第十話 平和のモニュメント
2046年FIFAサッカーワールドカップ代替アメリカ大会決勝は、日本対ブラジルの組み合わせとなった。
日本代表キャプテンの朝倉選手は、かねてからブラジルが現在の日本チームにとって最も相性が悪い相手だと警戒していた。
日本の強みであるディフェンスシステム、サイドフリーズ。
それを破る方法は3つ考えられる。
「分析」か、「センス・嗅覚」か、「圧倒的なスピード」。
ブラジルは少なくともその内のふたつ、センス・嗅覚と圧倒的スピードを備えている。それがサッカー王国と呼ばれる所以なのだ。
日本代表の真価が問われ、世界の命運がかかる決勝戦は試合開始直後から白熱の展開となった。
ボールを支配するブラジルと防衛線を張る日本。
お構いなしの突破、紙一重で潰してのカウンター、颯のような戻り。
スタジアムは張り詰めた緊張感を帯び始める。
数日前、準決勝終了の時点でモロッコはそれまでに勝利していたロシア、イギリス、フランスのCP権について日本への譲渡を宣言。
しかしアメリカなどはCPに譲渡の規定がないことで難色を示した。
桐原総理はCP対象国それぞれと個別に会談を行い、持ち前の温厚な語り口で、魔法のように各国に我が国の平和のモニュメント「センチアール」を設置することを了承させた。
日本政府はその2日後には指定された地点への敷設を完了させ、昨日運用を開始していた。
センチアールは敷設数が多いほどその性能を発揮する特性を持つ。
日本はセンチアールの最大敷設可能数を想定して、実用機10機の製造を終え、うち2機を国内に敷設。残る8機を梱包し、いつでも特別機で発送できるよう待機してワールドカップに臨んでいた。
決勝トーナメントは予選を勝ち上がった32チームで構成される。
仮に優勝できたとして、相手国CPを得られるのは5ヶ国。それに、優勝した場合に得られる開催国アメリカのCPを加えても6ヶ国だ。
センチアールの最大性能を引き出すためには、ひとつでも多くの国に敷設できる可能性を模索したいところであった。
桐原総理大臣はこれを念頭に、各国と精力的に交流を持っていたが、その播種がここで実を結んだ格好だ。
モロッコから日本がCP譲渡を受けた3カ国は、奇しくもそのいずれもが核保有国である。
破壊に対して破壊をもって対抗した核の歴史。
その秩序を変えようというのだ。それらの国の関係者の中には日本の行動におそれを抱く者もあった。
「日本はCPを利用して核廃絶を狙っている」
この情報がリーズアメリカ大統領の耳に入ったのは、決勝戦の前半も中盤に差し掛かった熱狂の最中であった。
リーズ大統領は激しく動揺した。
世界は安定していた、はずだった。
時に力をちらつかせ、時に理解を示す。それだけで簡単に世界のバランスを取れるメソッドが、数々の歴史的事実を裏付けとして確かに存在していた。
ベネルクス紛争が示した危うさも、それを発端とした世界の混乱も、この100年の実績を思えば軽々と捨てることはできない。
核こそがこの100年の平和の後ろ盾なのだ。
それが本当に失くなると言うのか。
そんなことが可能なのか。
日本は何をしてくるのか。考えるほど不気味さを感じる。
サッカーもそうだ。なぜこんなにも強いのか。
自分の理解を越えた企みをそのままにしておいたら危険だ。
それならばいっそのこと…今すぐなら破壊を実行して、もう一度初めからバランスを作り直せるのではないか…
いや、この短時間にその責を負う覚悟など持てようか。
重い。
世界の秩序を背負う重圧。
ひとり押しつぶされそうな思いをうちに秘め身を固くする。
リーズ大統領は孤独の中にいたままであったが、試合は前半をスコアレスで終了し、スタジアムは大歓声に包まれた。
ハーフタイムに、桐原総理は会見ブースの使用を予約していた。
各メディアが試合前半のリプレイや総括を終えると、そのタイミングを待って桐原総理が会見台に歩み寄る。
その表情にはいつもの穏やかさよりも、紛れもなくあの「飢え」が浮かんでいた。
後に「キリハラスピーチ」と呼ばれ人々の記憶に長く刻まれることになる、歴史的な演説が始まる。
『100年前。
我が国は世界で唯一、核兵器の被害に遭いました。
それから100年願い続け、
100年訴え続けました。
残念ながら今世界は乱れています。
それでも私たちは、その世界を建て直そうとしています。
どうやって?
今日の試合をご覧ください。
他にも、本大会の予選から、いいえ、その前から。
私たちはみな、このピッチの中で
ルールに従い行われる試合に望みをかけ、
選手たちは見事に応えてくれている。
私たちは国籍も宗教も思想も違う。
それでも同じルールで競い合い、分かり合い、
讃えあうことができる。
観客の皆さんも、映像を見る皆さんも、
報道で結果を知る皆さんも、
またサッカーに興味がない皆さんも。
そして私ども、国の責任を負う者たちも。
いま、思い知るのです。
新しい世界の秩序にはもう、破滅の兵器を駆け引きに使う必要など、
ないことを。
あの悲しみを、
あの痛みを、
もう誰も…誰ひとりとして思い知る必要はない。
正々堂々戦い、私たちは分かり合える。
縦105メートル、横68メートルのピッチで競い合う情熱で、
たった100分の1アール、たったの1平方メートルという小さな約束で、
私たちは、私たち平和国家日本は、
あの恐ろしい記憶を完全に過去の遺物として封印し、
新しい世界の秩序を、新しい平和な世界を
皆さんと共に作りたい。
それが私たちが100年かけて望んだもの、
私たちの父が、母が、祖先が
100年の世代を超えて
今を生きる私たちに託したものであります。
これから、まさに皆さんの目の前で
それが始まろうとしているのです。
さあ、サッカーを観ましょう。
さあ、互いを、全世界を讃えましょう。』
希求、渇望。その余韻を残して桐原総理が会見ブースを降りる。
地鳴りのような歓声が沸き、それを待っていたかのように両チームの選手がピッチに再び姿を現した。
朝倉は泣いていた。
いや、どの選手も通路で流れたこの演説に足を止め、胸を打たれて、この時のために人生を賭けてサッカーをやって来た、そんな表情をしている。
後半が開始、試合はより激しさを増し、両チームの死力がぶつかり合う振動を感じるかのようだ。
もはやスタジアムは波打つひとつの生物のようにうねりを生じていた。
ロビーも熱狂に包まれる。
そんな中、私はサッカーの戦況を見守りながら合図が来るのを待っていた。
試合の後半も残り時間が少なくなった頃、政府通信端末が重要なタスク提案の通知を表示した。
『TASK FOR「核廃絶」:今から6分以内に米大統領に面会//成功確率:7%//成功時進捗:85%』
来た。
私はこの時が来ることを予測していた。
ロビーの人混みの、その向こう。アメリカスタッフの警護や補佐官、その中心。世界で最も厚い警備の中にいるあのリーズ大統領に、私がいま、ここで直接面会するタスクが、センチアールから返されたのである。
桐原総理が魂の演説で作ってくれたこの好機にあって、少なくとも試合終了までにリーズ大統領に面と向かい、誰にも聞かれることなく、告げなければいけない。
そのあとは彼の、アメリカの判断だ。
誰かに伝達するのではだめだ。誰かに協力を求めるのも時間がない。
6分以内。思っていたより余裕がない。
試合終了までの残り時間から逆算すれば6分でもギリギリだ。
試合内容がクリーンで、止まる時間が少なかったこともあるだろう。だが要因の多くはセンチアールの分析に時間がかかったことだ。
モロッコからの譲渡により、思いの外多くの台数を稼働することができたが、それでも分析にこれほどまでに手こずるとは。
しかし技術者たちが全てを賭けて作り上げたセンチアールが、切り札となるデータを返してくれた。
いま、私が行くしかない。
このタスクに賭ける。
汗の滲む手のひらを握り込み、私は動きだそうとした。
しかし体が動かない。足が進まないのだ。
私は日本の防衛省出身のチームスタッフ。その私の振る舞いで全てが決まる。
あくまでここは、サッカーワールドカップの会場。スポーツの祭典だ。
ひとつ間違うとトラブルを招き、タスクの失敗どころか国際問題に発展する可能性もある。
いや、大丈夫だ。いつものように冷静に話せばトラブルなど招くはずはない。
だが、私はタリク事務総長を相手に冷静さを欠いて、危うく計画を破綻させる可能性もあった。
このタスクをやれるのか。世界を新しい秩序に推し進められるのか。この私に。
いや、選択肢などない。やるしかない。
国の後ろ盾も、理解者の協力も得られないまま、ひとりで行かなくてはならない。
怖い。
全身から血の気が引いているのがわかる。
人生を賭ける、そう決めたのに、体が強張り動かないのだ。
「一真、ハシとせんか」
どこからか祖父の声が聞こえた。
いや、試合に熱狂するロビーだ。声など聞き取れるはずはない。
私の記憶が蘇ったのか、他の何かなのか。
胸が熱くなる。血液が巡り、全身に温もりを取り戻す感覚だ。
私は一度だけ肩を上下させて息を吐き、目線を定めて歩き出した。
あのリーズ大統領へと向けて。
屈強な男が数名私に気づき身構える。
この喧騒だ。多少の小競り合いなら問題ないかもしれないが、そうなれば誤解を解いたところで彼らが大統領と面会を許すなど考えられない。
何より時間がないのだ。止まることはできない。
その時だ。護衛の男たちは何かに気づいた。
私に向けた視線を私の背後、日本スタッフや桐原総理がいる方に向けた。
少しの戸惑った表情を見せ、そして、立ち尽くすように道を開けた。
アメリカのセキュリティも、事務官や補佐官。この場に居合わせた者はみな感じているはずだ。
桐原総理が、我が国がこの大会にかける思いを。
我が国が渇望する新しい秩序を。
彼らもまた、このサッカーという文化に、平和への希望を賭けてワールドカップの開催地に名乗りを上げた。
アメリカスタッフは皆相当な苦労を背負って大会をここまで運営してきたはずだ。
その決勝の場で、桐原総理の演説によって本当に世界の秩序が大きく変わる、その可能性を実感した。
一人ひとり、感ずるところはあるだろう。この世界に生きるひとりの人として。
私が近づくと、彼らはその成り行きを受け入れるかのように身を逸らし、道を開け、通り過ぎる私を目で追った。
私は彼らが道を開けることを、ごく自然に受け入れていた。
ああ、分かる。私を後押ししてくれているのだ。
総理、スタッフ。
さらにそのうしろには、選手たち、それを応援する国民。
そしてこの100年を繋いできた祖先。
じいちゃん。
私はひとりではない。ひとりではないのだ。
私の背中に思いを託し、支えてくれる仲間がいる。
彼らに押されるようにして、私はアメリカの防衛ラインをひとり突破した。
日本の、アタッカーとして。
「君は?ジャパンのスタッフか?」
「リーズ大統領閣下。無礼ながらご報告させていただきます。」
リーズ大統領が怪訝な表情で睨む。
「何の用だ。」
「たった今、我が国がアメリカ合衆国に対して開催地CPを指定させていただく地点が決定いたしました。」
センチアールは国内に試作機を含めた三機、決勝トーナメント相手国の四機、モロッコから譲渡の三機。合計10箇所で同時に通信傍受と連携解析にフル回転していた。
原子力潜水艦航行通信、埋設通信網、現核兵器保有国通信網、海底通信ケーブル。その微弱な通信信号を傍受して高速通信で統合分析。
求めるものは全世界の核兵器を決定的に使用不能にできる「1平方メートル」である。
そして掴んだ極秘情報の断片を分析して、私にタスクを通知してきた。
私は分析結果通知が入った政府通信端末をリーズ大統領に示す。
「ここは、我が国アメリカの…」
「はい。この地点をCPとする事で全世界の核兵器をゴミにすることができる、そう分析結果が出ました。」
センチアールが示した座標、それはアメリカホワイトハウス内の極秘エリア、その一角であった。
世界の核兵器は、各国が独立して管理しているように見えて、その統制システムは世界にウェブ状のネットワークを構築していた。
核兵器の統制は、他の核保有国の動静に大きく影響される。
長年にわたる「恐怖の均衡」はこの保有国によるネットワークによって管理され、アメリカは、ホワイトハウスの中に、他国の発射システムをも停止できるほどの拠点を構築していたのだ。
そのこと自体は、センチアールの分析により早い段階で判明していた。問題は正確な場所の特定である。
秘匿のベールに包まれていた、すべての核兵器統制ネットワークが集約する最も重要な交差点。その位置をセンチアールは誤差1センチメートルで指定したのだ。
アメリカ合衆国の第一級秘匿事項であるその位置を特定されたのだ。リーズ大統領は大きな衝撃を受けたに違いない。
私は落ち着いて続けた。
「ご承知のとおり、ホワイトハウスは大統領閣下の居住地です。」
「ああ、うん、そうだな。」
「CPの規定通り、貴国には拒否権がございます。」
リーズ大統領は私を見据える。
「リーズ大統領閣下、桐原総理のスピーチをお聞きになられたでしょう。世界秩序を変えるのは日本でも、他の核保有国でも、その他の国でもありません。」
リーズ大統領と私。ふたりの間には、会場全体を包む歓声とは裏腹に静寂にも似た不思議な空気が流れていた。
「全世界が一緒に作るのです。貴国も一緒に。新しい世界の秩序を。新しい世界の平和を。」
リーズ大統領は胸を貫かれたように項垂れた。
「リーズ大統領閣下、顔を上げてどうぞご覧ください。サッカーは縮図です。世界はこのように在ることが可能なのです。」
国の大きい、小さいではない。豊かさ、貧しさではない。
同じルールで競い合い、それぞれの組織で、相手を尊重し、分かり合い称え合う。
確かにこのスタジアムではそれが体現されている。
世界もそうなのか。
ロビーから外を見れば、どうやっても否定することなどできない現実が証拠として突きつけられている。
「これが秩序…、これが、平和か…」
リーズは誰にも聞こえないつぶやきを飲み込んだ。
私は深く頭を下げ、その場を後にした。
決勝戦の激闘はあっけない幕切れを迎えた。
ブラジルのエースストライカーがハーフウェイからドリブルで持ち込み華麗にディフェンスをかわす。
まさにセンスと圧倒的スピード。
放ったシュートが日本のゴールを豪快に貫く劇的な決勝ゴールとなる。
試合終了。
サッカー王国ブラジルは数十年ぶりの優勝を果たした。
スタジアムはまるで咽び泣く声のような歓声に包まれ、それを浴びたピッチの両国選手は抱擁を交わした。
人々はみな泣き、歓び、感情を爆発させている。
朝倉はその中心にいて、スタジアム全体の光景をゆっくりと見回した。
汗も、涙も、情熱も、すべて出し尽くして負けた。
国の思惑、世界の秩序。背負っていたはずの大きなもの、それがどうなるかはわからない。
しかし彼の目に映るこの光景は、私たち日本チームがやってきたこと、我が国の先人がこの100年繋いできたことが間違っていなかったのだと実感するのに十分であった。
朝倉は晴れやかな表情をロビーにいる私に向けた。
ブラジルキャプテンが朝倉の肩を引き寄せ何かを語っている。
朝倉は少し驚いたような表情を見せ、その後満面の笑みを浮かべてハグを交わした。
ピッチで両国選手が、観客席でどの国の人もが入り混じる。
それはケヘルアレナに見た混沌とは違う、「国境のないゾーン」、美しい光景であった。
試合後の閉会式でリーズ大統領が短いスピーチを行った。
「決勝で勝利したのはブラジルである。
しかし、本大会で優勝したのは世界である。
アメリカ合衆国は、開催地として優勝者に賞賛と祝賀の意を表し、全ての国に対しCP権を贈呈する。
誠におめでとう!」
キリハラスピーチとリーズスピーチ。
今を生きる誰もが胸に刻むこの出来事を、100年後の人類はどう受け取るのだろう。
その時に私たちのこの思いはどのように受け継がれるのだろう。
あれから一年。
世界は変わり始めている。
サッカーワールドカップ代替アメリカ大会の熱が冷めやらぬうちに、モロッコ王国は世界の核兵器を一元的に管理する組織の発足を提案した。
これに賛同した各国の強い要望もあり、事務局を我が国の広島県に設置する方向で骨子が固まりつつある。
核兵器の発射権限の監視、 核弾頭の所在確認、解体・廃棄の監督、核物質の転用防止。
これからもセンチアールの活躍が期待される。
世界には多数のCPが出現した。
その多くはアメリカがリーズスピーチにより「すべての国に贈呈」した「優勝国CP」である。
各国はこぞってそれぞれ思い思いのモニュメントを設置し、アメリカ国内に多くの割譲地を手に入れた。
この一年にアメリカ側と何度も会談を持った桐原総理大臣は
「あれはね、言ってみれば血判状だよ。新たな秩序を自らも求めたという証だね。ああやって割譲を受けた以上、平和秩序を作るのに、どの国ももう抗えないよ。」
と教えてくれた。
「ロマンチストの部分があるのかと思ったが、やはり現実主義者だね。リーズ大統領は。」
にっこりと温厚な笑みを浮かべてこう語った。
「実に頼もしい。」
私が携わった仕事を象徴するCPがいくつかある。
太平洋上にぽつんと浮かぶ、虹色の光を放つタワー。
紅い柱状の本体には黄色い文字で「渇望世界和平」と書いてある。
南アフリカの希望峰には、その先端にレリーフが埋め込まれ、連日観光客が殺到する。
ベルギー、ヘンクのケヘルアレナスタジアムは日本企業が指揮を執って改築工事中である。
その敷地内に存在するレリーフは、美しい新ケヘルアレナのシンボルとなるであろう。
モロッコ、タンジェ・メッド港。ヨーロッパとアフリカをつなぐジブラルタル海峡の海上交通の要所は、モロッコ国王府からの短いメールで指定された場所だ。
座標が添付されたメールの本文は「ここを使え」それだけだ。
アメリカ合衆国ホワイトハウス。
その地下に敷設されたセンチアールの上空階、執務フロアの一角の床に四角のペイントが施された。
「ここに立ち入るには入国審査が必要さ」担当広報官はそう言ってニヤリとウインクする。
紹介したいCPがもう一箇所ある。
日本国、東京都江東区。
ここにあるサッカーグラウンドのコーナーのひとつは、違う種類の芝が植えられていることにより、はっきりと四角い区画が浮かび上がっている。
これこそがブラジルが日本戦勝利によるCPに指定した位置である。
試合終了後、ブラジルのキャプテンは朝倉にこう話しかけた。
「俺はこの試合で新しい世界のあり方を体感した気分だ。ジャパンはこれをはじめから目指していたんだな。感激したよ。我が国ブラジルは、ジャパンを目指したい。お前の育ったグラウンドを教えろ。祖国の子供たちのためにそこを少し貰いたい。」
朝倉は答えた。
「それなら夢の島だよ。それがいい。」
ブラジル、ファベイラのサッカーグラウンド。
裸足でボールを追いかける子供たち。
その一角だけ青々とした芝が植えられている。
子供たちの声が聞こえる。
「おい、その芝はジャパンだから入ると罰を受けるぞ。」
「でもこの間、日本の変なオッサンが自由に入っていいって言ってたよ?」
「ああ、あの『ガリ勉日本人』って感じのオッサンか!俺も見たよ。」
「あのオッサン、サッカーめちゃくちゃ下手くそだったよな!」
「そうそう!サッカーできないのになんでこんなところに来たんだろうな。」
「下手くそなのに楽しそうだったな。」
「日本人には変な奴が多いのかもな。」
「ジャパンかぁ、わたし、いつか行ってみたいなぁ…」
「なあに、大丈夫さ。ジャパンは地球の裏側だろ?この芝に飛び込めばひとっ飛びさ。」
ブラジル政府が申請して夢の島競技場から移植した、ファベイラの1センチアールの芝。
その土地に根を張り、少しずつ広がっていく。
そうしていつか、地球の真ん中を貫く平和のモニュメントとなるのであった。
「センチアール」 完
拙い文章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
改めて見返すと、構成力の低さが、各話の字数の偏りや読みにくさを招いていると感じ、せっかく読んでくださる皆さんに伝わりにくくなったと反省しています。
もう少し読みやすく構成を組み直したいな、とも思いますが、小説家になろうでは、現状このまま大きな改稿はやらないつもりです。
読みに来てくださる方が励みになり、最後まで投稿できました。
重ねまして、お読みいただきありがとうございました。




