↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/252

酔いどれの距離

「さぁ、肉を食ったな!そうと決まれば酒だ。酒!」


 イーヴァが元気よく踏み出す。

 ラガルの肩に手を回して、近くの酒場に入ろうとした。


「ちょっと待って!」


 メフェルが慌てて止めに入る。

 ラガルも腕から逃げようとしたが、力が強くて離れられない。


「なにする!このっ!」

「まぁまぁ、一杯くらい奢ってやるから。」


 結局イーヴァの言葉に負けて、ラガルたちは酒場に入る。

 シーナは初めて客として入る酒場に、心を躍らせていた。


「嬢ちゃんは酒強いか?」

「……ミルクでいいわ。」


 メフェルが椅子に座って、イーヴァを見る。

 イーヴァはご機嫌な様子で、酒を頼むとシーナとラガルに尋ねた。


「お前ら酒は強いか?」


「ぼ、僕飲んだことありません。」


 シーナが上擦った声で答える。

 ラガルは無視をして水を一杯頼むと傾けた。


「そうか、じゃ酒の味覚えなきゃな。」


 そう言ってシーナの前にイーヴァは酒を差し出す。

 シーナはゴクリと唾を飲んだ。

 

 水のようにも見えるテラテラとした飲み物。

 

 ――これが酒。


 杯を傾ける動作をするイーヴァを見て、シーナが容器を持ち上げる。

 グイッと傾けた。

 喉に熱い感触が通る。


「う。」


 甘さの奥に、ほんのりと苦味がある。

 初めて味わう未知の味にシーナは、驚いた。

 美味しくもないし、不味くもない。


「どうだ、美味いだろう。」


 イーヴァはそう言って、杯の中の酒を一気に飲み干す。

 シーナはうーんと首を傾げた。

 もう少し大人になればお酒の美味しさがわかるのかもしれない。


「……。」


 ラガルは相変わらず水を飲んでいる。

 それを見かねたイーヴァが、新しい杯に酒を注いでラガルに差し出す。

 お前も飲めということだった。

 杯に手を置いて、飲まないという意思表示をするラガルにイーヴァはしつこく食い下がる。


「えぇい、酒の席だろう。飲まなきゃ損だ。」


 ラガルの首根っこをイーヴァは掴むとグイッと杯を押し付ける。

 メフェルが止めようとしたが遅い。

 嫌がってたラガルの口に、酒が入った。


 喉が上下に動く。


 なんだかその頃にはシーナの頭はふわふわしてきて、楽しくなっていた。

 ラガルの顔がみるみる赤くなる。

 その様子が面白くて思わずシーナは、クスクスと笑ってしまった。


「……何が面白い。」


 ラガルがポツリと言う。

 その声さえ面白くて、シーナは笑う。

 なんでこんなにおかしいのかわからなかった。


「お前、さっきからずっと笑ってる。」


 すぐにグデグデになったラガルは酒を飲み干すと、次の酒を杯に注ぐ。

 それを見てイーヴァは“乗ってきたな!”と手を叩いたが、メフェルは冷めた目で見ていた。


「おいしい。」


 ラガルがちびちびと酒を飲みながら言う。

 シーナが笑うと、ラガルもニヤリと笑った。

 そしてそのまま少年の額を小突く。


「……シーナ、リュート落とさなくてよかった。」


 一瞬、シーナはドキリとする。

 こんなにラガルが近いことはなかった。

 それに名前を呼ばれることなんて初めてだ。

 心を許してくれたことが、嬉しくてシーナは舞い上がる。


「はい!」


 満面の笑みで彼は返事をした。

 メフェルは静かに微笑んでいたが、少しだけ胸が騒つくのを感じる。


 (私にはあんな距離……名前だって……まだ、呼ばれたことない。)


 どこか冷たい感情だった。

 イーヴァはそんなメフェルに気づかずに、酒をあおる。


「やっぱり酒は最高だな!」


 豪快に笑い、あっという間に樽を空けた。

 そうして酒場の一幕は過ぎていく。

 誰も明日のことなんて考えてなかった。

前の話を改稿した後、今回のエピソードを追加するのを完全に忘れていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。