第1話 無垢な約束
多分ざまぁ。多分。MAYBE!!
執筆リハビリなんで軽く書いてみました。軽い気持ちでお読みください。
シロツメクサが広がる野原の中で、亜麻色の髪の小さな女の子が座り込んでいた。年の頃は十二か三だろうか。背中まで届く髪は、シロツメクサに今にも触れそうだ。白いドレスが汚れるのも気にせず、少女は一心不乱に草むらを手探りで何かを探していた。
遠くから一人の男性が、一団を引き連れて少女に近寄っていく。優しい笑顔でひげを蓄えた男性が告げる。
「アリシア、なにをしているんだい」
少女が顔を上げ、笑顔で男性に振り返って答える。
「お父様! 今ね、四つ葉のクローバーを探していたの! ようやく一つ見つけられたのよ!」
人形のように小さな顔で微笑む少女が、元気に立ち上がって男性に駆け寄っていく。男性の背後にいる一団――金髪の精悍な顔つきの青年を筆頭にした若者たち。彼らも少女に微笑まし気な視線を向けていた。先頭の青年が少女――アリシアを出迎えるように手を広げた。
「ああ、愛しのアリシア。俺のためにそんなことをしてくれたのか?」
駆け寄ってくるアリシアを抱きしめようとした青年の手が、するりと逃げるアリシアを取り逃して空を切った。アリシアが微笑みながら告げる。
「いけませんわ、クラウス様。いくら婚約者とはいえ、婚前の男女がそんなはしたない真似をするべきではないと思うの」
そういいながら、アリシアは手に持ったクローバーを青年――クラウスの手に握らせた。
「はい! 幸運のお守りなんですって! 必ず生きて戻ってくださいね!」
「……ああ、無論だとも。敵はハルフター山脈に生息する魔王軍、その根城。東のグリューンフェルト王国が耐えている間に、俺たちが前線を迂回して敵の本拠地を叩く。なぁに、俺たちならやれるさ」
背後にいる背の高い物静かな青年が頷いた。彼のプラチナブロンドがわずかに揺れ、アリシアの視線がその顔を捉えた。
「……クラウス様、こちらの方は?」
「ん? こいつか。隣国、北のヴィンタークローネ王国からの助っ人だ。剣術では俺と互角。頼もしい奴だが、少し根暗でな」
アリシアがプラチナブロンドの青年の顔を見つめ、小首をかしげて尋ねる。
「あの、あなたのお名前を教えていただけますか?」
女性のような優しい顔つきの青年が、にこりと微笑んで答える。
「ヴィンタークローネ王国第一王子、ラインハルトです。今回の魔王討伐、私も同行することになりました。グリューンフェルトからも聖女アネットが協力してくれます。我ら四人、少数ですが精鋭ばかり。必ず魔王を倒し、生きて戻ってまいります」
アリシアの目が一団の中の紅一点、同い年ぐらいの少女に向かった。マロンブラウンの少女が、勝気な笑みを浮かべて名乗る。
「私が聖女アネットよ。聖魔法なら私の出番ね。神に祝福された私の力、魔王に見せてやるわ」
アリシアはアネットにぺこりと会釈したあと、ラインハルトに視線を戻す。
「ラインハルトさまも王子様なのに、魔王討伐に行かれるのですか? では、ご武運をお祈りしないといけませんね!」
アリシアが自分の体をまさぐるように手をあちこちに伸ばし、ふと耳に付けた銀の耳飾りに手が触れた。そのまま耳飾りの片割れを右耳から外し、ラインハルトの手に握らせる。
「お気に入りのイヤリングなの! 子供の宝飾品だから価値はないけど、私が持っている片割れの元に、きっと帰ってこられますように! ご武運をお祈りしておりますね!」
眩い笑顔を向けるアリシアの顔を、ラインハルトは目を細めて見つめ、頷いた。
「……確かに。必ず返却に戻ります。必ず」
アネットが退屈そうにクラウスに告げる。
「クラウス様、このままじゃ日が暮れちゃうわ。早く出発しましょう?」
クラウスが頷いて答える。
「ああ、そうだな――ラインハルト! 行くぞ! ではローゼンガルテン公爵、帰ってきたらアリシアとの婚姻だ。それまで誰もアリシアに近づけさせるなよ?」
男性――ローゼンガルテン公爵が困った顔で頷いた。
「わかっておりますとも。ではご武運を」
頷いた一団が公爵に背を向け、遠くに待たせていた馬車に向かった。その背をアリシアはぼんやりした眼差しで見守っていた。
「……お父様、私やっぱり、クラウス様と結婚するのでしょうか」
「王家からの要請だ。我が家に断る権利などないさ。おまえにはすまないと思うが、諦めてくれ」
アリシアが馬車に乗り込む一団を見守りながら頷く。
「わかっております。これでもローゼンガルテン公爵家の娘ですもの――愛しい第一王子殿下、どうかご無事で」
アリシアは神に祈るように手を組み、両目をつぶった。そんな彼女の祈りを受けながら、クラウス達を乗せた馬車が公爵邸から去っていく。それを見送った公爵の手が、優しくアリシアの背中を叩いた。
「さぁ、家に戻るよ。そろそろ昼食の時間だ」
頷いて目を開いたアリシアが、父親である公爵と共に歩き出す。歩きながら、アリシアが父親を見上げながら告げる。
「……お父様、私にも聖魔法は覚えられるでしょうか?」
公爵の眉がひそめられ、アリシアの小さな顔を見つめた。
「聖魔法? 何のために? 我が家には強い魔力がある。もちろんおまえにもだ。覚えようと思えば覚えられないものではないが、お前がそんなものを覚えてどうするんだい?」
「クラウス様たちが苦戦して戻ってこられたら、今度は私も一緒に行きたいんです! こんな非力な私でも、聖魔法が使えれば少しは役に立ちますわよ!」
きょとんとした公爵が、楽しげに笑い声をあげた。
「そうだね、それもいいだろう。覚えて損があるものでもない。おまえにどこまで習得できるかは分からないが、ただ王子の帰りを待つのも苦しいだろうからね。おまえの好きにしてみなさい」
「はい、お父様! ありがとうございます!」
公爵はアリシアの小さな背中を押しながら、公爵邸の中へと戻っていった。
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馬車の中でクラウスが退屈そうにクローバーを見つめ、開けていた窓から外に放り投げた。その様子を見ていたラインハルトが、咎めるように眉をひそめる。
「……なぜ捨てた」
「ふん、たかが草だろうが。あんなものに意味はない。俺様の抱擁を拒絶して、生意気な女だ。ローゼンガルテン公爵令嬢でなければ、首を落としてやるものを」
同乗していた老爺が微笑みながら告げる。
「殿下、そうおっしゃらずに。我が国にとってローゼンガルテン公爵家はなくてはならない血筋。王家筋の公爵家で近い年頃の少女など、他にはおりません。公爵の財力、兵力も我が国を支えるのに必要なもの。あの家に近づいて悪いことはありませんぞ」
クラウスの胡乱な視線が老爺――ルーカスに向けられた。
「そうは言うがな。別に伯爵令嬢でも何でも構わんだろうが。あんな頭の固い女、結婚後も退屈しそうだ」
クラウスの隣に座っていたアネットが、その腕に抱き着くようにして腕を絡めた。
「お高く留まった公爵令嬢なんて、どうでもいいじゃない。これからの長い旅、私がそばにいますわ。平民出身の私だけど、王子に退屈なんてさせませんわよ?」
まんざらでもないクラウスの顔を見て、ラインハルトがため息をついた。
「クラウス殿下、いくら我々しかいないとはいえ、婚前の男女が身を寄せ合うなど品がありませんよ」
「おまえも退屈なお小言か。フン、つまらん奴だ。剣術だけは腕が立つから連れていくが、余り俺に近寄るなよ。頑固が移る」
馬車の中を嘲笑のような笑い声が満たした。ラインハルトは再びため息をつくと、自分の剣を握りしめて窓の外を見た。その耳にある銀の耳飾りを片手で撫でながら、ラインハルトが呟く。
「……アリシア、か。可憐な少女だったな」
「盗るなよ、あれは俺のだ」
「……わかっている」
背後からのクラウスの声に、ラインハルトは憂鬱そうに答えた。
彼らの様子を見守りながら、老爺ルーカスが微笑んでいた。
――それから、三年の月日が流れた。
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