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始まりの稽古

 宿の裏の空き地、そこに少年と赤髪の青年はいた。

 シーナはイーヴァに渡された木剣を握ると見よう見まねで構える。


「もう少し肩の力を抜け、足の位置はこうだ。」


 イーヴァがシーナの肩に触れる。

 大きくゴツゴツした手は剣を握ってできたであろう豆だらけだった。


「は、はい。」


 シーナが言われた通りに肩の力を抜く。

 緊張で手に力が入りそうになるのを堪えて、柄を握り直した。


「じゃあ、一回振ってみろ。」


 イーヴァが即興で作った練習用の的を指差す。

 シーナは踏み込むと一気に切り掛かった。


 瞬間、バキリと嫌な音がする。


 切り掛かった直後、剣の柄が粉々に粉砕された音だった。


「あっ。」


 シーナは驚くも、またやってしまった、と苦い顔をする。

 いつもこうだった。練習用の剣はおろか実戦用の剣もシーナの握力に耐えきれない。

 耐えきれたとして、次は刃の方が潰れてしまう。


(まただ、僕には向いてないんだ。)


 恐る恐るイーヴァの方を振り返ると、彼は興奮した眼差しでシーナを見つめていた。


「天性の力だな……伸ばせば化けるぞ、これは。」


 イーヴァは無意識に笑顔になる。

 たまたま教えた相手がとんだ掘り出し物だったのだ。

 興奮するなと言う方が無理な話だった。


 しかし、落ち込むシーナを見てイーヴァは首を傾げる。

 なぜ、落ち込む必要があるのだろうか。


「いつも、こうなんです。」


 シーナがポツリと呟く。

 その言葉にはどこか諦めの色が漂っていた。


「いつも?」

「はい、毎回です。」


 祖母にお前は向いていないと言われた事をシーナは思い出す。

 泣きながら剣を諦めた幼い日、苦い思い出だった。


 イーヴァは話を聞くと、うんと唸る。

 そして導き出した答えは、護衛術を学ぶということだった。


「護衛術ですか?」

「そうだ、剣を使わない格闘ならお前の強みも活かせるだろう。」


 イーヴァは続ける。


「昔、お前と同じようなやつがいた。そいつは普通の剣じゃ、戦えなかった。お前が弱いんじゃない。」


 シーナは少し笑顔を浮かべた。

 胸が暖かくなる。

 自分でもできる事があるというのが嬉しい。


「今日から三日間扱いてやるからな、覚悟しておけよ。」


「は、はい!」


 元気よくシーナは答える。


 その様子を遠くからラガルが見つめていた。


 ラガルは何か食べに行こうと宿を出たところだった。

 けれど二人の姿を見かけて、どうにも気になって遠くから見つめていたのだ。


 (何をしてるんだ。)


 仲が良さそうに特訓をしている二人の姿を見ると、嫌な気持ちになった。

 別にシーナがどうとかじゃない。ただ胸の奥がうずく。理由なんて知らない。


 胸の奥で何かがざらりと逆立つ。理由を探そうとしても、掴めなかった。


 かといって割って入る程のことでもない。

 ラガルは二人に背を向けると目的の場所まで歩いて行った。



 三日後、四人はノーヴィツを発つ。

 柔らかな木漏れ日の中、シーナとイーヴァは楽しそうに話をしていた。


「シーナ、お前は筋がいいなぁ。」

「そ、そうですか?」


「ああ、言った側から覚えてく。正直詩人で終わらせるのが勿体無いくらいだ。」


 シーナがその言葉に照れてる間、ラガルは二人の話をじっと聞いていた。

 二人が仲良くしているのを見ると無性に邪魔をしたくなる。


 (……なんでだ。聞きたくない声じゃないのに。)


 その衝動を隠すことなくラガルは動く。


 シーナとイーヴァの間にわざと割って入ると、シーナの額をピンと弾く。


「調子に乗るな、弱弱。」


 なんでこんなことをしたのかラガルにもわからなかったが、しないと気が済まなかった。


「いて。」


 シーナが笑みを浮かべる。

 発言よりもラガルが自分から絡んでくれたのが嬉しい。


 イーヴァはいきなり割って入って来たラガルに目を丸くすると、意地の悪い笑みを浮かべてラガルの頭を撫で回す。


「可愛いやつだなぁ、お前。」


「なんだ、いきなり!やめろ。」


 ラガルは吠えるがイーヴァは手を止めない。

 乱れた頭をラガルは振ると、イーヴァに噛み付いた。


「この薄鈍頭!」

「おうおう、なんとでも言え?」


 シーナは、あははと笑う。

 取り乱すラガルが珍しくておかしい。


 その後ろ、一歩下がったところでメフェルは三人の様子を見ていた。

 仲が良くていいことだと彼女は思ったが、明るい気持ちだけではいられない。ラガルを追ってしまう。


 彼は以前に比べて楽しそうだ。

 シーナがいてくれて良かったとメフェルは改めて思う。


 けれど。


 (私じゃダメだったのね。)


 そんな思いが胸を貫く。

 彼女の唇から淡いため息が溢れた。


 少し歩幅を緩める。気づけば三人との距離がゆっくり開いていく。


 誰もメフェルを気に留めない。

 そうして次の街へと一同は足を踏み入れていく。

 影の手先が待ち受けているとも知らずに。

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