が転がっていた。
「よぉ、無事に倒せたみたいだな」
振り返ると、顔をほんのりと朱に染めたジル・エリクトンが立っていた。
「おっと、俺様が酒を飲んでることについては触れるなよ。勝利の前祝いの美酒を少し飲んだだけだ」
わははは、と笑いながらジルはレイジが仕留めた悪魔を見た。
「しっかし、こいつは手強かったな。ひさびさじゃないのか?喰われたのが二桁に達したのは」
「………そう、ですね」
歯切れの悪い返答にジルはため息をついた。
「ったく、ガラにもなく落ち込んでんのか?悪魔が都市に侵入して、暴れて、怪我人や死人がでるのは当たり前だろうが」
レイジからの反応はなかったが、強く拳を握り締めていた。
「たとえお前が強くても死人は帰ってこない。お前がそんなに落ち込んでんのは親しい人間が死んだからだろう?」
またもや反応がなく、今度は嗚咽が聞こえてきた。
そして、ジルは「だがな、」と言ってジルはレイジを壁に押し付けた。その顔には朱色はなかった。
「テメーがそんな顔だと死んだ人間も浮かばれねーんだよ。レイジ、お前は《守護者》つー面倒くさい役職にまでついて悪魔を倒すんだろ?だったらこんな所で立ち尽くしてないで、悪魔を殺せ。それが、喰われた連中へのせめてもの葬いだ」
しばらく反応がなかったが、レイジはジルをまっすぐ見て、鬱陶しそうに肩に置かれた手を払った。
「それくらいのこと、あなたに言われなくてもわかってますよ。僕は死ぬまで悪魔と戦い続けなくちゃならない。とりあえず、病院に連れていかれたリナリィの様子を見に行って来ますから、軍への引き継ぎはお願いします」
それだけ言うとレイジは病院に向かって走り去った。
その後ろ姿を見て、ジルが一言。
「けっ、礼の一つくらい言えねーのかよ。可愛げのないやつ」