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平穏な暮らし

本稿は2026年9月に校正・編集をし直しました。

初稿では誤字脱字が多くあったことをお詫びいたします。


高原地帯の別荘で理想的な暮らしを始めた夫婦に何が起きるのか?


 蝉の鳴き声が一瞬途絶えた時、山間の湖は静まり返った。


 その時、男は自分の心臓も止まったように感じて、隣で同じように湖面を眺めている女の鼻筋の通った美しい横顔を確認し、すぐに湖面に視線を戻して唐突に言った。


「死ぬなら、ここで死にたいな……」


 女は驚いて

「何を言っているの?どこか具合でも悪いの?」といつもと同じ優しげな男の顔を見上げながら、急に不安になって尋ねた。

「いや、別にどこも悪くないけど、そんな気がしたんだ」

「やめて、そういうの・・縁起でもない」と言って歩き出した。

 しかし、実は女も同じ心境になっていたのだ。なぜ、そう思ったのかは二人とも分からないようだった。


 その数分後に、湖の反対側で二人の男がガサゴソと器具を段ボールに詰める音がしていた。


 男と女はその日の宿である湖のそばのペンションに戻って、先ほどの奇妙なやり取りを忘れたかのように笑顔でレストランでの食事を終えた。


 その夜、二人はいつもより激しく求め合い、そのまま眠りについた。


 その冬は例年になく寒い日が続いたが、沢渡拓真(さわたりたくま)と李祐(りゆう)は夫の勤務先である高井沢に中古の家を購入し、その地で籍を入れて一緒に暮らし始めていた。


 二人にとってはその冬の寒さは、特に酷いものではなく、結婚をしたばかりの二人にとってはむしろ暖かに感じる冬だったのだ。


 家の中では常にピアノを中心とした心が穏やかになるような音楽が流れていた。


 翌年の春、拓真は主任研究員に昇格した。

 かなり早い出世だ。


 彼は大手の音響機器メーカーの開発研究所に勤める研究員で、音響機器の人体に与える影響を研究しており、快適な室内環境を支える音響機器の新商品の開発を担当していた。


 李祐は山間の別荘地の一角にある彼女たちの家で、ピアノの講師をしていて、小学生から中学生の二十人ほどの子供たちにピアノを教えていた。


 少しゆるい感じの指導が彼女の爽やかで美しい見かけと相まって、子供達だけではなく父母からも人気があった。

 リビングに据え付けたピアノで、毎日午後三時ぐらいから六時ぐらいまでに五人程度の生徒への指導をする。


 それが終わると予め仕込んでいた料理に熱を加えたり、食器に盛り付けている頃に、夫拓真が帰宅するようなパターンだ。


 一日中穏やかな音がする平和な家だった。

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